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陽光装姫ソルバトーラ・新章 動乱篇

敗走は、これが初めてではない。
鎧鬼衆が一人、咬鬼は絶たれた右腕の止血を図りながら思い出していた。
頭領に魎鬼を迎え、組織の体裁を整えるまで3年。ヒーローに加えヴィラン・クランとの争いも制し、港湾地区を押さえるまで更に2年を要した。
このまま行けば、代替不可能な悪としてこの街に根を張れる。半月前までは、そのプランも正しかった。

見つけたぞ、鎧鬼衆三の槍
もはやここまでか。咬鬼は振り返り、仇敵の姿を見た。
魎鬼を筆頭に筆頭七本槍の内五名を半月の内に殺し、その間にバルクヘッズなど3クランを滅ぼした元凶。
かつて「不殺の日輪」と呼ばれた陽光装姫・ソルバトーラ。
……つまり、昔の同級生を。

「鎧鬼衆も残すはお前のみ。岳鬼は先に三途の川を渡ったぞ」
どさり。
投げ捨てられた生首は、確かにかつての同胞。
「……本当にお前は、不殺の日輪なのか?」
場違いな疑問が、動揺した鬼の口を吐く。
エコーのかかった声。気品ある構え。それらは何も変わらない。変わらないのに。
「昔のお前はどこへ行った!?」
装姫のたじろぎを、彼は見逃さなかった。
「生かせど許さず、倒せど殺さず……そう言ってたのは誰だ!一人一人の首を刎ねてアジトを焼く、それがお前のやることか!ソルバトーラ、いや……あきら!」
「……ソルストリーム・ディスチャージ」
僅かな沈黙の後、彼女の右肘から先が赤熱する。
「問答無用か……!鬼豪戟・乱突」


全ては一瞬だった。装姫は急接近と共に右腕を引き、鎧の接合部を突きながらソルジャベリンを無数に生成した。
「ガッ!?」
咬鬼は串刺しのまま、高く掲げられる。
「てめぇ、誰、だ」
鬼の一突きで割れた面の下には、見知らぬ少年の貌があった。
「あの人を殺した街を、私は……、僕は、許さない」
震えた声、泣き腫らした目。
「ヴィラン・クランも警察も関係ない」
消えゆく意識の中、鬼は『ソルバトーラ』の宣告を聞いた。
「僕が、ソルバトーラが、この街を殺す」

【続く】

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