HeadlineはどのようにPMFを測っているか?PMFの指標と原則
こんにちは。Headline Asiaの西島です。今週はUSチームのニコラスが別件で忙しく、「今週の急成長スタートアップ」がお休みです。
代わりにニコラスが以前ポストしていた「3 Principles for Assessing Product-Market Fit」という、Headlineグループが自社開発しているコホート分析用ツール「DeepDive」を用いてどのように投資検討の際、PMFの是非の判断をしているかという解説記事を翻訳したいと思います。
コホート分析はVCの投資検討にはもちろんですが、PMFを目指すスタートアップが自分達のプロダクトがPMFしているかどうかの判断も助けてくれます。チャートの作り方がわからない場合はcsvテンプレートにトランザクションデータとPL(任意・あった方が良い)を埋めていただければDeepDiveを回すことが可能なので(少し作業必要ですが、そこまで時間取らないかと思います。)ご興味があればTwitter DMなどでご連絡ください!
最近、20VCの創設者Harry StebbingsとDoorDashのVPのBrian Haleとのポッドキャストのインタビューを聞いていて、ビジネスの成功を予想するためにカスタマーリテンションがどれほど重要かについて考えるようにりました。
私は、StebbingsとHaleが言ったことのほとんどに同意しますが(ぜひ一度聞いてみてください。)、Headlineのチームがスタートアップのプロダクト・マーケット・フィット(以下:PMF)を評価するために使用している、いくつかの追加的な要素があります。このインサイトを活用すれば、投資家はその企業が長期的に良い業績を上げることができるかについてより精度良く判断できることができます。そして、市場環境がますます不安定になる中、PMFの明確な定義は、ファウンダーやベンチャーキャピタルにとってこれまで以上に重要となっています。
今年のベンチャーキャピタルの資金調達の減速は、多くのスタートアップのファウンダーを不安に陥れているようだ。インフレ、金利上昇、消費者意識の変化、マーケットのボラティリティなど、事業を成長させるには難しい時代です。
しかし、だからと言って資金調達が不可能ということではありません。ただ、ビジネスの基本をもう一度見直す必要があります。以前、資本効率について書きましたが、PMFもファウンダーとベンチャーキャピタルが、どのような市場環境でも持続的に成長するために目指すべき、重要な指標の一つです。
PMFを見極める
PMFが達成されているということは、そのプロダクトが高い評価を受けている市場セグメントに位置づけられている、つまり、そのプロダクトに対する持続的な需要があることを意味します。どんなに独創的なアイデアでも、顧客が長期にわたって生活の一部にすることを望まなければ、PMFを達成することはできません。PMFは、すべてのベンチャーキャピタルが求めているものであり、大きな会社を成功させるために不可欠なものです。PMFがあれば、あとはそのプロダクトをターゲットとなる顧客層に届けるだけです。
Headlineでは、投資検討の際にPMFに重きを置いています。一日の大半を費やして企業データを調査し、PMFのシグナルを探して以下の問いの答えを探しています。
・私たちのチームがその企業の資金調達をリードすべきかどうか。
・その企業が今まで事業を行ってきた中で何が特別だったのか。
・カスタマーリテンションレートとエンゲージメントが高いか。
・事業規模の拡大に伴い、顧客エンゲージメントがどのように変化しているのか(改善/悪化しているのか)。
私たちのチームは、自社で開発をしているソフトウェア「DeepDive」を用いて、PMFの3つの主要な要素に着目し、企業の過去のパフォーマンスを最適に評価し、今まで素晴らしい企業を見出してきました。PMFの測定方法をより良く理解することで、ファウンダーとベンチャーキャピタルは同様に、市場の状況に関わらず、真の事業成長の道筋をより良く理解することができます。
1. PMFの評価はコホートから始まり、前月比のリテンションに及ぶ
StebbingsとHaleのPMFに関する議論の1つは、コホート分析を中心としたもので、これはHeadlineの見解と共通するものである。
従来のリテンションの評価方法は、マンスリーなど一定の単位で傾向を評価するものでした。しかし、これでは顧客の行動を明確に把握することはできません(1年以上プロダクトを使い続けている顧客と、利用を開始して間もない顧客は全く異なります)。より効果的な代替案として、Haleは、長期的なリテンションを見るために、顧客の行動を理解するためのコホートの評価の重要性を強調しています。
以下は、コーホート別のユーザーリテンションを示すグラフです。
各線は、コーホートのリテンションを時間軸で表しています。コーホート内のチャーンが減ると、線は平坦になります。
時間軸は、コホート間の比較をより意味のあるものにするために、Lifemonth(ある顧客コホートが何ヶ月間ビジネスと関わってきたか)で測定されています。
平坦化した線は、PMFを示しています。これは、コホート内の顧客の一部が、プロダクトを長期にわたって使い続けているとわかるためで、プロダクトが顧客の日常生活の一部となっています。
また、Lifemonth間のリテンションも比較できます。これは、(コホート内の初月の顧客の比べてではなく)あるLifemonthから次のLifemonthまでリテンションする顧客の量を比較するものです。Lifemonth-to-Lifemonthのリテンションが100%に達し、それを維持することができれば、それはPMFと言えるでしょう。
ほとんどのVCは、この線が平らになることを好んでいます。しかし、Headlineのチームにとって、この水平方向の漸近線はほんの始まりに過ぎません。
2. 長期的なコホートユーザーアクティビティは、より強いPMFの指標となる
PMFをさらに評価するために、私たちは、長期的にリテンションしている顧客の行動も見てみたいと考えています。リテンションした顧客が、プロダクトの成熟に伴い、より多くの価値を感じる場合、それは、時間の経過とともに、アクティブ率が上昇したり、あるいはより多くのお金を支払うことによって見ることができ、それはPMFのさらに強い指標となります。このようなコホートでは、チャートの漸近線が水平になった後、顧客の利用や購入が増加するにつれて、チャートが増加する(プラスの傾きになる)ことがあります。
以下はその例です。
カスタマーリテンションの漸近線が平坦になり、リテンションした顧客がよりアクティブになっているとき、そのプロダクトが市場の真の課題を解決している良い兆候となります。成功した投資先企業はすべてこのモデルに合致しており、そうでない場合は通常、投資していません。
3. 低い位置の漸近線は必ずしもPMFがゼロであることを意味しない
コホートが平坦になる漸近線の位置が非常に低い(1~2%)会社はダメな会社でしょうか?StebbingsとHaleは、ポッドキャストでこの点にも触れています。Haleは、漸近線はPMFのレベルを定量化するものであり、平坦化した漸近線の位置が低い場合はPMFの可能性が低い、あるいはないに等しいと指摘しています。
もちろん、より高い位置の平坦な漸近線であればあるほど良いです。しかし、平坦化した漸近線の位置が低いことが必ずしもPMFの可能性の低さを示しているとは限りません。むしろ、顧客獲得ファネルの広さを反映している可能性もあります。
例えば、フリーミアムサービスのように、プロダクトを使い始める障壁がかなり少ない場合、(10万ドルの導入費用がかかるエンタープライズソフトウェアのような高価なサービスと比べて)漸近線の位置が低くなる傾向があります。
フリーミアムサービスの漸近線の位置が低い場合、コホート内のごく一部の顧客のみが残っていることを示します。しかし、もしかするとマーケターが顧客にそのプロダクトを試してもらうのが非常にうまいだけで、PMFの可能性が低い、あるいは全くないとは言い切れないかもしれません。
導入障壁が少なく、幅広い顧客獲得ファンルは、平坦化する漸近線の位置が低くなるケースがあるため、このようなスタートアップだからと言って全てを無視することはありません。リテンションの漸近線が低い企業は、獲得した顧客のサブセットに対してのみ、PMFしている可能性があります。もしそうであれば、次のような質問をすることになります。
・顧客獲得にかかるコストは、獲得した顧客のLTVに対してどの程度なのか?
・顧客リテンションの低くても大きな売上が作れる大きな市場規模があるか?
リテンションが低いビジネスでは、大きなスケールを実現するために、より多くの顧客獲得が必要になります。例えば、リテンションが2%の企業は、1人の顧客を維持するために50人の顧客を獲得する必要があります。従って、そのスタートアップがユニコーンサイズの企業になる前に、ターゲットとする市場を食い尽くしてしまうのではないか、という疑問が出てきます。
これらの疑問に対する答えは、このグラフの中には見いだせません。よって、さらなる検証が必要ですが、リテンションが低いスタートアップを、PMFのない「穴の空いたバケツ」として全てを排除すべきではないということは重要です。
いかがだったでしょうか。PMFの定義は人によって様々ありますが、こうしてきちんとデータを取り視覚化することでよりわかりやすく、定量化することができると思います。また、VCへのピッチの際もこうした定量データを見せることでより説得力が増すと思います。冒頭でも書いた通り、もしトランザクションデータをコホートでみてみたいなどのご希望があれば可能な限り対応しますので、ご連絡ください!
Headline Asiaについて
Headline Asia(旧称:Infinity Ventures)はアジアを中心に4つのファンドで累計270億円を運用する、グローバルな独立系ベンチャーキャピタルファンドです。国内外に幅広いネットワークを有し、このネットワークを最大限に活用して、ベンチャー経営・投資において成功実績を持つメンバーが投資案件の発掘などの情報提供や出資先の経営支援を行い、出資先の企業価値の最大化を目指します。代表的な投資先として、直近IPOしたfreee・WealthNaviをはじめとして、ジモティ、17LIVE、GROUPON、Yeahka、FARFETCH、36krなどがあります。
2021年5月に、10年間にわたりグローバルにユニコーンを発掘する協力関係にあった、アメリカ・ヨーロッパで投資活動を行うe.venturesとともに、Headlineへリブランディングを行いました。Infinity VenturesはHeadline Asiaとして、これからも日本を中心としたアジアへの投資戦略に焦点を当ててまいります。
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