独断と偏見で選ぶジャパン・アイコン
Photo by Alain Pham on Unsplash
海外の書籍やメディアを漁っていると、日本の話題になった時に日本のアイコン、シンボルとなるイメージが添付される。本項では、そういった海外メディアで見かける日本のアイコニック・イメージについて、独断と偏見でトップ10を選んでみた(国旗および旭日旗は直接的に日本を指すので除いている)。もちろん完全な独断なので、異議も記事化して頂けると私が嬉しいので歓迎である。
1位 漢字・ひらがな・カタカナ
エキゾチシズムを出すだけなら漢字やハングルだけでもいいのだが、そちらは直線が多く画数密度が高すぎて目が滑るらしく、アルファベットの画数に比較的近いひらがなやカタカナがある日本語が選ばれやすい傾向にあるように思う。
「漢字だけでは直線が多く画数密度が上がりすぎる」問題は当の中国人もそう思っている節があり、例えば日本語の「の」と中国の「的」は連体節を作る機能が共通していることから、「の」を「的」の異体字として用いることが増えている。中国人にとっても丸っこいほうがかわいいということなのだろう。
なぜ文字が1位かというと、見る機会が圧倒的に増えているためである。多少古いところでは、ShanghaiフォントやElectroharmonixフォントのようなpseudo-Japaneseフォントが手軽に手に入るようになり、文字で東アジア風を表現する素地があった。
その後、google翻訳などにより「翻訳精度は別として意味の分かる日本語の文字列」が容易に得られるようになり、海外のポップカルチャーの中でエキゾチシズムを表現するために日本語の自動翻訳文を見ることがかなり増えた。この自動翻訳っぽっさまで面白がって取り入れたのがイギリスのファッションブランド「極度乾燥しなさい」である。
そんなわけで、今英語圏で「日本っぽさ」を演出するのにまず真っ先に使われるのは、自動翻訳で出力した「日本語文字列」である、というのが私の独断である。
2位 寿司
寿司はピザやハンバーガーに並ぶグローバル・フードの一角となっている。google mapsで世界のどんな辺鄙な都市を見ていようとも、そこで「sushi」を検索すればスシ・レストランが見つかるだろうし、そこそこ大きなスーパーマーケットに行けば必ずパックド・スシが売られている。もはや世界中でローカライズされ、たらこスパゲティやテリヤキバーガーと同様の「お国寿司」が出来る段階まで来ている。
ただし、ピザやパスタがいくらグローバルフードになろうともイタリア発祥であることは忘れ去られないように、寿司も日本のアイコンであり続けている。メディアでは日本の言い換えとして"Land of sushi"のような言い回しは"Country of rising sun"より多く聞くくらいではないかと思う(もっとも差別的な言い方ではないかという議論も多い)。
寿司はアスリート(例えばテニスのトッププロ)の間でも特に人気がある。糖質とタンパク質(アミノ酸)を急速に補充することが出来、パンのように乾いて喉が詰まるということもない。スタミナとパワーを両立する必要のあるスポーツにおいて、寿司は理想的な回復アイテムなのである。
3位 富士山
google画像検索「Japan」の上位に出てくる富士吉田市の新倉山浅間公園・忠霊塔は、✅富士山✅桜✅伝統建築✅近代市街をコンプリートしており、日本人にとっては穴場だが、外国人観光客にはフォトジェニックなスポットとして極めて知名度が高い。
© 一般財団法人 ふじよしだ観光振興サービス
この写真に入っている日本のアイコンのうち、最もよく見るものは富士山だというのが私の独断である。理由はおそらく、シンプルな三角形で描くのが簡単であることと、寺社が多い伝統建築と異なり宗教的な制限がないこと、ほかの国にもある近代市街よりも差別化がしやすいことあたりが理由ではないかと思われる。
4位 忍者・侍
Photo by Hamza NOUASRIA on Unsplash
Ninjaは、江戸の児雷也ものや立川文庫の猿飛佐助シリーズといった荒唐無稽な忍者像に端を発し、Enter the NinjaやTMNTでアメリカのポップカルチャーに取り入れられて以降、中世から現代まで登場でき、非日常的でミステリアスな雰囲気を醸し、スリリングな展開を起こすトリックスターとして、汎用性の高いキャラクターとして世界中の創作に定着したと言っていいだろう。
ハリウッドのNinja映画ブームはとうの昔の話になり、やや古くなってきてフェードアウトしているのではないかとも思っていたが、最近でもアメリカでトップクラスのゲーム配信者がNinjaと名乗っており、"騎士 knight"と同じくらいの定番キャラクター像であって消えることはないだろうという地位を確立しているように見える。unsplashを見ている限り顔を覆い隠しアクロバティックなことをしていればなんでもNinjaに該当するようなので、この緩さならニンジャのミームが絶えることはないだろう。空手などのマーシャルアーツもninjaとくくりつけられている。
Samuraiのほうも、ハリウッドで疑似時代劇「ラストサムライ」が撮られたり、あるいはサイバーパンク2077でも「Samurai」というバンドが登場したりと健在だが、Ninjaと比べるともう少し日本固有のイメージがある。これは欧州には"騎士 knight"という比較しうる存在があり、それのエキゾチック版という対比が存在するからであろう。Samuraiもエキゾチックな戦士の代表格として意外と立地が固い。これはおそらく歴史的に日本と欧州が封建主義で「武士道」「騎士道」など戦士階級独特のカルチャーを作ったことが大きいのではないかと思われる。歴史的中国のように皇帝専制が強く文官が上で武官は下という格付けが徹底されていた国では、「誇り高い戦士」という文化が出なかったため、現代にカルチャーとして生き残れなかったのではないかと思われる。
5位 ポップカルチャー(ポケモン・メカ・アニメ・マスコット)
Mark I. West "The Japanification of Children's Popular Culture: From Godzilla to Miyazaki" 表紙より
ポップカルチャーは日本を代表するイメージの一つである。アニメと日本はほとんどイコールで結び付けられるように語られるし、「パシフィック・リム」で登場したメカや数度のハリウッド版ゴジラ、あるいはポケモンやハローキティに代表される「kawaii」文化も日本とイコールで結び付けられており、日本を紹介するときのシンボルとしてこれらのアイコンが使われることは珍しくない。
ただ、これらの文化は諸外国に根深く浸透し、ローカライズが進行しつつある。しばらく前にはアメリカの子供向け市場でアメコミはほとんど日本の漫画に追いやられつつあることが話題になったが、日本産漫画を摂取した世代がクリエイターになっているので、どんどんローカライズされ浸透していくだろう。「90年代アニメ風の輪郭とアメコミ風の塗りのハイブリッド」といった絵柄は、Steamのインディーズゲームあたりではかなり頻繁に見るし、この節のアイキャッチに掲げた"The Japanification of Children's Popular Culture"という書籍でも表紙に登場する。
ゲーム界においては、日本メーカーの存在感は独走状態だった20世紀に比べればだいぶ落ちたが、ポケモン等は「ビデオゲームを代表する存在」としていまだ健在であるし、レトロゲームともなれば日本の独擅場であることは変わりがない。マリオやソニック・ザ・ヘッジホッグは今後ともテレビゲーム発祥の地日本のアイコンとして生き残っていくのだろう。
6位 浮世絵・水墨画
日本風の絵画表現のもう一つのテンプレートが浮世絵である。特に、アニメ風の絵のような軽さが邪魔になる領域では、日本風というのを表すのに浮世絵風のフラットな表現や、墨絵風の表現は多く用いられる。トレーディングカードゲームの「マジック・ザ・ギャザリング」(MtG)では日本語限定版イラスト企画が組まれているが、第一回はアニメ風の絵で、第二回は浮世絵風を中心とした絵柄となっている。
浮世絵において発展した線画と面(+グラデーション)による表現技法は、とうの昔に西洋絵画界でも消化され、20世紀に印刷物が増えるにつれ印刷向けイラストレーション技法の定番として定着していき、すでに自家薬篭中のものなっている。先ほど紹介したMtGでも浮世絵風の差し替えでないグローバルバージョンでも、バイユーのタペストリーやベリー公のいとも豪華なる時祷書に似たアルカイックな平面表現になっているものの、浮世絵によって西洋に定着した表現技法が多く使われており、月岡芳年あたりの明治浮世絵に近い印象になっている。そのためか、日本風の絵柄として認知させるには北斎の波や師宣の美人画風のアイコニックな表現が必要とされる場合も多い。
水墨画は元々中国に端を発し、日本独自の表現が発達するのは長谷川等伯の松林図あたりを待たねばならないため、日本独自というイメージではどちらかというと浮世絵風のほうが多いという印象はある。
7位 伝統建築
伝統建築も日本のアイコニックイメージとしてよく用いられるもののひとつである。富士山の項でも紹介した新倉山浅間公園・忠霊塔が写真スポットになっているのは、伝統建築風の五重塔が映り込むのが大きなポイントであろう。
ただし、寺社建築や茶室など日本で国宝とされているレベルの建築物であっても、ぱっと見では中国との差別化が難しいこともあり、多くは単品で日本を代表するイメージになるには至っていない。
日本の独自性が出るのは朱塗りの鳥居と城で、特に鳥居は形も色も両方分かりやすいということで、これらは外国向けの日本のシンボルとしてよく用いられているし、伏見大社の千本鳥居などは外国人向けのフォトジェニックなスポットとして人気がある。先ほど紹介したMtGでも、日本風セットのセットシンボルは鳥居が用いられていた。もう一つ日本独自の建築物として挙げられるのが金閣寺であり、特に雪の金閣は墨絵のような景色になるため人気が高い。
8位 桜
Photo by AJ on Unsplash
桜は日本のセルフ・アイコンであり、外国でも日本との親善交流があると桜の植樹が行われることが多い。ワシントンのNational Cherry Blossom Festivalや武漢市の東湖桜花園はその代表格で、地元民に季節の祭りとして親しまれるのと同時に、茶の湯のデモンストレーションなど日本文化の紹介がイベントとして組まれることも多い。新倉山浅間公園・忠霊塔が人気があるのも桜が映り込むからという理由が大きいだろう。
ただし、桜は単品では日本人が思っているほど日本の代表的イメージではない。植物学的に近縁であるアーモンドも似たような花を咲かせ、花単品だけ出されて日本の桜と認識するのは日本文化に関する文脈があってであり、日本固有度は若干低く、よってこのランクとした。
9位 ネオン街
歌舞伎町とセンター街。グッド・オールド・サイバーパンクのリバイバルに伴って、ごちゃごちゃ・ギラギラしたネオン街のイメージも復興しつつある。テックのリーダーとしてのイメージはとうにカリフォルニアや中国のほうが強いだろうが、歌舞伎町や渋谷に代表されるネオン街のイメージは日本の特徴であり続けている。unsplashで「japan」タグが付いているものでは、ネオン街の写真や夜景は地味に人気がある。
近年日本の夜景・ネオン街がよく撮られるのにはもう一つ理由がある。それは、デジタルカメラの発展で夜景撮影能力の高いカメラが増えた――特にiPhoneなどで気軽に高品質の夜景が撮影できるようになったため、写真趣味の人に夜景スポットとして見栄えのする日本のネオン街の人気が高まっている。
そして、聞いた話ではもう一つ治安がいいというのが大きな理由のようである。ナイトスポットは基本的にどこも治安が悪く、タイムラプス映像の撮影のため数時間カメラを放置しても盗まれる心配が少ない、という点で日本は絶好の夜景撮影スポットなのだそうである。
10位 エクストリームチャレンジ系TV番組
日本であまり知られていない日本のアイコンとして、エクストリームチャレンジ系TV番組がある。理由は単純で、「風雲たけし城」が外国でもカルト的人気を博したためである。後にTBSからSASUKEなど「たけし城」をマイルドにしたバージョンが出ると、それらはAmerican Ninja Warriorなどの番組名で海外にもフォーマットとして輸出されている。
この手のTV番組の祖は、Wikipediaによると1961年開始のフランスのJeux Sans Frontièresだが、「たけし城」が愛されるのはビートたけしの悪ノリ感あってでもあり、例えば次のProfesseor Genki's Super Ethical Reality Climaxはたけし城の「悪ノリ」の部分を拡張した作りになっている。
次点
さて、最後に独断と偏見のトップ10リストから漏れたものを最後に並べて行こう。
マーシャルアーツ(相撲・空手・柔道):日本を代表するメインビジュアルとはなっていない。相撲は分かりやすいが美しさと直結していないため多用はされておらず、空手や柔道は日本発祥なのは知られているが、すでに競技スポーツである。
出っ張眼鏡:昔は日本人のアイコニックイメージといえばこれだったが、栄養が良くなり出っ歯眼鏡の人自体が減ったことと、さすがに差別的にすぎるので今は見ない。
大日本帝国:ヒトラーは完全にフリー素材の悪役だが、大日本帝国もヒロヒトも相応にフリー素材だということは日本人としては忘れてはいけないだろう。艦隊これくしょんと同様に海外でもフリー素材なのだ。
ヤクザ:犯罪者なのでメインビジュアルに据えられることはないが、ヤクザもの任侠映画はその昔の日本映画では一大ジャンルだったこともあり知名度は高く、今でもゲームやアクションもので「モブ敵」として頻用される。
女子高生/ギャル:漫画やアニメで学園ものが多くなりがちである(少年漫画なら読者がその年代である)ため漫画・アニメと同時にアイコニックイメージとして広がっている。制服の可愛さは学校経営に影響するためかなり洗練されており、ガングロのころの独創性はイタリアのファッションブランドに逆輸入されたほどで、既に単品で日本を代表するイメージである。「女子高生でヤクザ」という欲張りセットの「キルビル」ゴーゴー夕張が有名だろうか。
折り紙:数学者が日本を紹介するときに頻用される。知的で洗練されているというポジティブなイメージが付いており、商品名やコードネームでも好んで用いられる言葉である。
俳句:海外でもpoetryの文化は盛んで高級とみなされるが、日本語でないところでpoetryの入門としてHaikuは案外使われる。短くすぐできる・押韻のルールが弱く(あるいはカスタマイズでき)自由度が高いというあたりが入門に適しているのだろう。
禅:禅宗自体はインドが大元で中国で栄えたたものだが、Zenという語は日本から輸出されている。既にヨーガやニルヴァーナと同様にエキゾチック精神体験の定番ではあるが、日本のアイコニックイメージとしての地位は低い。
温泉:ビジュアルイメージとして弱いのでアイコニックにはなっていないが、地獄谷野猿公苑の「雪が降る中温泉で温まるニホンザル」は「知る人ぞ知るイメージ」の一つになっている。
典型的ショーケース
さて、ここまで長々書いてきたが、こういった日本のアイコニックイメージの完璧なショーケースと言えるのが、ゲーム「オーバーウォッチ」のキャラクター紹介ショートフィルムである。
このショートフィルムに出てくる日本のアイコニックイメージを順にあげると、
✅浮世絵
✅ドラゴン
✅桜
✅ヤクザ
✅ネオン光
✅忍者
✅マーシャルアーツ
✅漢字
✅富士山
✅近代市街
✅伝統建築
と、ほぼ完璧にコンプリートしていると言っていい。ステレオタイプの詰め込み度合いという意味で傑作といってよいだろう。
そして、このようなジャパン・アイコンは日本にも逆輸入されている。その代表格がニンジャスレイヤーだろう。ニンジャスレイヤーではアイコンにされる過程でカリカチュアライズされた部分も積極的に取り込んでおり、その部分をフックとして楽しめるコンテンツとして知名度を獲得している。
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