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【振り返り】村中璃子氏の投稿及び国立感染研究所「子宮頚がんHPV子宮頸がんに関する9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ファクトシート令和3(2021)1/31」

積極的な接種勧奨の再開が決まった子宮頸がんワクチン(MSD提供)

 ■村中璃子(むらなか・りこ)医師、ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師。世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局の新興感染症チームでパンデミック対策に携わった経験を持つ。子宮頸がんワクチンに関する一連の執筆で科学誌ネイチャーほか主催のジョン・マドックス賞受賞者が緊急投稿しました

◆一部抜粋◆
 勧奨差し控えの背景にあるのは、痙攣(けいれん)や疼痛(とうつう)を訴える女性たちのセンセーショナルな映像とともに広がった「子宮頸がんワクチンは危ない」というフェイクニュースだ。 
症状の多くは脳波や画像などの検査では異常のない、心的な背景を持つ身体表現性障害で、ワクチン薬剤との因果関係はなかった。専門家も国もそれを分かっていたが、メディアを駆使した強烈な反ワクチン運動を前に、8年以上もの間、勧奨を再開できないでいた。

 どんなにいいワクチンでも、新しくワクチンが導入される際には、反対する人が必ず出てくる。ワクチン薬剤と症状との因果関係が認められない場合でも、「新しいワクチンだから」「急いで接種したから」「現代の医学では証明できないだけ」などと別の理由をつけて反対する。補償を求める人が出てくることもある。

 日本では17年、世界初の「因果関係の証明なき」子宮頸がんワクチンによるものと主張される被害に対する国家賠償請求訴訟も起きた。

🟨トンデモ専門家

似たような主張は、新型コロナワクチンでも聞かれる。一部メディアや市民団体は、ワクチン「接種後」に亡くなった人や、それを新型コロナワクチンの危険性を示す証拠だと主張する一部のトンデモ専門家を積極的に取り上げ、接種に反対した。


🟩9価ヒトパピローマウイルス( HPV )ワクチン ファクトシート令和3(2021)年1月31日国立感染症研究所

🟩9価ヒトパピローマウイルス( HPV )ワクチン ファクトシートの要約 

(疾患の特性)

子宮頸がんはウイルス感染が原因の疾患であり、ヒトパピローマウイルス( human
papillomavirus: HPV )の子宮頸部での持続的な感染が、子宮頸部浸潤がん(扁平上皮がん、腺がん)及びその前駆病変である子宮頸部上皮内腫瘍( cervical intraepithelial neoplasia:CIN )と上皮内腺がん( adenocarcinoma in situ: AIS )を引き起こす。これらの疾患の原因となるのは約 15 種の高リスク型 HPV( HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59,26 68, 73, 82 )である。HPV は性行為を介して感染し、一生涯に 80-90 %の女性が何らかのHPV に感染すると推定されている。CIN1 などの軽度病変は宿主の免疫系により自然治癒することが多いが、一部の女性で HPV が排除されずに持続感染すると、通常 5-10 年以内に CIN2/3 や AIS などの前がん病変が生じる。さらに前がん病変患者の一部から、10 年以上の感染期間を経て、細胞遺伝子に変異が蓄積することで、浸潤性の子宮頸がんに進行すると考えられている。
子宮頸がん予防のために国内では、子宮頸がん検診での子宮頸部擦過細胞診が 20 歳以上の女性を対象に実施されている。HPV 検査を細胞診に追加的あるいは代替的に用いる試みが欧米では導入されており、日本でも HPV 検査・細胞診の併用による子宮頸がん検診の有効性が検討されている。
子宮頸がんの治療は手術療法と放射線療法が主体であり、それらに化学療法が組み合わされる。一方、CIN3/AIS などの前がん病変に対しては通常、子宮頸部円錐切除術が行われる。

(疫学の状況(国内及び海外)

全世界で年間約 57 万人が子宮頸がんに罹患し、約 31 万人が死亡していると推計されている(2018 年)。子宮頸がんの罹患率は、開発途上国で高く先進国で低い。北米、北欧、⻄欧、オーストラリアなどでは、子宮頸がん検診の普及により子宮頸がんの罹患率は低く抑えられている。2007 年ごろから HPV ワクチンが導入された北米、北欧、オーストラリアなどでは、ワクチン接種世代において子宮頸部前がん病変の減少が一致して観察され、子宮頸がんの減少も観察され始めている。東アジアでも罹患率・死亡率が高かった韓国ではここ数十年で大きく減少している。一方、日本では罹患率・死亡率ともに増加しており、特に若年女性での増加が顕著である。最近では日本の罹患率、死亡率は先進国で最も高い水準となり、韓国よりも高くなりつつある。日本の子宮頸がん検診の受診率は 40%程度にとどまり、欧米諸国や韓国と比較して低い。
5 類感染症定点把握疾患である尖圭コンジローマの年齢別報告数は男女ともに 25-29 歳が最も多く、最近は男女ともに報告数は横ばいである。海外では HPV ワクチン接種後 5-8 年の追跡が実施された結果、肛門性器の疣贅は男女ともに減少した。米国では、2006 年に HPVワクチンが導入された後、HPV ワクチンを受ける可能性が最も高い年齢層で肛門性器疣贅の患者数が減少し、4 価 HPV ワクチンを用いたランダム化比較試験において、男性の生殖器疣贅、肛門がんの前がん病変に対して高い有効性が報告された。ドイツでも HPV に関連する可能性のある肛門性器疾患の負担の減少が観察された。
予防接種法に基づく感染症流行予測調査では HPV16 に対する ELISA 抗体価が 20 歳以上の女性を対象に毎年度調査されている。2011 年度から始まった子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業で接種した女性(接種対象年齢 12-16 歳になる年度)が抗体調査の対象に含まれるようになり、20-24 歳群の女性の抗体保有率が年々上昇した( 2015 年度 27.9 %⇒2016 年度 29.3 %⇒2017 年度 51.2 %⇒2018 年度 61.1 %⇒2019 年度調査 77.5 % )。
HPV の遺伝子型は 200 以上が報告されており、将来的な発がん性の有無により高リスク型と低リスク型に分けられ、高リスク型には、HPV16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58,59, 68, 73, 82 が含まれ、低リスク型には、HPV6, 11 が報告されている。浸潤性子宮頸がんに含まれる遺伝子型は、世界の地域によって異なっているが、いずれの地域においても 9価 HPV ワクチンに含まれる遺伝子型( HPV6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58 )で全体の約90%に相当する。日本においても子宮頸がんに含まれる遺伝子型は 9 価 HPV ワクチンに含まれる遺伝子型で約 90%とされている。

(予防接種の導入により期待される効果)

HPV ワクチン導入の目的は、子宮頸がん及びその前がん病変の罹患率を減少させ、子宮頸がんの死亡率を減少させることである。子宮頸がん検診による子宮頸部病変の早期発見に加えて、HPV ワクチン接種により HPV 感染自体を予防することで、子宮頸がん罹患率のさらなる減少が期待される。
2021 年 1 月の時点で国内で製造販売承認されている HPV ワクチンには 2 価、4 価、9価 HPV ワクチンがあり、いずれも組換え DNA 技術を用いて産生した HPV L1 キャプシド蛋白質を、ウイルス様粒子に再構成したものを抗原としている。2 価 HPV ワクチンはHPV16,18、4 価 HPV ワクチンは HPV6,11,16,18、9 価 HPV ワクチンはHPV6,11,16,18,31,33,45,52,58 を標的としている。
9 価 HPV ワクチンの効果については、4 価 HPV ワクチンとの比較による無作為化二重盲検試験が実施されている。初回接種から4年後の時点で、追加 HPV 型( HPV31, 33, 45,52, 58 )に関連する高度子宮頸部疾患( CIN2/3、AIS、浸潤性子宮頸がん )、高度外陰部
疾患(VAIN2/3、外陰がん)、及び高度腟疾患(VIN2/3、腟がん)の発生に対して、9価 HPV ワクチン接種群では 4 価 HPV ワクチン接種群と比べて 97.4 %の有効性( 95 %信頼区間 85.0-99.9 )が示された。また共通 HPV 型( HPV6, 11, 16, 18 )に対する効果は、初回接種後 7-42 か月までの期間、9 価 HPV ワクチン接種群での共通 HPV 型に対する血清抗体価が 4 価 HPV ワクチン接種群に比べ同等かそれ以上であり、共通 HPV 型に対する免疫原性に関して 9 価 HPV ワクチンの非劣性が示された。さらに共通 HPV 型に関連する疾患発生率についても、有意な差は認められなかった。効果の持続性については、9 価HPV ワクチンの 9-15 歳での3回接種者の血清抗体価は、初回接種から 7 か月後にピークを示し、90 か月後までに徐々に減少したが、その時点でも 90%以上の被接種者が、9 種類の HPV 型に対して抗体陽性を示した。

(予防接種の安全性)

9価 HPV ワクチンの臨床試験において報告された接種部位の症状のうち、報告頻度が高かったのは痛み、腫れ、紅斑であった。これらの症状発現は、9価 HPV ワクチン被接種者において4価 HPV ワクチン被接種者より多かった。全身症状は頭痛、発熱、嘔気等が報告され、報告頻度は9価 HPV ワクチンと4価 HPV ワクチンで同等であった。
2価および4価 HPV ワクチンに関する疫学研究において、HPV ワクチン既接種者と未接種者で死亡、その他重篤な有害事象、自己免疫疾患の発症は同等であった。

(医療経済学的評価)

国内・海外の先行研究などを参考にして HPV 感染から子宮頸がん発症に至る自然史モデルを改めて構築し、ジェノタイプ分布・QOL データについても国内データを組み込んだ上で、ワクチン接種の費用対効果を非接種を比較対照として分析した。具体的には、未接種・4 価 HPV ワクチン接種・9 価 HPV ワクチン接種の 3 つの戦略について、生涯の医療費とアウトカム ( 質調整生存年 QALY, 子宮頸がんの発症数、子宮頸がんの死亡数 )を推計した。結果は、戦略ごとの費用の差を、獲得 QALY の差で除した、1QALY 獲得あたりの増分費用効果比 ICER で提示した。ICER の値は小さいほど「費用対効果に優れる」とされ、絶対的基準としては 1QALY あたり 500-600 万円以下であれば費用対効果が良好と判断できる。
ICER の結果は、効果持続期間を 10 年とすると 4 価 HPV ワクチン vs 未接種で 712 万円・9 価 HPV ワクチン vs 未接種で 420 万円となった。100 万人あたりでみると、ワクチン導入による子宮頸がんの死亡数と罹患数減少は 4 価 HPV ワクチンで 40 人・522 人、9 価 HPVワクチンで 104 人・1,098 人となった。効果持続期間として 15 年以上を仮定すると、いずれのワクチンも費用対効果は良好となった。検診の受診率引き上げ ( 80 % )の ICER は118 万円/QALY と、ワクチン接種よりも費用対効果に優れる結果になった。現時点では、他のがん種への予防効果(ワクチンの費用対効果を相対的に改善する)や副反応のデータ(相対的に悪化する )は組み込んでおらず、より精緻な分析が必要である。

(諸外国の導入状況)

2020年10月27日現在、WHO全加盟国( 194か国・地域 )のうち、110か国( 57 % )、および WHO 非加盟国の 21 の国と地域(2019 年 12 月現在)で HPV ワクチンが国の予防接種スケジュール( the National Immunization Program; NIP )に導入されていた。WHOの提言に基づき、2 回接種スケジュールを導入している国が多い。WHO, UNICEF による調査では、各国の HPV ワクチンの推定接種率( 2018 年 )は国によって大きく異なって
おり、10 %未満の国から 90 %以上の国まで様々である。また、近年、男児も NIP の対象とする国が増えつつある。
2019 年における世界の HPV ワクチンのシェアは 4 価 HPV ワクチン 60 %、9 価 HPVワクチン 30 %、2 価 HPV ワクチン 10 %となっており、また、約 18 %は男児の接種と推定されている。

目次

1.対象疾患の基本的知見 
(1)疾患の特性 
1 病原体の特徴
2 不顕性感染の割合
3 鑑別を要する他の疾患
4 検査法( 迅速検査、検診、確定診断等 )
1) 子宮頸部への HPV 感染の診断
2) 子宮頸がん検診 
5 治療法
6 予防法
7 その他( 病原体の生態、免疫学等 )
(2)国内の疫学状況(及び諸外国に於ける状況、国内との比較)・・・・・・・・・12 1 患者数( 性年齢階級別、経年変化、地域分布等 )
1)子宮頸がん 
2)尖圭コンジローマ
(ア)国内の尖圭コンジローマ疫学状況
(イ) 海外の尖圭コンジローマ疫学状況 
2 死亡者数
3 HPV 遺伝子型の分布 1)HPV の疫学
2)世界における HPV の分布 (ア)軽度扁平上皮内病変に関連した HPV 遺伝子型の分布 (イ)浸潤子宮頸がんにおける HPV 遺伝子型の分布 (ウ)日本での HPV 型分布
4 HPV16 に対する抗体保有状況
2.予防接種の目的と導入により期待される効果、安性
(1)接種の目的的
(2)使用可能な製剤剤
(3)有効性の観点点
1 2, 4 価 HPV ワクチンの臨床試験成績 1) 有効性評価
2) 有効性の持続期間
3) 国内での有効性評価
4) ワクチン型以外に対する効果 5) 接種スケジュール
2 9 価 HPV ワクチンの臨床試験成績 1) 海外での臨床試験
2) 国内での臨床試験
3 HPV ワクチン導入後の人口レベルの効果
1) 海外でのインパクト
2) 国内でのインパクト (4)安全性の観点(副反応の頻度、重篤な副反応等)
1 接種部位の症状
1) 9価 HPV ワクチンに関する臨床試験結果
2) 米国における9価 HPV ワクチン承認後の有害事象報告
2 全身症状
1) 9価 HPV ワクチンに関する臨床試験結果
2) 米国における9価 HPV ワクチン承認後の有害事象報告 3) 2価および4価 HPV ワクチンの安全性
3 国際機関、米国、欧州における HPV ワクチンの安全性に関する考え方 1) 世界保健機関
2) 米国疾病予防管理センター
3) 欧州疾病予防管理センター
(5)医療経済学的な観点 
(6)諸外国の導入状況 
1 国別の HPV ワクチン導入状況 
2 9 価 HPV ワクチンの導入状況
3.引用文献
4.執筆担当者

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