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第5回新型インフルエンザ等対策推進会議

早くも第5回となりました対策推進会議。今回のテーマは、
・リスクコミュニケーション
・差別・偏見
・感染症対策に関するDX対応
・「政府行動計画」の見直しの基本的な考え方
です。

今回の会議での私の発言を紹介させていただきます。


リスコミ・差別・偏見に関して

今回、リスコミと差別・偏見の問題に関して、議論に時間をとられたことは非常に重要でした。これらは今回のパンデミックの重要な教訓でした。(ちなみに、以前の政府行動計画に、差別・偏見という言葉は登場せず、ガイドラインに数回出てくるのみでした。)実は、公衆衛生危機の本質は常に同じであるような気がしています。 古くはHIV/AIDS、 最近では東日本大震災、福島原発事故、それから感染症では西アフリカのエボラ出血熱アウトブレイクなどと、 そういったことで経験したことから本質的に変わっていない問題であり、これらの危機には、差別・偏見とリスコミ、あと一つ加えるとすれば社会的立場の弱い方へのしわ寄せ( アンバランスな負荷)という問題の構図が常に存在しています。 医療、水際対策、ワクチン開発といったお金のかかる問題にどうしても目が行きやすいのですが、 公衆衛生危機の問題の本質はこういったところにあり、 各論の議論に入ってもきちんと時間を割いていただければと思っております。 

行動計画改訂の基本的な考え方について

平時の備えの整理拡充関係

検査体制の拡大の問題はコロナ対応の中でも何度となく取り上げられ、「有事のために平時の体制整備が重要」とは何度も言われているところです。しかし、「平時の検査体制整備」という点ですが、単に機材の整備・点検とか維持といった狭い範囲で考えないように注意いただきたいと思っています。有事の際を念頭においた検査体制構築するうえでは、機材だけではなくて専門的な技能と人員が維持されている必要があります。 そのためには平時のサーベイランスで病原体検査の機会を増やし、ベースラインを底上げしていくのが一番です。例えば、ゲノム解析なども、普段のサーベイランスの中で常に一定数行っていくことが大事です。それをただ「(予算も人もないけど)できるだけ頑張ってやってください」という話ではなく、そのための人員であったり予算をつけて、ベースラインを底上げしていただきたい、ということです。こういったベースラインのキャパシティがあった上で 有事に対応能力を拡張するメカニズムはどうしたらいいか、ということを議論する必要があります。

「囲い込み・封じ込め」という言葉に注意!

「囲い込み・封じ込め」という言葉は非常に注意して使う必要があります。新興感染症が発生した際に、それをなるべく早い段階で検知して早期終息に持ち込むことは感染症対策の大原則です。そのような戦略オプションを取れるような準備をしておくことは非常に重要ですが、一方で注意しなければいけないのは、「囲い込み・封じ込め」という言葉です。 これは非常に差別・偏見につながりやすい言葉です。また、これを目標として強調すると「1人でも感染者を見逃したら失敗」みたいに誤解されやすい言葉にもなります。あくまで「早い段階で異常を検知し、リソースを十分に投入して、病原体の性質・感染伝播の様式を速やかに明らかにするための調査を徹底的に行い早期終息を目指す」という目標設定であることを強調していただきたいと思います。

エビデンスが対策を決めるわけではない

「エビデンス」とか「科学的根拠」という言葉は、コロナ対応の最中にも何度も出てきていますし、この文書でも何度か出てきます。注意していただきたいのは、公衆衛生対策の政策決定は科学的根拠だけで決められるものではない、ということです。科学的根拠は極めて重要ですが、政策決定の一要因でしかありません。「感染対策と社会経済のインパクトのバランス」といった言葉が何回も出てきますが、そのバランスを決めるのは科学ではないし、科学では決められません。あくまで政策決定は、科学的根拠に根ざした議論に基づく合意結成 あるいは意思決定です。政策について理解を求めるには、議論の土台となったエビデンスを示していくことが重要であり、各個人が必要な情報を与えられた上でそれぞれ適切な判断を促すことは重要ですが、最も重要なのは エビデンスを示しつつ 政策決定や判断に至ったプロセスを 政策決定者が説明することと考えております。

感染症対策のDX化における「情報のガバナンス」の重要性

この会議の中でも「DX化」は非常に重要なテーマです。そのため、現在の進捗についての報告がありました(資料7-2_新型インフルエンザ等発生に向けたデジタル・システム準備状況について)。また、「感染症サーベイランスシステムとデジタル化」について、デジタイゼーション(ツールのデジタル化)→デジタライゼーション(プロセスのデジタル化)→デジタルトランスフォーメーション(公衆衛生のデジタル化)というステップをお示しいただきました(資料8_国立感染症研究所 提出資料(感染症サーベイランス関係))。

資料8_国立感染症研究所 提出資料(感染症サーベイランス関係)より

改めて、デジタライゼーションで終わってはいけない、デジタルトランスフォーメーションに至らなければいけない、と思うのですが、ここで、データガバナンスの確立というのが大きな問題だと考えています。デジタライゼーションで、対策に必要な情報、使える情報をタイムリーに集めることが期待されます。しかし、情報がデジタル化したからといって、対策に必要な情報が集まるようになるわけではないし、その情報を活用できるわけではありません。必ずセットで議論すべき問題は情報のガバナンスです。得られた情報のうち、どの情報がどこまでの範囲で共有できるのか、それらを誰が決めることができるのか、その情報について誰に説明責任があるのか、こういったガバナンスを明確にし、その利活用の意思決定が速やかに行われる仕組みを作ることが重要と考えています。クラスター対策においても非常に苦労した点でありました。また、本当は共有可能な情報なのに、途中で誰かが「これは共有できない情報ではないか」と誤認識したりしてしまうと、そこで情報の流れは容易に止まってしまいます。情報のガバナンスを明確化し、その仕組みをその情報に関わる全ての人が正しく理解していることが重要と考えます。