「永遠から五分だけ盗む」と書いた作家
【その4】
「彼は椅子の上へよじのぼって、おずおずとあたりを見まわしながら、永遠から五分間だけ盗む」
チェーホフ・ユモレスカ 傑作短編集I
チェーホフ
訳者 松下裕
平成20年 新潮社 118頁
『心ならずもペテン師に』
今日はチェーホフです。
上の文章だけでは何を示しているのか分からないと思うので少し解説すると、
新年のお祝いをひかえ、バタバタした家の中。
夜11時過ぎ。早く飲みたい大人たちと、キッチンで料理に追われているお母さん。
そんな状況の中、新年を待ちわびる子供がこっそり時計の針を進めてしまう様子を書いています。
「時計の針を五分間だけ送る」ことを
「永遠から五分間だけ盗む」
と書いているわけです。
おしゃれすぎませんか。
ファッションのおしゃれとは違って、文章のおしゃれは多数の人の目を引いたりはしません。
数百ページの中にそっと埋もれて、いつか誰かがそこをめくって見つけ出してくれるのを、図書館や本屋の一角でじっと待っています。
名文を見つけるのは、宝を掘り当てる様なものです。
チェーホフは、100年以上後の極東で、自分が書いた一文に誰かが魅了され、それをスマートフォンに打ち込んでいる姿を想像できたでしょうか?
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