グッバイ、オールドマン
「親父ィ、死んでくれ」
銃口が私のこめかみに向けられていた。
5年ぶりに再会する息子の姿。
酷く痩せこけて骨と皮ばかりの相貌。その中で縦に裂けた金色の瞳だけが爛々と燃えるようにギラつき異彩を放っている。
蹴破られた書斎のドア越しに倒れている、頭部を撃ち抜かれた部下の死体を見るにどうやら伊達や酔狂ではないらしい。
「なっ──」
連続する銃声。
3発の弾丸が、私の頭蓋に叩き込まれた。反動で椅子から転げ落ちる。
「……」
が、すぐさま無言で立ち上がり、片手で肩に付いた埃を払った。
再度銃声。
心臓に弾丸が埋まる。
たたらを踏み、しかし、今度は倒れない。
ゆっくりと口を開く。
「二度と、私の前にその姿を現すなと、」
目前へ放られた大瓶。
宙で撃ち抜かれ、中の液体が頭上から降り注ぐと同時に燃え上がった。
「そう言ったはずだが。忘れたのかねリチャード?」
皮膚が、肉が、焼けて剥がれ落ち、下からチロチロと黒い炎が溢れ始めた。もう、この『皮』を被る意味もないだろう。
「カタリナ、を……」
顔面の弾痕を指でなぞっていると、ふと息子の呟きが耳に入る。
「カタリナ?」
虚ろな声色で呼ばれたそれは確か、息子の恋人の名前。
押し殺したような声で呻く息子の両眼から、真っ赤な血涙が流れていた。
「カタリナを、ああ、アイツを、ああ……!
よくも殺しやがったなァ……俺の、妻を……ッ!!」
突然、零れる血涙に火が灯る。
次いで眼球から青白い火が迸った。顔を覆い絶叫する男の手の隙間から火の粉が漏れ、あっという間に全身に燃え広がる。
「ッ! これは……」
部屋に吹き荒れる青色の炎。
全身を火柱と化し、皮も肉も焼き尽くすリチャード。
白い骨と金の瞳だけが、蒼空に浮かぶ雲と太陽の如く火中に佇んでいた。
「……いつの間に与えられたのやら」
眼窩からとめどなく流れる青い炎を身に纏う骸骨。
これが息子の、悪魔としての姿形。
可哀想に。よほど悲惨な死に様だったか。
「許せねぇ。親父も、俺も」
【続く】