天の尾《アマノオ》 第10話 ――『回復《ヒール》のポポラ版』――
★★★
「うーん、それは……」
うんうんと唸っている。
「……なんというか、ムカデさんを直で見たわけじゃないから何とも言えないけど、ナワトお兄ちゃんにも勝ち筋はちゃんとあるんじゃないかな。ナワトお兄ちゃんなら……蹴り殺すとか? さっきの蹴りは尋常じゃなかったよね。とっさに手を離してなかったらボクも両手が吹っ飛んでただろうし」
「……マジか。それは、危なかった。離してくれて良かった。必死だったからポポラの怪我を気にする余裕なくってな」
「ふふ、決闘相手なんだから、そもそも気にする必要なんてないのに……そういえば怪我と言えばナワトお兄ちゃん、右足大丈夫なの? レプティは毒槍だから一度切った箇所はその後一週間は耐えがたいほどの激痛に苛まれるはずなんだけど」
どおりで何時まで経っても右足の膝がクソ痛いわけだ。
浅い、非常に浅い傷なのに異様に痛覚を刺激する。
気が動転しているせいかと思ったけど違ったのか。
切られた直後ほどではないが、俺の傷口付近は未だ絶叫を上げている。これが後一週間だと。睡眠も満足に取れないであろうこの痛みが、あと一週間、だと?
「げ、解毒薬とかは」
「あ、やっぱ一応は痛いんだ。もしかして全く効いてないのかと思ったよ。解毒薬はない。作れはするけど、それも工程が長いから結局一週間はかかるかな」
時折目を向けて確認しないと、無数の虫に足の肉が食い荒らされているんじゃないかと心配になるほどの痛みが、どうあがいても一週間は続きそうなことがわかった。辛い。
渋い顔をしていると、ポポラがおずおずと言った様子で口を開くのが見えた。
「ボクの使える……えっと、決闘で勝ち取った『力』で、解毒できるものがあるんだけど、直接手で触れる必要があるんだ。だからその、まだ警戒して当然だとは思うんだけど、あの……そっちに行っていいかな」
「……あーそうだな」
少し逡巡する。
不意打ちの可能性はまだあるだろうか。ないと信じたい。しかし保証はないのだ。
「んー……」
保証はないが、果たして今のポポラがその『力』とやらを使って俺に危害を加えられるのだろうか。解毒と言いつつ更に毒を重ねてくる可能性はある。
「具体的に、どんな力なんだそれは。大雑把な分類でいうとなんだ。『力』っていうからには道具じゃないとして、魔法か、気功か、心術か、真言か、奇跡か、召喚か、ESPか、スキルか、それ以外の何かか、とか」
聞いてみる。
「……ッ。 うーん、体力を消耗する代わりに自分の身体の傷や状態異常を治す、みたいな力かな。分類は魔法に入るのかも。基本ボク自身にしか効果はないんだけど、指を切ってボクの傷口を他人の傷口に押し当てればその箇所から相手も癒せるんだ。前に一回やったことがあってさ」
ポポラは左の人差し指を口に含むと、ピッ、と皮膚を小さく噛みちぎった。傷口を上に向けたまま俺に見えるように手を差し出す。
見ていると皮膚から血液が滲みだし、小さな赤い玉が皮膚の上に形成されていく。どんどん大きくなり、ついに表面張力に負けて地面に滴り落ちていった。
「《体力の極小を捧げる》」
――Cure-Magic《ポポール》――
脳内にアナウンスが響いた。次いでポポラの指先にじんわりと小さな光が灯り、消える。指を振って血を飛ばすとそこにあった傷も消えていた。
なるほど、これがその『力』。
知識にない名称ではあるがおそらくはスキルの類で間違いなさそうだ。しかし、脳内でシステム音声付とはいかような理由があるのだろうか。
「……わかった。じゃあ、お願いしていいか」
ポポラが俺に危害を加えない証明にはならないが、彼女に実際に怪我を治す類の力があるのはわかった。ならもう頼んでみよう。彼女が傷を治してくれることに賭けよう。好意を無駄にはしたくないし、この痛みは実際耐え難い。万一また危なくなったら今度こそ何が何でも逃げる。
「……うん、ありがとうナワトお兄ちゃん」
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