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映画「オッペンハイマー」感想文

「揺れる」主体である主人公

前日からYouTubeで「ネタバレなし!オッペンハイマー予習」とか「簡単に解説!量子力学」とか見てから、片道1時間半かけてエキスポシティIMAXへ。

YouTubeでかじったところによると、「二重スリット実験」により、光は波であり粒子である二重性を持つ、とされ量子力学が始まった、らしい。

人間を含むあらゆる物質もまた、二重性を持ち、揺れ動く波である、と。

本作で描かれているのは、左翼と中立、原発推進と反水爆、などオッペンハイマーの揺れ動く立場や考え方。

徐々に移り変わる人間性と、量子力学という学問。本作では、この2つが「波動性」により結び付けられていると言えます。

この対比は、文学や言語と物理学を共に愛した(とYouTubeで言ってました)オッペンハイマーの人物像や、理論と実験、科学と社会など本作に散りばめられた様々な二項対立と呼応し、まさにオッペンハイマーの伝記映画としてふさわしい構成でした。

見どころ


全編を通して最大の見どころである、トリニティ実験成功後の集会のシーン。終末の足音を思わせる、オッペンハイマーを称える足踏みの迫力を、IMAXで堪能できました。

このシーンでは、原爆投下を無垢に称える大衆と、罪の意識に苛まれるオッペンハイマーが対比的に描かれています。

この大衆に対し嫌悪感を抱くと同時に、観客は自分たちにも厳しい目線を向けざるをえず、考えさせられるシーンです。

構成

カラーとモノクロの2部構成も見事でした。カラーシーンはオッペンハイマー目線、モノクロシーンはストローズ目線で進行します。

カラーシーンもモノクロシーンも、それぞれの主人公の周りで起こっている出来事しか描きません。それぞれの主人公が不在のシーンはほとんどなかったのではないか、と思います。

これによりオッペンハイマーが、自分が開発した原爆が投下され、多くの人命が奪われた事実に、どのように関わりどのように受け止めたかをリアルに感じることができます。

「観る」センス


「センスがある音楽や映画に接しているだけで、自分がセンスがあると思うな」というツイートがバズっていて、少し落ち込んでいましたが、本作を通じてそれは全くの間違いであると確信しました。

本作を観て、観客が何を考えるか、は非常に重要で、観客にも主体性が求められるからです。

本作は原爆を開発したアメリカ人の目線から、広島、長崎の悲劇を描いています。

であれば被爆国に住む我々は、この映画を観て感じたことを、発信するとは言わないまでも、各々が自覚する必要があります。そうしてエンタメを通じて未来の世界で同じことが起こらないようにすることが、本作には可能だからです。

ストーリー


以上、めちゃくちゃ持ち上げましたが、史実でありかつ日本人が何度も触れてきたテーマである、という点でストーリー自体はそんなに、、でした。

オッペンハイマーがいかに表舞台から下ろされるか、がストーリーの肝ですが、本作はストーリーよりも、観客に自省と思考を促すメッセージ性が優れていたと感じます。

監督の前作TENETはストーリー自体の理解を拒み、感覚的に楽しませる作品だったことを思うと、次はどうなるのか今から楽しみです。

映画自体の面白さ以上に、心に残る鑑賞体験でした。

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