グルメ漫画覚書:鉄鍋のジャン!

少年漫画誌で料理漫画を掲載すると、しばしばバトルものの形式を踏襲する。「包丁人味平」「ミスター味っ子」「中華一番!」とその例には事欠かない。この方向性をメタに見て一気に極北の方向にもっていったのがこの漫画、鉄鍋のジャン!である。主人公は「料理は勝負」というモットーを掲げ、悪漢、ダークヒーローとして造形されている(ただし主人公は努力の人としても描かれている)。「相手の出してくるメニューを不味く感じさせるためだけの料理」を主人公が繰り出すあたりはこの漫画の真骨頂と言えるだろう。非常にアクの強い主人公だが、対決の相手も主人公同様にアクの強い相手が多く、ケレン味の強い料理勝負が繰り広げられるため、対決もの料理漫画につきものの過剰なリアクション芸が鼻につきにくくなっているのも、メタから見て作風を決めたことがよく働いている。

この漫画の面白いところは、作品全体にケレン味が強く料理も奇想天外なものが多いにも関わらず、料理の半分以上は実際に作ることが可能であり、しかも作中に表現されたとおりに美味い、という所だろう。既存のレシピはもちろん、作中の創作料理と思われるものにも実作可能なものがある。途中「辛くなく旨味のあるラー油」いうものが出てくるが、巻末に作り方のレシピが掲載されており読者数名が実作している(漫画掲載後に「辛くない・食べるラー油」の市販品が流行ったりもした)。春巻対決で出てくる創作春巻も実際に作ることが可能であり、作中の表現通り美味い。酵素レシピ、詳細不明の麻酔キノコレシピ、血のデザートなどについてはファンタジー色が強く再現不可能だが、その中にしれっと再現可能な創作レシピが混じっているのが面白いところである。監修に当たったフードコーディネーターが優秀だったことがうかがい知れる。

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