想像力を掻き立てられる家
職場の近くに、ブロック塀が歪み、
今にも崩れそうな一軒家がある。
築50年以上に見える立派な家だが、
周りはブロック塀に囲まれていて
中の様子は見られない。
木製の大きな扉の門は、古びてあちこちが補修されている。若干真ん中に向かって斜めになっている。
ずっと空き家だと思っていた。
門の横には1本の桜の大木があり、
枝が道路に10メートル以上はみ出て
いる。見上げると、枝が電線に
乗っかっている。
もし大地震がきたら、あの木が倒れると電信柱もろとも倒壊し、ブロック塀は崩れるだろう。
道路側から見ると敷地には大木が何本もあり、うっそうとした森のよう。
だか確実に人の手が入っている。
ちゃんと庭木が剪定されているのだ。
誰か住んでいるのだろうか。
疑問に思っていたところ、道路にせり出した桜が満開を迎えたころ、答えがわかった。
小柄で白髪の年配女性が、道路に落ちた花びらを箒🧹で掃いていた。
毎朝くる日もくる日も道路を掃除している。女性はセーターにスエットパンツとラフな格好。
相当な花びらが落ちていて重労働だと思うのだか、素早い動きで掃いている。
家の表札は会社名で書いてあるので、
家で仕事をされていたようだ。
きっとこの家は当時繁栄していて、
仕事仲間達と大きな庭で花見をしていたに違いない。この家が建てられた当時を想像してみる。
普段、他人の家を素通りして歩いているが、この家の前を毎日通っていたら物語が書けるのではないだろうかと思うほど、目に訴えてかけてくる情報が多くてちょっと怪しい。
サスペンスなんかもありかな。
あと小説で映画化された「小さいおうち」のような話も想像できる。
時代背景は昭和だけでも良いし、
昭和から令和にかけてもいい。
仕事前の数分だけ、こんな想像を
してみる。
先日、家の前を通るとブロック塀が1個落ちていて、次の日に通ると補修されていた。
ある日はワンボックスカーに乗った息子さんらしき人を、年配女性がずっと見送る姿があった。
きっとこれからも関わることのない家だけど、これだけ想像力を掻き立てられる歴史を感じる家はなかなかない。
しかし、自然災害のときは絶対に
前を通らないと心に決めている。