宇野弘蔵入門

この記事は, 2020年7月8日に私のTwitterで書かれた内容を, 一字一句変えずにnoteという媒体に書き写すという目的で書かれたものである.

日本には, カール・マルクスの学者として

宇野弘蔵という人がいた

このかたは, 私から見れば, 面白い学者なのであるが, どうも, マルクス主義経済学者からは受けが悪い

それなので, 宇野は自分の展開する経済学を「マルクス経済学」とし, マルクス主義経済学と峻別した

では, 宇野弘蔵の読者として, ごく簡単に

「宇野弘蔵のマルクス経済学」を概説したい

これを読み解くキーワードは, 「労働力商品化」というキーワードと, 「三段階論」である

以下でそれを説明してみる

さて

説明の比較的簡単な「三段階論」からはじめよう

宇野は, 経済を学問として語る究極目的を「現状分析」であるとした. つまり, 未来にとって望ましい社会のあり方を詳述するという姿勢を, マルクスは拒絶していたと宇野が判断したため, 宇野は, その姿勢を貫徹しようとしたことになる

三段階の中身とは

原理論, 発展論, 現状分析である

原理論とは, 資本家, 労働者, 土地所有者の3つの階級のみが存在する純粋な資本主義社会を想定し, 資本主義に特有な商品経済を支配する法則を探究するものである

発展論とは何か

これは別名「段階論」とも呼ばれるが

政府の関与を, 先の原理論に入れ, 国によって経済政策のあり方の違いによる資本主義の「類型」を記述せんとするものである

そして現状分析とは

「経済学研究の究極の目的をなす, 各国の, あるいは世界経済の現状を分析しうることになるのである」

という姿勢のことである

もっとも, 宇野は, 原理論を頭に入れたら, それを忘れて現状分析しろということも述べているので, 一筋縄ではいかない

そういえば, 宇野弘蔵は

マルクスの『資本論』のみならず, レーニンの『帝国主義論』にも多大な影響を受けていると述べている

大雑把には, 資本論=原理論, 帝国主義論=段階論

と, 宇野は位置づけ, それぞれを宇野なりに発展させた

前者は『経済原論』で, 後者は『経済政策論』で, それがわかる

また, 宇野の政治的スタンスは

本人も認めているが「無政府主義者」であると思われる

また, マルクス資本論を, 政府の関与や, マルクスのイデオロギーが過剰で, 原理として分析を誤っていると思われるところは躊躇なく修正することをし続けたのが, 宇野である

なかなか宇野経済学の入門に入れないのだが, もう少々待っていただきたい

宇野の思考スタイルを知らないと, 宇野の本は読めないからだ

宇野は, 哲学的にはヘーゲルをよく知っている, 新カント派の思考スタイルをとる

つまり, 個性記述たる社会科学と, 一般法則を述べる自然科学とを峻別する

そして, 経済学はもちろん社会科学の一つなので

資本主義を歴史的なものとして, その個性記述をすることに努めようとした人が宇野弘蔵である, と言えるのだ

要は, 宇野は資本主義を歴史的な産物であるということを意識していたのです

また, 宇野弘蔵は小説付きでお馴染みであり

しかも宇野弘蔵は, 宇野学派というものを残したが, 宇野弘蔵だけが「グルンドリッセ」と呼ばれるマルクスの著作を重要であると言い続けたのである

この意味は, 宇野は決して資本論だけを読んでいたわけではないということである

経済学を学ぶことは知的なインテリになること

小説を読むことは人間的にインテリになること

という趣旨の内容を宇野弘蔵は述べていた

ここから言えるのは, 宇野は宇野なりに「諸個人」を捉えようとしていたということだろう

さて, いよいよ, 宇野弘蔵の理論入門を始めよう

もっとも, これはマルクス資本論の議論を知っていることをある程度前提とさせて欲しい

でないと, 記述量が大変なことになるので...

キーワードを覚えていますか?

「労働力商品化」これです. これは忘れないでください

資本主義的生産様式においては, 資本は自己増殖する価値運動体であり, 具体的には, 「労働」ではなくて「労働力」を商品化せざるを得ない人々(生産手段を持たず, 土地からも自由である人々)を「資本家」が雇い入れ, 労働力の対価である賃金よりも多くのものを引き出すということで, 利潤を生む

労働力の対価たる賃金は, 「労働者の再生産」が可能である範囲において, いくらでも下げられるというものが, マルクスおよび宇野弘蔵の指摘である

つまり, 労働者階級が再生産されるが豊かにもさせない, 「生かさず殺さず」を保つのが資本家の行動原理なのだ

もっともこれは宇野だけのものでない

宇野の慧眼は

価値形態論において労働価値説を証明したと言っているマルクスに対し, 労働価値説は「生産論」つまり, 資本の生産過程を記述するところで証明されるべきものである, として, 価値形態論に混在する「実体論」を切り出したことである

形態重視なのである, これは実体を暴くためである

「労働力商品化」

これは, つまり, 資本主義的生産様式の成立条件である.

また, 労働力をも, 人口増減にあまり左右されない形で再生産するのが, 資本主義的生産様式であるということを強調したのも宇野であり, これは相対的過剰人口論というもので説明されている

そして宇野は

資本主義は矛盾を解決する手段として「恐慌」というものがあるから, 資本主義は制度としてはあたかも永続するが如く存在すると主張する

ここが, 資本主義の矛盾によって, 資本主義が終わると述べたマルクスとは決定的に異なるところである

簡単に述べれば

好況時は, 既存の設備で商品量を増やして儲けるが, あるところで, 投資しても損をするという段階に至る, ところが資本家は利潤量を得たいので, 利潤率が下がろうがどんどん投資をして, いつか爆発する, 大体は金融恐慌として...

(宇野が政府の存在を無視していることに注意)

そして恐慌が起きると, 企業はいわゆる生産性向上のための新規設備投資を行い, 少ない労働力で大きな利潤を得るために技術革新を行う

これが成功すればまた, 好況への道を回復する

しかし, 政府の存在がなければ, いずれまた恐慌への道をいく...

宇野弘蔵の『恐慌論』は

政府の存在を無視しているので現代には合わないことがあるが, 参考にはなるだろう

要するに

宇野弘蔵の特徴は

1=経済学方法論を独自に展開したこと「三段階論」
2=価値形態論と労働価値説の峻別, そして資本の生産過程において労働価値説の証明をしたこと「労働力商品化」
3=マルクスの恐慌分析を, 資本主義が永続するが如くの現実的な矛盾解消を恐慌としたこと「恐慌論」

ダメだー

内容の説明ができていないー

宇野弘蔵の著作のみから参考文献を挙げます

『経済原論』『恐慌論』(岩波文庫)
『資本論に学ぶ』『社会科学としての経済学』(ちくま学芸文庫)
『経済学 上巻下巻』(角川ソフィア文庫)←宇野はこれの編者でもある
『資本論五十年』(法政大学出版局)

宇野学派のことを学びたいのならば

『資本論研究』全5冊

これは, 要約, 問題提起, ゼミナールの三段形式なので, 読みやすいはず!

廣松渉の弟子として有名かな?

熊野純彦という哲学者の出した『マルクス 資本論の思考』も入門書としては良いと思います

廣松と宇野は, 論敵であったが, 熊野はむしろ, 宇野の理解を尊重する立場になった, 論理の厚さが宇野の方が強いのである

また, 宇野は政府の存在を無視した経済の原理論を展開したのだが

それの失敗を, 交換様式という観点から克服しようとする人として

柄谷行人という人がいる

『トランスクリティーク カントとマルクス』
『世界史の構造』『帝国の構造』などが面白いだろう

ああ, ちなみに

廣松は「物象化論」提唱者として悪名高いのだが

宇野は「疎外論」の立場を持っていると言える

加えて宇野は, 絶対他者の存在をかなり意識していると判断できる

宇野は, レヴィナス, 親鸞と同じ次元で語れるのである

青木孝平『「他者」の倫理学』は面白い


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