奈良クラブを100倍楽しむ方法#024 第24節対ガイナーレ鳥取 ”虎"
試合終了のホイッスルがなった時、普段あまり感情を出さない堀内が倒れ込んで悔しさを露わにしていた。それくらい、この試合に賭けるものがあったということだ。それでも勝てなかった。この敗戦はかなり痛い。入念に準備をした一戦だっただけに、単純な一敗ではないダメージがある。同じ負けでも、先日のホームでの沼津戦のように総力戦で挑んでの敗戦なら、受け入れやすい。今節は出せるはずのものは出なかったという印象がある。こういう試合は見ている方ですらこれだけ悔しいのだから、選手たちは尚更だろう。もどかしい思いは皆同じ、選手はそれ以上に感じているはずである。
何をやってもうまくいかないときというのは確実にある。自分以外の誰かにその原因を押し付けたくなるのが人間の心理だろう。しかし、結局のところ、こういうところからどう立ち上がるかが重要であり、その繰り返しでしかチームも人も強くなることはない。逆に言うと「よくあること」ではあるので、ここでしっかりと力を蓄えてこれからの試合に繋げていけば、必ず明るい未来はあるはずだ。悲観的になりすぎるのもよくない。悲観的になりすぎることで、まだ手元にあるものですら見えなくなってしまうと、それこそ泥沼にはまってしまう。
戦術というのは方法論なので、この試合を戦術論で語ると「もっとこうすればいいよ」という話になる。もちろん、この試合でもそれは可能だ。ただ、忘れがちなのなのは「なぜその方法ができなかったのか」という戦術の外側の部分を想像することだ。必要以上に相手をリスペクトしすぎた、選手起用で不安があった、などなど。ファンというのは、チームの内情までは知り得ないので、「どうなっているんだ!」と思いがちだが、見えていないものまで想像することは必要なことだ。これを抜きにした戦術論は、正直あまり意味がないと思っている(それでも書くときは書くけど)。もしかしたら、サポーターの応援というのは、そこをひっくり返して前向きにしてしまう力があるのかもしれない。
今回の副題としているハンバートハンバートの「虎」という曲は、まだCDで発表される前の佐藤良成さんのソロライブで初めて聴いたものだ。そのとき、思わず涙し「なんて曲を書くんだこの人は」と思ったことをまだ覚えている。こんなに素晴らしい曲を書く人でもこんな気持ちになるのかと、文字通り心を打たれたのだった。ぜひ一度聴いてみてほしい。
ここでいう「虎にもなれずに」というのは、高校の国語で習った人も多い『山月記』(中島敦著)の引用だ。習った時はいまいちピンとこなかった李徴の無力感というのは、大人になってからは痛いほどわかる。大人というのは、こうした「俺ってこんなもん」と「いや、まだまだできる」の間を彷徨いながら毎日を暮らしている。プロのフットボーラーも同じだろう。ゆえに、無責任な批評はできない。これは僕の正直な気持ちだ。ちなみに僕はお酒はほとんど飲めない。
ものすごく変な話だが、これがFCバルセロナだったら、割と普通に戦術論的な批評(批判ではない)を書くことができる。僕たちにとってバルセロナは遠い存在だ。雲の上のクラブである。翻って、奈良クラブの場合はそれができない。練習場が家から近いということもあるが、感覚的にプロフットボーラーというよりも、「近所に住んでいるサッカーの上手い兄ちゃんたち」という距離感だからではないだろうか。多分、赤の他人という感覚を持っている人は少ないと思う。彼らの息遣いを間近に感じているからこそ、負けた時に安易に「勝つ気があるのか」というような言葉が出てこない。勝つ気満々で毎試合望んでいることはよく知っている。そのために、どれだけの努力をしているのかを見てきている。むしろ、「どれだけ悔しかっただろうか」という気持ちが先行するので、「自分たちまで落ち込んだ顔をするわけにはいかない!」という気持ちになるように思う。一人の選手の移籍でこれほど喪失感を覚えるのも、距離感が近いクラブだからだろう。いつも挨拶を交わすお隣さんが急に引っ越してしまったかのような寂しさを感じさせるほど、奈良クラブの選手は近い。「僕たちのクラブ」という感覚がある。
負けたとはいえ、それでも後半のラスト10分間の猛攻には「いや、まだまだできる」という意地のようなものを感じた。この時間帯は戦術もなにもなかった。引いた目で分析すると、後半の攻勢は準備してきたものを捨ててなりふり構わず攻めに出た結果なので、あの姿を肯定することは事前の対策が空振りだったことを認めざるを得ない。それでも、ただひたすらにゴールを求め続けた奈良クラブの選手たちの姿勢は、まだまだ彼らは諦めていないということを感じるには十分だった。選手がそうなのであれば、僕たちも諦めるわけにはいかない。次節は久しぶりのホームゲームだ。相手は12戦無敗のギラヴァンツ北九州。相手にとって不足無し。勝ち負けももちろん大事だけど、「これが奈良クラブのフットボールだ」という姿を見せてほしい。あなたたちは、僕たちにとっての憧れなんだから。
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