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緊急事態宣言を継続すべきか

 緊急事態宣言が発令され、3週間が経とうとしている。外出自粛や施設の使用制限、催し物の制限が要請されているところである。みんなが多大な我慢を強いられている状況であるが、感染者の急増や地方都市への拡大を抑制していくためには現段階ではこの方法しかない。感染者を減らすことに成功しても、この新型コロナウイルス感染症はなかなかの強敵であり、効果的なワクチンや治療法が開発されない限り、そして世界のどこかで流行している限り、再流行のリスクからそう簡単に免れられそうもない。残念ながら「新型コロナウイルス発生"前"」と同じような生活は当分難しそうである。年単位の我慢を覚悟しなければならない。

一方で、社会には経済活動が不可欠である。効果的な対策を持続的に行うには、公衆衛生インパクトと社会・経済へのインパクトのバランスが最適化された対策への移行が必要である。新しいウイルスなのでまだ分からないことがたくさんあるので、現在は一律な制限的な措置を取らざるを得ない部分がある。しかし、いろいろな科学的根拠を得て、リスクに応じた制限を行いつつ、適切な(そして持続可能な)感染対策を行いながら利用を再開していくのが基本的な考え方である。

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リスクに応じた、適切な(そして持続可能な)感染対策が重要

ここでは、まず最初のステップとして、一律な制限的な措置から対策の「最適化」の方向に舵を切るにあたって、考慮すべきと考えられる事項を挙げていきたい。

地域の流行状況+体制整備の状況で判断

対策の移行のタイミングを考える上で、まずは地域の流行状況がどのような状態であるのかを考えるのは当然である。それに加えて重要なのは、体制整備の状況も併せて分析・評価することである。

気をつけなくてはいけないのは再流行である。集団免疫が得られているような状況でない以上、そしてまだ流行地がある以上、対策を緩めればいつまた感染者が急増するかも分からない。感染者を速やかに診断し、その増加の兆候を早期に掴んで対策を行えなければ、あっという間に感染者が増えて、病院が埋まってしまうことになりかねない。一度緩んだ社会の空気はそう簡単には元に戻らない。患者発生数が現在十分に少ない自治体であっても、患者急増時にすぐに気づき、素早く体制を転換し、受容できる体制整備を今のうちに強化しておくことが不可欠である。

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気をつけなくてはいけないのは再流行
図はStrengthening and adjusting public health measures throughout the COVID-19 transition phases: Policy considerations for the WHO European Region.24 April 2020.
*4/30 差し替えました。

流行状況の評価

まずは流行状況が落ち着かなければいけない。「ピークを超えた」「継続して減少している」だけではダメで、1日あたりの報告数が継続的に一定数を下回ることが必要であろう。保健所の対応能力を超えて感染者が出ていれば、調査もできなければ、医療機関との搬送調整等も行えない。さらには、往来が多い周辺県等の流行状況も踏まえて、持ち込まれるリスクも併せて検討する必要がある。

体制整備状況の評価

対策を移行するにあたって、体制整備状況として考慮すべき5点を以下に挙げる。

あくまで公衆衛生の観点から「考慮しておきたい点」であって、これを全て達成できることが対策移行の「条件」というわけではないことにご留意いただきたい。

1.  医療提供体制

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重症者の治療には時間も人手もかかる。人工呼吸器やECMOも治療に使うには限りがある。新規患者発生が減少しても、入院患者数が減少し、重症者をある程度すぐに受け入れられる余地が生まれなければ対策を緩和するのは危険である。重症者が発生した際に、速やかに治療可能な施設を見つけ、搬送を調整し、適切な治療を提供できる状態になるのを待って、制限を緩和すべきである。特に、ベッドの利用状況や患者の状態がきちんと把握され、病床を調整可能なメカニズムは、患者急増に備えて持つべき重要なキャパシティである。感染防護具(PPE)の供給も受け入れ可能数に影響を及ぼす。

空いているベッドの数がそのまま患者を受け入れる数、というわけではない。スタッフの数や専門性、他に受け入れている患者の重症度によっても受け入れられる数は日々変わってくるので、患者の受け入れには細やかな調整メカニズムが必要となる。

また、感染者は、現在は施設での療養や自宅での待機・療養となっている場合もあるが、特別の事情を除き、自宅での待機・療養は行われていない状態まで医療の受け入れ能力が戻せていることが望ましい。家族内感染等、地域で感染が継続するリスクがある。一方、患者は全て病院に入院させることができている地域であっても、患者急増時に備え、すぐに運用可能な療養施設が一定数確保されている必要がある。

現在、流行地域では、医療が非常に苦しい状況に立たされている。救命救急センターが患者受け入れを停止したり、外来を休止したり、予定手術を延期したりと、通常の医療提供体制とはとても言えない無理をしている状況である。通常時の基準の医療が提供可能である状態にまで戻せていれば、なお理想的である。

2.  公衆衛生体制

最も恐れるべきは再度の流行拡大である。再流行の予兆を速やかに検知するためには、保健所の対応体制が確保されていなければならない。患者発生状況を監視し、積極的疫学調査で背後のクラスターを同定し、接触者の管理を行っていく体制の強化が求められる。IT化を進め、迅速にかつ効率的に情報を共有し、「スマートな」積極的疫学調査の体制が構築されることで、流行の制御はより容易になる。それは、社会活動を容認できる幅を広げることにもつながるのである。

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データサイエンスを活用し"スマートな"公衆衛生へ

3.  高齢者・脆弱な集団の保護

新型コロナは高齢者や基礎疾患を有する者の死亡リスクが高いことが明らかである。このような脆弱な集団は、特に防護体制を固めておく必要がある。このような高齢者ほか脆弱な集団を擁する施設の感染対策は、施設に立ち入る人の制限等も含め、徹底して行う必要がある。また、このような施設での集団感染発生時を想定し、周辺病院等の支援体制が計画されていることが求められる。

4.  個人・職場の感染管理体制

個人の取り組みとして、手指衛生・咳エチケット・会話時のマスクエチケット、体調不良時にむやみに外出しないことが求められる。職場での感染管理対策も重要である。職場での3密対策はもちろん、検温などの健康管理と体調不良時の休暇規定の整備にも積極的に取り組んでもらう必要がある。感染対策やまん延防止対策に対して市民の積極的な協力が得られることで、外出自粛や施設の使用制限といったまん延防止対策の緩和も可能になる。

5.  施設・催し物や環境に応じた感染管理

集客施設の使用や催物が実施されると、そこには人が集まり、感染の「場」が形成される。そこに感染者がウイルスを持ち込むことで、大規模なクラスターが発生することが懸念される。施設や催し物の性質はまちまちである。地理的に離れたところから人がやってくるイベントであれば、地理的な拡大リスクがある。不特定多数が集まるイベントであれば、その後の患者・接触者の追跡が困難になる。環境毎のガイダンスが整備され、特に感染リスクに繋がる要素が多い施設や、そのような場での自主的なガイダンスの遵守が難しいイベントでは、対策の実施状況を監視したり、使用や実施そのものを管理していく体制が必要である。

自律的な行動変容とは言っても、お酒を飲んだりして楽しく盛り上がった場を自ら律するのは、なかなか難しい面があります。

緊急事態宣言は取り下げるべきか

「緊急事態宣言」という言葉のインパクトは大きい。取り下げることで、対象とならなくなった自治体には「もう何も対策をしなくてよくなった」というメッセージを社会に与えることが懸念される。しかしながら、コロナ対策はまだまだ先が長い。いつまた急速に患者が増えてもおかしくはない中で、全く無防備ではいられないので、粛々と体制強化には取り組んでいかなければならない。流行のリスクと発生時の対応能力の脆弱性という公衆衛生の観点からみれば、どこもまだ緊急事態は終わっていない

一方で、だらだらと「緊急事態宣言」を発出したままでは、いざまた患者が増え出したときに、対策を切り替える効果的なトリガーがなくなってしまう、という考え方もあるだろう。しかし、「緊急事態宣言」の対象地域であっても、常に「緊急事態措置」と呼ばれる、外出自粛要請や施設の使用制限を行っていなければいけないわけではない。「緊急事態宣言」の対象地域として、粛々と体制整備を実施しつつ、流行増加の予兆がみられれば、速やかに期間を限定して緊急事態措置を施していく、という運用も可能だろう。その中で、特に警戒を要する都道府県については、「特定警戒都道府県」と称して、より強力な措置を推進していく方法もあるだろう。

最後に

行動を制限されるのは辛いことである。これからは昔と同じようにはいかないかもしれないけど(例えば、おしゃべりするときは絶対マスク!なんて文化にしなければいけないかもしれないけど)、自分たちで考えて行動できるに越したことはない。その方が長く続けられる。でも、なかなか個人の努力だけでは避けようが無いリスクもある。人はいつも理性的に振る舞える生き物でもない。時には「やめてください」ということも言わなくては、大きな流行やそれに伴う医療崩壊を避けるのは難しい局面もあろう。より簡易で迅速な診断法の開発、重症化を予測する指標、治療方法、そしてワクチンの開発が待ち遠しい。

日本は諸外国に比べ、体制整備の時間は稼げてきたと考える。この時間を無駄にせず、着々と大規模流行に備えた対応能力を底上げすることで、許容できる社会生活の自由度も上がり、この流行による社会への"副作用"を最小限にして受け止めることができる。まだまだ多大な調整プロセスと、社会的合意形成が必要だが、その苦難のステップを乗り越えてこそ、中長期的な明るい見通しを描けるだろう。

参考資料

World Health Organization. Considerations in adjusting public health and social measures in the context of COVID-19: Interim guidance. 16 April 2020.
• Joint European Roadmap towards lifting COVID-19 containment measures.
The White House. Opening up America again.
Strengthening and adjusting public health measures throughout the COVID-19 transition phases: Policy considerations for the WHO European Region.24 April 2020. (4/30追加)


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国立保健医療科学院健康危機管理研究部長。専門分野は感染症危機管理。見解は所属組織を代表するものではありません。

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