理学療法士のキャリアアップは現状5つしかない
理学療法士を有する資格者が急増している。
今年も2月末に理学療法士国家試験が行われたため、ウキウキしながら今後の社会人生活に思いを馳せる学生さんが多い事だろう。私もその一人だった。
筆者も10年以上前、リハビリの仕事に携われることに心を時めかせながら、早くその日が来ないかとワクワクしていた事を覚えている。
働き始めると、様々な理学療法士が存在し、5、6年もすると業務に慣れてくるため、今後どのように仕事したらいいのか?と、不明瞭な不安感に包まれて行き詰まってしまうセラピストが後を絶たない。
そのような人のためや、理学療法士・作業療法士になりたいけど、ネガティブな事しか目に飛び込んでこない、という学生さんへ将来をイメージ出来る「キャリアアップ」について今回は述べたい。
理学療法士がオススメされない理由
先述したように、理学療法士の急増により、理学療法士は「先の無い業種」だと言われる事が多い。実際、7つ年の離れている弟が高校生の時、進路指導の先生に相談に行くと「理学療法士はやめておけ」の一言だったという。
理由は
・学費が高い事(大学だと500万〜600万円)
・臨床実習で単位を落とされ、留年する確率が高い事
・何より給料が安く、昇給は期待できない事
この3つが大きな要因となる。
私の友人はまだ500万円の奨学金を25年払い続けている。その友人は看護師さんと結ばれたため、毎日の生活に苦労は無いようである。
まず理学療法士を目指そうとなると、先程の3つのオススメしないポイントに加え
・診療報酬単価が下がり続けている(国は医療費を抑制したい)
・経験年数のあるセラピストと新人セラピストだと、実動時間で病院に入る収入は1ミリたりとも変わらない
要するに、運営元を病院とすると、診療報酬が下がり続けているのに、ベテランの高給取り理学療法士はおでこに出来た「たんこぶ」と同じなのだ。
気になるお給料については他サイトでも多く紹介されているため、それらを参照して欲しい(検索サイトで簡単にヒットした記事)。
https://求人ボックス.com/理学療法士の年収・時給
とはいえ、他の診療科の医療スタッフからは羨ましいと言われた事があることも少し紹介しておきたい。
例えば、放射線技師や検査技師などは、個別単価報酬を申請できない医療者であるが、理学療法士は個別の実働で単価報酬を請求出来る職種となっている。
要するに、理学療法士は1人増えると、個別で利益が出るため、増収が期待できる。しかし、放射線技師だと、一人増えても個別で報酬を請求出来ないため、可能な限り少ない人数で業務を回したい、というのが経営者サイドの視点である。
このような理由もあり、放射線技師、臨床検査技師ケースワーカーや医療相談員のような「もっと必要にもかかわらず、人数が限りなく少ない激務」という職種も病院では存在している。
そのため、理学療法士は環境が大幅に劣悪にはなりにくく、定時に上がる事が出来たり、休日は完全にお休みというメリットがある事もお伝えしておきたい・
5つの王道キャリアアッププラン
現状、理学療法士・作業療法士のキャリアアップ王道は5つの選択肢しか無い。
①職場で昇進
②教育機関で教授職
③理学療法士協会で認定・専門理学療法士
④徒手療法団体に所属し講師
⑤医療保険外への独立
一つ一つについて簡潔に述べていきたい。
①職場で昇進
非常に簡潔にして明瞭なプランである。職場で認められ、昇進することは個人の理学療法士のスキルと、周りとの協調性、信頼を獲得出来た証拠となる。
昇給ももちろん期待できるが、冒頭にお話した通り、理学療法士の急増により、施設で抱える理学療法士が増えている事もあって、年功序列で誰もが昇進出来る時代は終わっている。そのため競合が多い
また、マネージャーになることにより、委員会や会議スケジュールなどが乱立し、臨床(治療業務)からは遠のくと思ってもらって間違いない。
絶対条件は当然であるが、勤続すること。
もちろん、管理者で求人が募集されている事もあるが、転職してすぐの管理職は職場環境の把握と病院内ヒエラルキーが見えない事もあり、オススメ出来ない。
理学療法士という国家資格はコロコロと転職できる看護師などに比べて、職場へ忠誠心を示す事が一つの鍵となってくる。
②教育機関で教授職
単純に輝く舞台に立つ輝く人というイメージである。
都道府県の理学療法士協会理事などに名を連ねる人は教育機関から立候補する人が多く、学会のシンポジストや教育公演などを取り仕切る。
もちろん、研究畑でせっせと研究する人のため、バリバリ治療をしたい人にはオススメ出来ない。名前が売れるため、セミナーや卒後教育で話をする人が多いが、口で治療するタイプであり、手で治療する人達ではない(もちろん人による)。
個人的には、理事などを務める人たちが教育畑ばかりから乱立するため、臨床とかけ離れた事をズケズケと話す事も少なく無い。
また、理学療法は新しい分野であることと、教育機関の乱立により、若い教授が多い。そのため、これから教授を目指すとなると、現在の教授達がまだピチピチで若いため席が空くのを待つことは現実的では無い。
③理学療法士協会から付与される認定・専門理学療法士
これは②に類似している部分もあるが、教育機関ではなく、臨床を行いながら学会報告や研修などを通じて、理学療法士協会から一定の卒後教育を完了した、または履修したと認められる人たちである。取得のためには理学療法士協会が設定したポイントを取得していく方式が採用されている。
認定理学療法士は以前よりはややハードルが上がって取得する事が困難になっている事もあるが、概して2年ほど頑張れば取得はそれほど難しくない。
しかし、実際の職場では認定理学療法士を取得し、自分が進みたい疾患や分野を確立しても現場都合により部署移動を余儀なくされ、経験や知識を活かせずに不満が溢れ出してしまうセラピストも多い。
専門理学療法士となると、認定理学療法士に比べて履修ポイントが大幅に高くなるため、書籍発表や学会ポイント、講師として研修会に参加するなど、「教育畑の人のために作られた制度」と思ってしまうほどの肩書きである。
そのため、②と類似しており、教授をしてて専門理学療法士、という肩書き大好きな人が取得する傾向がある(もちろん傾向です)。
理学療法士協会としては専門職として高度な医療サービスを提供している職能団体ということを外部にも示すためにこの③理学療法士協会で認定・専門理学療法士現在は力を強く注いでいる。
④徒手療法団体に所属し講師
協会の認定を併用している方も多くおられるが、ある特有の手技や原理、思想の下に集まり、技術を高める団体に所属するキャリアアップである。
理学療法士では有名なボバースやボイタ、カイロプラクティックなどの、ある一定の概念や通念を基軸としてリハビリを実施する団体である。
理学療法士は学生の時には大枠としての治療方法は勉強するが、マクロ的な治療方法については卒後教育となる。そのため、技術や知識を高めるために卒後も研修会、講演会に参加し、治療技術を磨いていくのである。
その中で秀でて技術を獲得した方はその団体での講師やインストラクターとなり、副業として、あるいは本業として給与をアップする方法となる。
しかし、この方法はいささか「エビデンス」という視点では確立されていないことも多く、研究畑側と臨床畑側の衝突が絶えないのも事実だ。
⑤医療保険外への独立
これは④に関連するが、ある徒手的、あるいはその他の技術を獲得して、保険診療ではなく、自由診療の下、治療院やベンチャー企業に就職するケースである。
医療保険外への独立は数年周期で訪れる国からの報酬改定に影響を受けない自由度と、取得技術の証明にも取れる行動の表れに感じて、憧れる人も少なく無い。
しかし、理学療法士免許を取得後の5、6年で個人独立する人も散見され、「盗んだバイクで走り出す」尾崎豊状態のセラピストも少なからず存在するため、勘違いしない事も肝要である。
ベンチャー企業への就職は電子工学や人体工学畑の人との競合となる。治療畑だけの知識では太刀打ち出来ない新たな知識が必要となり、転職してから出戻りして理学療法士へ返り咲く人も少なく無いことも知っておいていただきたい。
終わりに
以上が理学療法士でのキャリアアップの概要となる。
給与がどれぐらいアップするのかについても気になることと思うが、それは職場によって変動がある事も加味し、例示しない。
筆者も理学療法士協会の講師の概算講師料や徒手団体講師料など把握しているが、一つだけ言えることは「時給換算すると割に合わない」とだけは申し伝えておく。
もちろん平均給与はあくまで平均であり、4桁万円を稼いでいるセラピストも多く存在している。
しかし、キャリアアップは給与としてだけの恩恵に留まらない。医療サービス者としての眼前の患者、利用者、ご家族の豊かな生活のために日々取り組むために自分の知識、技術、知恵を駆使して、「自分の仕事に誇りを持てる」という事が何よりのキャリアアップであるということは最後にお伝えしたい。
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