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すばらしい人間部品産業 アンドリュー・キンブレル (著), 福岡 伸一 (翻訳)

「特別な病気にかかったことのある人の血は、より高価な値段で売れる。特異抗体が含まれているから。精子や卵子は、余剰として商品価値を持つ。特定の遺伝子に特許が付与され、全人類に共有されているはずの遺伝子が一企業の所有物となる。動物のからだが、薬品を製造する工場として利用される」(あとがきより)

 知らないこと興味深いことばかりで、あまり上手にまとめきれていないのですが、気になった方はぜひ読んでみてください!英語版は1993年に出版されたようです

第1章 血は商品か

 アメリカでは血液企業が供与者に対して報酬を支払うのは合法である。

 自分の血漿を売っていた主婦が、交通費などの経費について国税庁と争ったときの審判所の回答(1976年)↓

申立人の血液が希少価値をもつので、そこから血漿を製造し製品化することが営利行為となりえた。これは、ちょうど他の企業が鶏卵や蜂蜜や牛乳や羊毛を買い取って、加工・販売することにより利益を得るのと同様である。確かに人体を神聖なものとする感覚は伝統的に存在するが、申立人の血漿の販売をして、ことさら他の天然から採れる原産品の販売と、法的にこれを区別するに足るいかなる理由も見出すことはできない。

P-41

第2章 臓器移植ビジネス

 1987年アメリカで、無脳症の乳児を死亡する前に法的に「死んでいる」と定義することで、臓器を有効活用しよう動きがあったが裁判所はそれを退けた。

無脳症の事例は最前線の一例であり、最前線は常に前進する。次に来るのは、不可逆的な昏睡に陥った成人を利用しようという考え方であり、その次にくるのはアルツハイマー病の患者を利用しようということになる。

P-68

 脳の「高次」機能を失った場合でも、死とは定義されていない。もし死の定義を拡張して、脳の高次機能を失った場合を含めることができれば、臓器提供に適した「死体」を何万も増加させることができる(多くの人はこれに反対している)

第3章 胎児マーケット

医療分野ではじめて胎児組織の利用に成功したのは、1950年代、胎児の腎臓をポリオワクチンの開発に利用したことである。

P-77

 1988年デンバーに住む52歳のパーキンソン病患者の脳に、胎児から取った脳組織が移植された。脳内へ移植された組織にドーパミンを産生させることが目的で、手術後数ヶ月で記憶力の向上、動作の改善などが見られたが長期的な改善については不明瞭。1992年時点で、世界中で100例以上の胎児脳組織の移植手術が実施されている。

 1990年までに、アメリカの38例を含む600人の糖尿病患者が胎児の膵臓の移植を受けたという。さらに300例の患者が胎児肝臓の移植も受けている。

移植を熱心に支持する人々ですら、パーキンソン病やその他の病気の治療法として、胎児組織を使用する方法の有効性は、まだまだ十分証明されていないことを認めている。

P-78

アルツハイマー病の父親をもつある女性は、父親の精子を用いて人工授精したいと願い出た。これによって遺伝的に適合した胎児細胞を得ることができ、父親の治療に使えるというわけだ。
また別の例として、重度の糖尿病患者のある女性は、自ら妊娠したいと申し出た。胎児を中絶し、そこから得られる膵臓細胞を自分に移植して病気を治したいと思ったのである。

P79

 胎児を治療に使用する目的で意図的に妊娠することは現時点では認められていないが、これもなし崩しになっていくだろうと多くの専門家がみている。
 1991年に白血病の11歳の娘を救うために「適合する骨髄を供給する目的で弟を作った」夫妻の発言が有名になったあと、10人を超える母親が現在育てている子供の病気を治すのに必要な骨髄や臓器を得るために妊娠した、と報告されている。

第7章 胚は人間といえるだろうか?

 凍結保存された胚の両親が死んだり離婚したりした場合、どのように扱われてきたか、さまざまな事例が紹介されている。

17の国で、胚や試験管内受精の研究に関して何らかの法規制を設けているが、胚の商品化を特に禁止しているのはスイスだけである。胚の所有権の問題を特に定めている国はない。

P-138

第8章 出産機械の誕生

 赤ちゃんブローカーは認可を受けておらず、法律に従って仕事をしているわけではない。代理母の契約数や出産数などの記録を持っている政府機関はどこにもなく、流産、性病、ホルモン投与、人工授精の失敗例などのデータも全く集められていない。

 ある依頼人夫婦は、出産予定2週間前になって子供が男の子の場合は引き取らないと発言。双子のうち女の子だけを引き取り、男の子は養子縁組に出された。しかし代理母は訴訟を起こし、双子を二人とも引き取ることに成功した。

第11章 他人に差をつける薬

 1980年代、遺伝子工学によりヒト成長ホルモンを大量生産できるようになった。そのためスポーツ選手がステロイドと共にドーピング薬として利用したが、副作用=がんの成長促進により腫瘍に冒された例が数多く報告され
た。

 ヒト成長ホルモンは、実際には小人症の治療にのみ認可されているのだけれども、一部の企業により背の低い子供に注射するサービスが提供されている。下位3%の身長の子供がターゲットとされ定期的に注射をするのであるが、背が高くなるのかどうかのエビデンスもなく、副作用の危険も大きい。

病気ではないものを「病気」としてしまうこと自体、倫理的に大問題である

P-222

追記

日本での事例について見つけた記事

「死亡胎児の組織利用をめぐる倫理的問題」https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/eth/OJ_files/OJ2-2/mori.htm


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