小説の効用
【その7】
「択ぶということは、選定することではなく、むしろ、選定しなかったものを押し退けることのように私には思われる」
ジッド『地の糧』
新潮社 昭和27年(新版令和5年) 70頁
今回はノーベル文学賞を取った作家、ジッドです。
この『地の糧』は、思考の深層部を柔らかく刺激してくれます。
数ページで放り出す人と、数ページで虜になる人に分かれるのではないでしょうか。
つまり、思考する人たちに向けた小説です。
深く思考する人たちは色々なところに散っていて、言うまでもなくその人たちは、社会的地位や学習能力、性別等とは無関係に分布しています。
それは小学生かもしれないし、売店の売り子かもしれない。スーツに身を包んでいるものの出世とは無関係な、窓際に座る誰かかもしれない。
あるいは囚人かもしれないし、どこかの社長でなければ宇宙飛行士かもしれない。
『地の糧』を読み終えた時になぜかふと浮かんだのは、その人たちのことです。
この小説を精読している誰かがどこかにいると考えた時、この地の感触は、ひょっとすると思っているほど悪くはないのかもしれない、という気がしたのです。
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