『ユメウツツ』①/①

そういえば、今日は朝からついてなかったな。

出社早々、上司から理不尽に叱られる。
あれは改善のための注意なんかじゃない。
自分の思い通りにならない部下のせいで
周囲からの自分の評価が下がってしまったための単なる八つ当たりだ。
「お前、〇〇さんに〇〇〇したのか？そういう勝手なことするな。」
なんでだよ、誰がどう見てもあの状況ならそうするのが効率いいだろ。
理不尽すぎる。背景も知らずに表面だけ見て判断すんなよ。
「なんだ、不服そうな顔だな。反省してんのか？」
すみませんでした。
あぁ、もう。ついていけないわ。

帰りに会社を出たら雨。駅までの道を歩いてたら、すぐ横を通った車に水をはねられた。
おかげでスーツもカバンもびしょびしょだ。
ついてない。水をはねるのも人身事故と同じよ？
こっちがナンバー控えて訴えたら勝てるんじゃない？
知らんけど。

でも、駅のホームで見た人、なかなか美人だったな。
髪は黒のストレートで、服装も清楚系で。
横顔しかわかんなかったけど、キレイな顔立ちだったな。

あ、いけね。あの書類早めに処理しなきゃいけなかったな。
明日出社したら早めに手つけて片付けるか。

週末は彼女とどこ行こうかな。
最近犬が欲しいって言ってたっけ。
ウチじゃ飼えないし、彼女の家も実家だし
すぐには実現できないけど、動物園がわりに
一緒にペットショップ覗いてみるかな。
犬の種類とか全然名前覚えられないけど。
飼うなら従順で素直な子がいいかな。

そういえば、子供の頃学校からの帰り道に
いつも「なでてくれー」って言わんばかりに
すり寄ってくる猫がいたっけ。
あいつかわいかったな。今でもあの辺に住んでるのかな。
あぁいう猫だったら飼いたいよなぁ。
猫のしつけってできるのかな？

子供の頃は友達のウチでもよくみんなペット飼ってたなぁ。
ハムスター飼ってるAとか、Bのウチは亀がいたっけ。
Cのウチはなんかよくわかんないやつがいたよなぁ。
頭に1本ツノが生えてて、すぐ前足の爪が伸びるっていって
しょっちゅうCが手入れしてたな。
しっぽはフサフサで、よく背中に乗せてもらったなぁ。
乗り心地結構良かったんだよな。

今日は何本ビール呑んだっけ。
最近お酒に弱くなったかな。明日も仕事だけど起きれるかな。

子供の頃は、こんな大人になるとは思わなかったな。
30歳も近くなるのに、彼女も出来ずに一人暮らしを謳歌してさ。
「さよなら」って言葉が好きじゃないんだけど。
「また、」の方が好きなのに。
なんでみんな「さよなら」を言いたがるのかな。
定かじゃなくても、また会えると信じる方が素敵じゃん。
一期一会だけど、出会いは一生の宝物じゃん。
もう会えないなんて勝手に決めつけるなよ。
だから「さよなら」じゃなくて、「また、」って言いたい。
「またてん」て言いたい。余白を残したい。

うーん、赤ワインは結構まわるなぁ。
ボトル1本は無理があったかな。
でもおいしいんだもん、しょうがないじゃないか。
ってモノマネみたいになっちゃった。
ラーメン屋のぼっちゃんみたいな。

あぁ…。頭がぐるぐるする。
どこまでが現実で、どこからが夢だ？
もう夢か？もう明日か？
いま何時だ？もう2時だって。あと2回は二度寝できるな。

「ねぇ、サカイくん。」
「…ん？」
「もうお昼休み終わってるよ。」
「んあ！うそ！」
甘くひっそりとした声が、静かに耳に染み込んでくる。
仕事の昼休みに、少し仮眠のつもりがしっかり眠ってしまっていた。
デスクが少し濡れている。口から少し垂れてしまっていたようだ。
「いけね！書類！」
今日の14時が提出期限の書類は濡れていない。あと少しで片付きそうだ。
その後は打ち合わせ、そして夜には…彼女とのつかの間のデートだ。
最近開拓した、いいお店を予約してある。
きっと彼女も喜んでくれるに違いない…。

ブブブブンンン…
新聞屋さんのバイクの音がワンルームに響き渡る。
時計は5時14分

また今日も、うまく眠れない