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天の尾《アマノオ》 第7話   ――『草獣少女』VS『凪和人』――#3

第6話 目次 第8話

★★★

思わず後方に跳ぶがこれは――避けられない。

辛うじてナイフを避けた俺に、大本命。槍の一撃が炸裂。
ど真ん中、腹部の中心一直線に槍が吸い込まれていった。刺突は毛布の上からなされたが、布一枚で止まる威力ではない。

が。

硬質な音が夜に響く。ポポラの顔が一瞬驚きに染まった。
――っ、ぶねえええええ! でも上手くいったァッ!

槍の先端はゆるいローブの下、俺が懐に二重に隠していた木の器に食い込んで止まっていた。外に出る時にパクってきたお椀2つ。気休め程度のつもりだったのになんて頑丈さだ。後ろに跳んだことで突きの威力が減衰していたとはいえ、割れなくて本当に良かった。

仰け反った身体が重力に惹かれる。
その流れに逆らわず、上半身は倒れるがままにする。
当然立つための姿勢が崩れるが、これでいい。これがいい。
身体が完全に浮いているこの状態ではどうせまともに着地はできない。そも、両腕のない俺では上体を立ててもできることが少ない。手がない今、俺に使える唯一の武器は、足。
特に左足だ。右足は膝が発する痛みの信号で使い物にならない。

右足を長槍に沿えるように置き、左足を引く、一瞬で引き、引き絞る。ここで失敗すると死ぬから加減とか考える余裕はない。

「ふぅぅんんんッダらぁああああああッッ!!」

ガッッッッ、バキィィィィィィィンンン―――

雲のない比較的明るい夜に、月光を反射する緑の煌めきが回転の軌跡を残しながらスッ飛んでいった。『く』の字に曲がり折れた槍の姿は点となって消える。大気を裂く断末魔の悲鳴にも似た回転音も瞬く間に遠くに離れてゆき、今、少女の持っていた長槍の痕跡は両者の戦いの場から完全に消失した。

正直、蹴り飛ばした俺自身が驚くほどの勢いだった。火事場の馬鹿力という奴だろうか。

「……っよーし。どうだポポラ。さっきのがお前のメイン武器だろ? ナイフごときにやられる俺じゃないし、これでもうお前には俺を殺せない。俺がお前を傷つけることもしない。戦いは終わりだ」

寝っ転がった状態から、起き上がりの反動を利用して立つ。右肘をビシリとポポラに突き付け、俺は戦いの終了を告げた。終わりだ。終わりであってくれ。槍二本目とかはやめて頂きたい。今ので左足も若干痛い。もし出したらもう逃げるからな。

「……あは、あはは、なに今の。蹴り? ……だよね。上に蹴り飛ばしたの? ナワトお兄ちゃん。すっごい……ボクのレプティがお星さまになっちゃった……」

未だ上空を見上げたまま、あんぐりと口を開けて自分の得物が飛んで行った方向から目を離さないポポラ。10秒程してからようやくゆっくりと俺に向き直った。観念したように目を閉じている。

「……完敗だよ、ナワトお兄ちゃん。わかった、終わりにしよう。ボクの負けだ。今日の戦いはここまでにするよ。多少は欲求も満たせたし、お兄ちゃんの事は諦めよう」


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