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スーツケースと旅と私

お気に入りのスーツケースが現役引退するときは、まるでこちらはまだ大好きな彼から一方的に別れを切り出されるときみたいな気持ちになる。

私はまだまだ一緒にいたいのに

君には僕よりもっといい人がいるから

って人ごみに消えていく背中を、なにもできずに見つめているような感覚。

名残惜しくて、どうにかまだ使えないものかと小一時間は悩むけど

もうそろそろ休ませてよ

とばかりにこちらを見上げる彼を見て、やっとあきらめがついたのが今だ。

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この子と出会ったのは、中学校を卒業して当時仲良しだった4人組で北海道旅行に行くためにドン・キホーテにスーツケースを買いに行ったとき。

一言でいうと、私のひとめぼれだった。

私は大抵のものは見た目で決める。機能性は二の次。まず見た目がタイプじゃないと好きになれない。スーツケースだって例外じゃない。

むしろスーツケースこそ、旅先の景色をより際立たせるような美しいフォルムが望ましいとさえ思ってる。

だからこの子の深い赤色と、ヨーロッパのおしゃれな街にも生えそうなフォルムは当時の私にとってはベストだった。即決以外になかった。

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だから雪の降る北海道の寒い街の中も、私は背筋を伸ばして歩いたのを覚えてる。素敵なスーツケースを持っていると、なんだか私までちょっと素敵な女性になった気分になった。

そうして国内を旅する時はだいたいこの子が私の旅のパートナーだった。なんと16年間も。

長い間、大雑把な私に付き合ってきたものだから擦れて木津だらけでくたびれてて…でもまるでヨーロッパの貴族みたいに凛とした姿は今になっても見惚れてします。

もう鍵が壊れてしまったから旅には一緒に連れていけないけど、思い出がたっぷり詰まった私の旅の相棒は現役を引退してこれからは私の部屋のインテリアとして活躍するそうだ。

新しい相棒は彼に比べるとすごくスマートでシンプル。だけど重厚な色合いと、ピンクゴールとがキュート。中を開くと、さらに愛らしい。

見た目は大事。

でももうあの時から16年もたって、私だってちょっとは大人になった。

ポケットがいっぱいあって、軽量、ストッパー付き。機能も兼ね備えてる。完璧な子を選んだ。

私は大雑把で雑だから、何かと生傷が絶えないと思うけど、これからよろしくね

そして、今まで本当にありがとう。だけど、まだまだよろしくね。

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