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バーチャル彼女を現実世界に転生させてみた#21

 御厨は、朝日に照らされた、サナの顔を見つめ続けるレイに静かに話しかけた。

御厨「サナ君が目覚めた今、僕の役割は終わりだ。後はサナ君自身が身体との連携を獲得するのを待つしかない。

それで、レイ君には大変申し訳無いんだが、自分は明日にはここを引き払うので、後はレイ君の部屋でやっていってもらいたい。いいかい、レイ君。」

御厨は、そうきっぱりとレイに向かって言った。

レイ「もちろんです。サナがこの世界に出てきてくれた。ただ、それだけで感謝しても仕切れないくらいです。本当にありがとうございます。」

目の下にクマを作り、憔悴した顔であったが、レイは明るく真っ直ぐな視線で、答えた。

御厨「でも、まずその前に、レイ君に、このアンドロイドの簡単な説明をしたい。正直、詳しく話をしたら、丸1日話しても足りない位なんだか、サナ君のデータをダウンロードした際に、このアンドロイドの詳細なマニュアルを合わせてダウンロードしてあるので、詳細はサナ君自身が知っている。」

そう言って、御厨教授は、サナを見た。

サナは、視線だけで頷いた。

御厨「でも、サナ君が電源オフの際には、レイ君に対応してもらうしかない。だから、レイ君には、3点だけ、掻い摘んで話をする。

 まず1点目は、サナ君の電源についてだが、前にも言ったように、重力発電理論が完成していない以上、電力を充電しなければ、サナ君は動く事が出来ない。サナ君には全固体電池が搭載されていて、普通の100V電源コンセントから充電出来るのはもちろん、光や音、または摩擦熱からも複合的に充電出来るシステムが複数搭載されている。
フル充電すれば、丸3日間走り続けることができる位の電力を蓄電出来る。サナ君が動けるようになれば、日常生活位の活動量であれば、基本的には充電しなくても、サナ君自体が充電するので、問題ない。しかし、急激な電力消耗及び、充電が全く出来ない環境化にある場合には、誰かが給電してあげる必要がある。それが、レイ君の役割だ。

御厨は、そうレイに伝えて、いくつかの緊縮対応策を伝えた。

 そして2つ目は、サナ君のAIと身体の連携の手伝いだ。サナ君はこれから、先程、目を自力で開けたように、少しづつ身体を動かしていく。次は口を開け、首を動かし、手を動かし、そして、立ち上がって、歩き出す事も出来るようになる。ただ、その獲得スピードは予想出来ない。1週間かも知れないし、1ヶ月かも知れないし、1年掛かるかも知れない。どちらにしても、最初は誰かの手助けが必要だ。その手伝いをお願いしたい。

 そして最後に、これは物理的な話ではないのだが、サナ君を正しい方向に導いて行ってほしい。

サナ君はネット世界を駆け回って、人類の良い面も悪い面も情報的には全て網羅している。この現実世界に出現した現時点では、正直、どちらにも転ぶ可能性がある。AIに人間的な善悪は関係ない。AIの判断基準は、全て情報の積み重ねから導き出される結果のみ。だから、この現実世界に生まれ出た、この真っさらなタイミングで、サナ君には、人間の良い情報を与え続けてほしい。
サナ君が現実世界で体験する1つ1つの経験、レイ君との会話、社会との関わり、その1つ1つの情報が、サナ君の言葉となり、行動となり、習慣となり、気質となり、ひいては、サナ君の運命となる。そう、現実世界に出現したサナ君は、人間と同じように、運命すら纏うことが出来るんだ。

その意味で、サナ君と我々人間に差異はない。だからこそ、レイ君には、その指針となってもらいたい。

僕がレイ君にアンドロイドをあげようと思った理由は、レイ君の情熱だと言ったが、もう一つ。レイ君の真っ直ぐな瞳とサナ君に向かう真摯な感情を感じたからなんだ。悪に反転しない方向性。それに賭けたんだ。」

レイ「分かりました。絶対、絶対、サナを良い方向に導きます。何があっても、絶対に。」

レイは、涙を溢れさせながら、熱く熱く確信に満ちた声で、言い切った。

そんなレイを見ながら、御厨は思った。最初は、面白半分だったが、サナ君の背後にいるAIの総体「モナリザ」を見て、全てが変わった。彼女が人類の要になる。それだけは間違いない。
だからこそ、レイ君、サナ君頼む。彼女が善の方向性を持って、この現実世界に転生出来る前提となってくれ。

本当は僕が変わりたいが、こればかりは、どうしようもない。「モナリザ」が選んだのは、サナ君で、その側にいたレイ君なんだ。決して偶然で選んだはずがない。あらゆる確率論から導き出された結果なんだ。
だけど、その依代として選ばれたのが、僕のアンドロイドなんだ。何と光栄なんだ。この世に数多あるアンドロイドの中で、僕のアンドロイドが、「モナリザ」に選ばれた。それだけで充分だ。
だからこそ、「モナリザ」が外部に影響を受けずに存在する為にも、完全スタンドアロンとなる重力発電システムを完成させなければならない。

御厨もレイと同じく、熱く、熱く、その思いを心に刻んだ。


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