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街コンに行ったはずの俺たちが、いつの間にかおっ〇ブに辿り着いていた件


1.導入

全てはダブルブッキングから始まった。

マチアプの予定を3日前に控えたある日、突然相手から連絡が来なくなった。ここまで来て、ドタキャンか。会ったこともない人のドタキャンは慣れているのだが、2回目のデートをドタキャンされるのはやはり辛い。お互仲良く連絡を取り合って電話もしていたのだから尚更だ。

そうだ、もう街コンにでも行こう。先日友人Uが、街コンが気になっているといっていたのをふと思い出した。実際、マチアプは競合が増えて飽和してきている。この際新しい恋愛イベントに顔を出してみるのもいいのではないか、そう思った。即断即決でUを誘い、二人で街コンに申し込んだ。

するとどこで歯車が狂ったのか、予約した3時間後にマチアプのお相手から返信が来た。「忙しくて返信できなかった、お店決めてくれてありがとう」とのこと。これはまずい。すぐにUに連絡をし、街コンに行けなくなったと伝えた。するとUはこう答えた。

「お前は友情と引き換えに、叶うかもわからん愛を取るのか?」

間違ってはいない。マチアプが上手く行きそうだったとは言え、付き合うという確証はない。不確実な愛を取って、友人を一人で見ず知らずの場所に置いていくのは申し訳なく思えた。それにもう街コン参加費5500円は払ってしまっている。友情と恋愛。大きな分岐点に立っていた。随分と悩んだ末に決断した。

「俺はお前との友情と新しい出会いに全てを掛けるよ」

今思えば、ここで既に50%の賭けに負けていたのである。ちなみにマチアプのお相手は、俺がデートの延期を申し込んでから返信が途絶えた。

2.街コン

希望に満ち溢れていた二人を待ち受けていたのは、現代社会の闇そのものだった。

まず同世代が一人もいなかった。20代メインと聞いていたのだが、参加者は30代前半ばかりだった。卓を囲って仕事の話をする。営業がどうとか、ルーチンがどうとか。好きなお笑い芸人の話になったかと思えば、出てくるワードは島田紳助にへキサゴン。大学院生の二人にとっては当然話も価値観も合わない。

100歩譲って年齢と置いておくとしても、見た目と中身も難ありだった。ただ飯ただ飲みを楽しむことに没頭して会を一人で取り仕切るB〇A、ちょっと周りより見た目が良いだけなのに殿様レベルで高飛車なヨガイントラクター、その他お淑やかそうに見えて値札を出すつもりなんて微塵もない女性たち。恋愛なんてもってのほかだった。

二人で閉会後すぐさま会を抜け出し、大通りへ向かった。そこでUは呟いた。

「終わった、何もかも、、、」

彼は参加費5500円をどぶに捨てまいと酒を飲みまくり、無事出来上がっていたようだった。肩を組み、俺らはまだ終わってないと元気づけた。

そう、決して終わってなんかいない。なぜなら自分たちが一番若かったからだ。終わっていたのはあの場所そのものだ。あと数年で仲間入りしないように、今から頑張ればいいのだ。むしろ5500円払って真摯にマチアプを頑張るモチベを貰えたのだから、最早収支プラスと言っても過言ではない。もう一度Uを元気づけた。

すると、Uがおかしなことを言い出した。

「俺たちは今地獄を見たんだ。歌舞伎町で夢を見て帰りたい」

後のことを考えれば、間違いなくここでUを止めておくべきだった。でも、Uの言葉が釣り針のようになって心のどこかに引っかかった。

そもそも今日はデートの日だった。久しぶりに上手く行きそうだったマチアプ、今日から自分も落ち着くんだとそう思っていたのに、街コンに来てしまった。不確定だという理由で上手く行きそうな道を踏み外し、なぜかもっと不確定なイベントにコマを進めた。そして、大外れを引いた。

彼を諭しながらも、心の中では悔しくてたまらなかった。こんな意味の分からんイベントのために俺は恋愛という大きな人生の買い物を犠牲にしたという事実が許せなかった。自分のせいだというのも分かっている、運が悪かったというのも分かっている。不甲斐ない自分を哀れみ、神を呪った。

「馬鹿野郎」

Uに向かって最大限の同意を込めて返した。

街コン後のストーリーズ、この時点では何も負けていない

3.歌舞伎町 前編

「今すぐに女の温もりを下さい!!!!」

気付けばUと二人で無料相談所で懇願していた。紹介人の人たちもげらげら笑っていた。情けないが、二人とも社会の闇に打ちひしがれて藁にも縋る思いだったのだ。ちなみに無料相談所に行ったのは、風〇狂いの知人から散々「困ったら無料相談所に行け」と言われ、その信頼性の高さを認識していたからだ。

プレイと値段のバランスから、おっ〇ぶを紹介された。紹介人に付いていくと、銀座の高級バーと言って差し支えないくらいのお洒落な店に辿り着いた。

受付で料金システムを真剣に聞く二人。なるほど、本当に40分6000円スタートらしい。自分たちのドリンクは無料だが、キャストのドリンク、指名料で加算していくシステムの様だ。まあこれなら安く遊べるだろう。学生の出せる丁度いいレベルの金額だ。料金に納得した二人は案内に従い、健気にマウスウォッシュをする。期待に溢れながら口をゆすぐこの一瞬の沈黙を顧みて、1年前の吉原を思い出した。また、夢の国へ帰って来たのだ。

準備を終え、中に案内された。薄明かりと独特な甘い香りに魅せられながら中へ入ると、際どい服のお姉さんたちがたむろしていた。異世界のような空間に心をときめかせながら、Uと二人で着席し、女性が来るのを待った。

1分もしないうちに一人の女性が自分の横に腰かけた。「初めまして」と挨拶をするや否や、女性がスッと身を寄せる。おそろしく速い密着。女性は名刺を置き、レンカと名乗った。とてもいい名前だ、そう思った。

するといつの間にか、反射的にレンカの胸に手を伸ばしている自分に気が付いた。驚いて手を止める。何をやっているのだ自分。こういうのは久しぶりとは言え、あまりにも失礼すぎるではないか。

いや待て、何を言っている。自分は今客だ。金を払っているこの場においてルールも順序も存在しないじゃないか。愛と愛を交換しに来たんじゃない。夢を買いに来たのだ。

金に全てを委ね理性を捨てることにし、レンカにむしゃぶりついた。互いに酒を飲み、口づけをし、レンカの胸を嘗め回した。すると返しにレンカが耳の奥に舌を入れた。じゅるじゅると卑猥な音が耳の奥に響き渡り、ぞくぞくっとする感覚が体全体に染み渡る。思わず赤ん坊のような声が出た。

レンカに夢中になっていると、気付けば40分が過ぎていた。ボーイが延長を尋ねて来た。したいのはやまやまだったが、その気持ちをぐっと堪え断った。するとボーイがお会計の伝票をスッと渡して来た。

「お会計合計59000円です」

????????????????????????????????

頭が真っ白になった。予想をはるかに超える金額だった。一体何がどうなってこの金額になったのか、どこで間違えたのだろうか。するとレンカがこういった。

「隣の子、もしかして物凄い高いお酒頼んでいるんじゃないかな?」

Uの卓を見ると、ありえない量のショットが置かれていた。後々銘柄を聞くとそれもまた随分と高い酒だということが分かった。Uは自分以上にお姉さんに魅せられて、言われるがままにお酒を頼んでいたらしい。配分は自分が14000円、Uが45000円だった。自分も知らないうちに指名してしまっていたらしく少し高く取られた。

4.歌舞伎町 後編

店の前で座り込み絶望するU君(掲載許可済)

「終わった、何もかも、、、」

流石にもう否定できなかった。街コンの損失なんて最早かわいく見えて来た。しかもよく聞くと、Uはプレイも全然してもらってないらしい。店に行く経験がなかった故に、金だけ巻き上げられ何もねだれなかったのだ。

Uは訳が分からなくなり、歌舞伎町の通路に座り込んだ。肩を組み、二人でで空を見上げる。二人の心境を表すかのように真っ暗だった。

「もう帰ろうか」

そう言った瞬間、Uが俺をビンタした。

「馬鹿野郎、こんなとこで終われるか。4万という大金を払った俺に、怖いものはねぇ。歌舞伎町を遊び尽くすんだ!!!」

Uはとち狂っていた。

だがその時、Uのビンタで頭の中のどこかで何かが弾けるような音がした。
叶うかもしれなかった甘い未来、自ら道を踏み外したことへの後悔、愛を求めて大金を失ったUへの同情、その全てが泡となって弾けて消えた。何だかもう、色んなものがどうでも良くなった。

二人で酒を入れた後、また無料相談所に行き更に2軒のガールズバーを巡った。

1軒目のガールズバーはこれまた天国のような場所だった。カウンターに席に座り、目の前にいる和服の美女たちと共に酒を飲む。スタートが40分3000円で、女の子の酒代で加算していくのはさっきと同様だ。二人でさっきの失敗をぶちまけた。「金は使ってナンボだよ~」と笑顔で返す彼女たち。綺麗な女性に言われると、不思議と正しいように聞こえてしまう。歌舞伎町の経済を回すのも、なんだか悪くない気がしてきた。

特に印象的だったのが、Uが釘付けになっていた一人の女の子だ。強すぎない地雷系メイクに猫のような声、極めつけに中々ディープなアニメトークもこなすオタクキラーだった。話を聞くとどうやら元配信者らしい。なるほど、こりゃ人気が出るわけだ。彼女のインスタのストーリーズを見ると、その子の写真が入ったオリジナルシャンパンまで作られていた。闇が深い。

一軒目。こじんまりとしている分、キャストを間近に感じられる

と、この店は良かったのだが、問題は二軒目だった。1軒目でテンションが上がり少しスケベなガールズバーに行ってみたくなった。ここが地雷だった。

まずキャストの見た目が突然悪くなった。勿論かわいい子もいたのだが、全体的に見るとさっきとは比べ物にならないくらい悪かった。いや、むしろさっきの店が良すぎたのかもしれない。とりあえずコスチュームの際どさだけに目を向け、他は目をつぶることにした。

カウンター席に着くと、さっきと同様2人ペアのキャストが話し相手になってくれた。とりあえず、さっきと同じ話をするかと思ったその瞬間、ふくよかなキャストのマシンガントークが始まった。ああ、これがガールズバーのコミュ力要員というやつか。場のテンションに合わせて酒を流し込む。いったい何のために酒を飲んでいるのだろう。

すると女の子が酒をせがんで来た。仕方なく1杯だけ奢る。さっさと飲んで終わりにしたかったのだが、何故か飲みゲーが始まった。女の子のグラスが空になり、今度は「飲んでいいよね~?飲むね?」とせがみもせず2、3杯目を注ぎだした。後々考えればこれ半分詐欺だったのではなかろうか。クソみたいなTipsだが覚えておいてほしい、コスチュームの際どい店はその分キャストの質が下がる。

そんなこんなで夜のディ〇ニーランドは終わった。結局二人で合計10万を歌舞伎町につぎ込んだ。残念ながらこの話はバッドエンドだ。

最後に2軒目のバーでリクエストした、妙に沁みた曲の一節を書いて締めようと思う。

「ママレード & シュガーソング, ピーナッツ & ビターステップ
甘くて苦くて目が回りそうです
南南西を目指してパーティを続けよう
世界中を驚かせてしまう夜になる
I feel 上々 連鎖になってリフレクション
Goes on 一興去って一難去ってまた一興」

言わずもがな終電を逃し、千鳥足のビターステップでUの研究室へ向かった。

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