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「怪物はささやく」(小説)がささやいてくる

主人公コナー・オマリーのおかれている状況は深刻だ。シングルマザーである母の病気、いじめ、気の合わない祖母、あてにならない父。そこに、怪物がやってきてこう言う。自分は3つの物語をする、最後の1つはおまえが話せ、と。
怪物の話は、2つめまではよく理解でき、共感もできた。また、母親とのやりとりも仲の良い親友どうしみたいで、いい距離感があった。3つめは現実とリンクする。いじめ主犯のハリーは言う。もうおまえのことは見ないと。ハリーのいままでの思わせぶりな行動はここに行き着く。どうしたらコナーをもっとも痛めつけることができるのか、ずっと考えていたのだ。わたしは、ハリーと怪物が何かしらリンクしていると思ったのだが、そうではなかった。また、最大のいじめが無視かあ。暴力のほうがマシなんてあるのかなあ。
 そして、コナー・オマリーのもう1つの本心。母に「行っちゃやだ」ということ。話をひっぱってひっぱって、最後のこれは拍子抜けすぎた。それまでがおもしろかっただけに。たしかに母の死がこわくてすねた態度をとったりもしていたが、別に仲がこじれた、というほどでもない。怪物の助けを借りてまでしないと言えないほどではない、と思うのだが。
 あともう一つ、あれ?と思ったこと。母は、離婚の条件に、どうしてもイチイの木の見えるあの家が欲しいと言った。てっきり母はイチイの木と何かあると思って読んでいたのだが、ただ気に入っていただけだったらしい。
 にしても、あの父はないわ〜、というくらいクズだった。元妻が死にかけていて、息子が一人ぼっちになるかもしれないというときに、現妻に呼ばれたからといって、さっさとアメリカに帰って行った。なんたる薄情。離婚して正解だ。息子がいっしょに住みたいと言っても、家が狭いからと即拒否。しかも、すっかりアメリカナイズされてしまっていて、息子に相棒、とか呼びかけ、息子がやめてと言ってもいっこうにやめないのだ。
 一方すっきしりしたのは、コナーに大怪我を負わせられたハリーの両親が、学校に訴えてやると息巻いて怒鳴り込んできたところだ。先生が、ハリーはコナーを虐めていたことを告げると両親は黙ってしまう。イギリスでいじめは進学に影響するからだとか。いい気味である。
 文庫には要所要所に不気味なイラストが描かれていて、いい感じに仕上がっている。現実にはあんなにきれいに最愛の母と今生の別れはできないだろうが、ある種のフェアリーテイルと思えば詩情豊かな一冊である。


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