自動車狂歌

「早まるなおじいちゃん」
「帰ってこいハツ」

サーキットにはおよそ似合わぬ横断幕が悲しく踊る。
無理もない、これから始まるのはおよそ世界初の凶行。サーキットには16人のドライバー。全員が後期高齢者、それも85歳以上だ。
全員が愛車と半ば融合し、生命維持装置を組み込んでいる。降車すればほぼ確実に死ぬ状態である。
何が始まるのか？
無論、耐久レースだ。

嫁に、孫に、世間に。免許を返せと叱られた。
知るか。
いくつになっても運転には絶対の自信がある。
同期は高速を逆走し、後輩はコンビニにバックで突入した。
まさか。
わしに限ってそれはない。断言する。
ホームで萎びて死ぬくらいなら、サーキットで果てるほうがましだ。
　
永山巳代治には自信があった。
参加者中唯一の元プロレーサー。ル・マン経験者。いくつになっても、サーキットでアマチュアに負ける謂れは……ない。

　【1日目昼に続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞