【トラディッション・イズ・モア・アンコンヴェンショナル・ザン・コンテンポラリ】

ニンジャスレイヤーの読者質問コーナーで好きなスシの話が出たので、それをヒントに二次創作してみました。


「ムハハハハ!今日のノウカイはスシだ。」ザシキには2人のスシ・シェフが居並ぶ。「一人は知っての通りアキジ=サンだ。今日はもう一人、最近評判のチギモト=サンを呼んだ。スシ勝負という趣向だ。」ネヴァーモアが説明する。

「ルールはない。好きなものを頼め。勝負は最後に決める。」チバがそう説明すると、ガーランドは早速一つ頼む。「では、トロを」二人は早速仕事にかかる。「「……オマチ」」出来上がりは同時。健啖家はそれを一つずつ食べ、胃に収める。表情からは何かを読み取ることはできない。

ホローポイントが切り出す。「車海老を」「私もそれを」ヴァニティが続く。二人のシェフは早速作り始める。だが今度は二人の仕事は分かれた。先に握ったのはチギモト。バイオ冷蔵庫から取り出した活けの車海老の殻を手際よく剥き、しっぽを残して身をきれいにすると、素早くそれを握った。

ヴァニティはチギモトのスシにショーユをつけ、口に含む。ふわりとしたシャリとプリッとした車海老のコントラスト。生の海老特有の甘みを噛むごとに染み出す旨みが追いかける。「美味しいわね」率直な感想だ。チギモトは軽くオジギする。

アキジもバイオ冷蔵庫から活けの車海老を取り出したが、彼は湯を沸かしており、海老に軽く火を通した。それを冷まして丁寧に殻をむき、握った。エド時代から伝わる伝統の車海老のスシだ。

ホローポイントはアキジのスシをつまむ。口に入れる前から味覚が刺激される。火を通すことで引き出された車海老の磯の香りに99マイルズ・ベイの記憶がフラッシュバックする。サクっとした食感とともに、甘味と旨みが染み出す。コンマ1秒単位で見極められた火の入れ方がそれを実現する。アキジの腕だ。異なる車海老を食した全員が腕を組む。仕事の仕方こそ異なれど、その腕は互角。

「ツマナヨ・スシだ」インシネレイトの注文。その場にやや困惑した空気が流れる。「お客さん、ウチはオーセンティックなスシ屋なんだ。そういうのはやってないね。」チギモトは首を横に振る。「ンダッテコ……」インシネレイトは怒りかかるが、そのやり場を失う。知らなかったのは自分だ。拳は机をたたく。

「……少々お時間を」アキジが切り出した。その手には生のタマゴと酢。どちらもスシには欠かせない、スシ・レストランなら必ずあるものだ。アキジは手際よく卵黄だけをボールにあけると、油を注ぎつつかき混ぜていく。そして酢。卵はかき混ぜるごとに白濁し、滑らかなマヨネーズが出来上がる。

アキジは向き直ると、マグロをスライスし、さらに賽の目に切った。そしてバーナーを取り出し、焙っていく。表面は香ばしく焦げ、中心部が半生。絶妙のタイミングで火を止める。それをグンカン・スシの上に盛り付け、先ほどのマヨネーズをあえる。アクセントに刻んだディルをはらりとかける。「オマチ」アキジ流のツナマヨ・スシだ。

インシネレイトはそれをつかみ取って口に入れた。ほろりとほどけるシャリに、香ばしいツナ。そして作り立てのマヨネーズは芳醇に舌の上でとろける。くどさをディルの香りが洗う。今までに味わったことのないスシだ。だが、それは間違いなくツナマヨであった。インシネレイトは咀嚼し、飲み込むと無意識に言った。「ウマイッス」

「ムハハハ!見事だ。こっちにも一つ作れ」……勝負の行方は決した。チギモトは想像しうる最上のスシを握った。アキジは想像を上を行くスシで返した。勝敗の宣告はなかった。結果は明らかだったからだ。若きチギモトも潔く負けを認めた。

片付けの最中、チギモトは称えるように問うた。「ああいう創作スシも作るのですね。驚きました。」アキジは答える。「何が美味いかは客が決めることだ。それに全力で応えるのがスシ・シェフだと思っている」アキジは道具をまとめると、一礼して去った。チギモトはしばし考えこんだのち、誰もいないザシキに一礼し、帰路に就いた。

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