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第12回 ブッダメソッド 補足説明と考察

“ストレスを手放し、心を解放しよう!”シリーズの第12回です。
前回は、「【図解】これがブッダ・メソッド」として、今までの話をまとめました。
今回は、ブッダメソッドの補足説明と私が感じている考察に関してお話したいと思います。

1.ブッダメソッドのエッセンスのまとめ

苦から解放されるために、心を浄化するために、『智慧』を育むために、必要となるブッダの教えのエッセンスをまとめた図は次のとおりでした。

ブッダメソッドの要

私たちは、ヴィパッサナー瞑想の実践を通じて、自分自身で体験し、智慧を育み、これらの真理を悟る必要があります。
それにより、心は完全に浄化され、苦しみが消え去り、究極への真実である『ニッバーナ(涅槃)』に至ります。

この究極の真理に至るためには、「わたし」「わたし自身」「わたしのもの」と思い込んでる、このからだ、この心、心の内なるものについて、表に現れる真実を貫くように、浸透するように観察し、深く探求していきます。
分解し、分割し、溶解していくことで、次第に究極への真実に近づいていきます。

「わたし」というものは、からだというプロセス、それに4つの心のプロセス(意識・認識・感覚・反応)、つまりこの5つのプロセス(過程・現象)である5つの集合体で成り立っています。
そして、私たちはこの5つの集合体のプロセスに執着しています。

そこにあるのは、ただ心と物質の現象、心と物質の相互作用だけです。
それが休みなく、常に起こり続けています。
一瞬一瞬、休みなく流れ続けるプロセスにすぎないのです。

そして、すべては波動の集合体です。
ほんの一瞬で生成されては崩壊しています。
生成消滅を繰り返しているのです。
生じては消える、単なる波動なのです。

心とからだの5つのプロセスは、アニッチャ(無常)です。
この5つのプロセスへの執着がドゥッカ(苦)です。

この5つのプロセスへの執着がなくなれば、どこを探しても、「わたし」「わたしのもの」「わたし自身」というものは何一つない、空っぽです。
すなわち、アナッター(無我)です。

アニッチャ(無常)・ドゥッカ(苦)・アナッター(無我)を悟り、からだと心のもっとも微細な本質に達すると、心の最も奥底に隠れているサンカーラが浄化されます。

そうすると、苦は消滅し、心は解放され自由になります。

心(精神)とからだ(物質)超越した究極への真実であるニッバーナ(涅槃)に至ります。

第12メソッド概要


2.補足説明と私の考察

(1)アナッター(無我)について

仏教が生まれる時代背景には、バラモン教の存在がありますよね。
私はもともとマントラを使った瞑想を行い、アーユルヴェーダの学会などにも関わっていましたので、「ヴェーダ」や「ウパニシャッド哲学」を勉強した時期がありました。
その思想の中心は、宇宙原理(宇宙我)である「ブラフマン」と、個体原理である「アートマン」の合一説「梵我一如(ぼんがいちにょ)」の思想です。

「アートマン」とは、「個人我」や「真我」と訳されます。
私のもっとも深い内側にあるアートマンが本当の自分だと考えられています。
意識の最も深い内側にある個の根源であり、自我,自己,霊魂,本体、万物に内在する霊妙な力などと説明されます。
バラモン教では、「魂」または「霊性」のようなアートマンが私の内側に存在し、それが輪廻転生をしていると考えられています。

しかし、ブッダはこのバラモン教を否定して、バラモン教に変わる新しい宗教として成立しています。

すなわち、アナッター(無我)とは、「アートマン」だと言えるものは何もないということ。
あるのは、ただ心(精神)と物質の現象、心(精神)と物質の相互作用だけであるということです。

そう解釈すると私にはよく理解できます。

ここでは、深く説明しませんので、「ヴェーダ」や「ウパニシャッド哲学」は一度勉強してみると、よりブッダの教えが理解できると思います。

(2)サンカーラとは何か

サンカーラに関しては、本シリーズの中で、何度もご説明していますので、ご理解いただいていると思います。

五感と心の6つの感覚器官が何かに接触するとき、
心の4つのプロセスが瞬間に働き、
好き・嫌いという反応を繰り返し、
それに執着し、渇望や嫌悪を生み出し、
これを繰り返すことにより、
心の中に固く凝り固まった汚濁、穢れ、
心に強く結びつく「心の縛り目」
が生まれる。
これがサンカーラである。


サンカーラ

6つの感覚器官との接触によって、からだのどこかに「感覚」が生じます。
「感覚」に反応することによって、「苦の車輪(4つの心のプロセス)」が回り出し、蓄積されているサンカーラが瞬時に燃え出します。
そして、より深くに蓄積されているサンカーラにも火が付き、より大きな炎になって勢いよく燃え出していきます。
すると、私たちの心はその感情に囚われ、支配され、強い感情に振り回され、苦しみ出します。

逆に、苦しみから脱するためには、どうすればいいのでしょう。
「感覚」という火花は、感覚器官との接触で、瞬時にからだのどこかに必ず発生します。ですので、この火花の発生は止められません。
すなわち、火花が発生しても

・サンカーラに火が付かないように、導火線をなくす
・サンカーラに火が付いたとしても、すぐに消化する
・サンカーラ自体を滅してしまう

反応しないこと、苦の車輪を止めること、サンカーラを浄化することにより、苦しみから解放されます。
これらを行うのがヴィパッサナー瞑想です。

すなわち、サンカーラはドゥッカ(苦)です。

ところで、心とは何でしょう?
心という言葉の語源を調べてみると

「心」の語源・由来
 「凝々(こりこり)」「凝々(ころころ)」「凝る(こごる)」などから「こころ」に転じたとする「凝」の字を当てた説が多く見られるが、正確な語源は未詳である。
                         (語源由来辞典)

心とは、“何かが凝り固まったもの“
これはサンカーラと同じ意味で、とても興味深いと思います。

サンカーラも、執着した渇望や嫌悪が、心の中に固く凝り固まったものだからです。

すなわち、私たちが自分の心、これが私と思い込んでいるものは、このサンカーラの集合体にすぎないのですね。

・本当の自分はこれだ
・これが私らしい
・これが自分の価値観だ
・私のアイデンティティ
・理想の自分

など、一貫した自己・自我への意識、強く想っているもの、そのすべてがサンカーラと言えます。

このサンカーラは、滅することができます。
平静な心で感覚を観察し、反応しないことを繰り返し、執着していることを認識していくと、自然に消滅していきます。
ヴィパッサナー瞑想を実践すると体験できるようになります。

すなわち、サンカーラはアニッチャ(無常)です。
生まれては消え去るものです。

サンカーラを浄化していくと、「自分の心」、「これが私」と思い込んでいるものがなくなります。
どこを探しても、「本当の自分」、「魂」のようなアートマン、不変的な自分の根源はどこにも存在しません。

すなわち、アナッター(無我)です。


(3)12の因果関係の連鎖

サンカーラを理解するためには、ドゥッカ(苦)の原因を説明している『12の因果関係の連鎖』を理解する必要があります。
この『12の因果関係の連鎖』が、ブッダ・メソッドを理解する鍵になります。

十二縁起

この12の連鎖うち、※印を付けている2つの連鎖はとりわけ重要です。
この行の意味はわかりますでしょうか。
分かるような、分からないような感じで、なんとなく流してしまいがちです。

※1は、過去の生と現在の生をつなぐ連鎖です。
3行目までは、過去の生のものになっています。

3行目から9行目までは、現在の生のものです。
どうやってサンカーラが生み出されるか説明しています。

※2は、現在の生と未来の生をつなぐ連鎖です。
10行目以降は、これから起こる未来の生のものです。
そして、ドゥッカ(苦)が生み出される原因を説明しています。

この連鎖は、過去から現在へ、現在から未来へ、遠い昔から続いて作用している連鎖を説明しています。

では、各行の説明をしていきたいと思います。

無知によって、反応が生じる。
反応によって、意識が生じる。

私たちは自分が反応していることに気づいていません。
何に対して反応しているのかも気づいていません。
無意識に働いている心の働き、心の癖を知らないため、やみくもに反応を繰り返し、「苦の車輪」を回し続けています。
4つの心のプロセス(意識・認識・感覚・反応)をぐるぐる回し続けています。
この流れは、生きている間、ずっと続きます。

意識によって、精神と物質(5つのプロセス)が生じる。※1

過去の生が終わるとどうなるのでしょう。
死の瞬間、からだのプロセスの流れはすべて止まります。
この瞬間、強烈なサンカーラが生み出されます。
心の第1のプロセスである意識は、からだとの繋がりから切り離されます。

意識(ヴィンニャーナ)とは何だったでしょうか。
意識はアンテナのようなものです。
内容を識別したり、判断したりせずに、ただ生データを受信するのみです。
『第2回:苦しみはなぜ生まれてくるのか』に説明していますので、参照ください。

例えとして説明しますと、意識(ヴィンニャーナ)は私のからだにアンテナを向けて、周波数を合わせているようなものです。
その肉体が死ぬと、受信できなくなり、切り離されます。
死の瞬間に発生した強烈なサンカーラに、新しいからだ(新しい生・新しい肉体)がアンテナを向けて、受信し始めます。

現在の生が、新しいからだ(肉体)とともに始まるのです。
新しいからだのプロセスと4つの心のプロセス、すなわち心と物質の5つのプロセスが、現在の生として、新たに始まるのです。
心(精神)と物質の現象、心(精神)と物質の相互作用の流れを生み出し、現在の生が始まったのです。

精神と物質によって、六つの感覚器官が生じる。
六つの感覚器官によって、接触が生じる。
接触によって、感覚が生じる。
感覚によって、渇望が生じる。
渇望によって、執着が生じる。
執着によって、生成のプロセス(サンカーラ)が生じる。

この部分は、今まで何度も説明してきましたサンカーラを生み出す説明です。この部分は、よく理解いただいていると思います。

生成のプロセスによって、誕生が起こる。※2

生成のプロセスは、「生命の流れのプロセス」とも言われています。
すなわち、サンカーラが生命の流れを生み出している原因になります。

サンカラーは、生命の流れに伴い、強さを増していきます。
生命にとって、生存の欲求である、“生きたい“、“死にたくない“という欲求に対する執着はもっとも強固なものだと思います。
物質⇒生物⇒動物⇒ヒトと進化するに従い、そのサンカーラはより強固なっていきます。
過去の深い強固なサンカーラのために、新しい生への執着であるサンカーラのために、生が終わりを迎えるたびに、新しい生に繋がり、新しい生が始まるのです。

4つの心のプロセスは、あくまでも心(精神)とからだ(物質)の相互作用の流れを生み出すだけです。あくまでの生物学的なアルゴリズムでしかありません。

すなわち、過去に蓄積されてきた強固なサンカーラが、新しい生へと繋がる原因であり、過去蓄積されたサンカーラは伝わっていきます。

「魂」または「霊性」のようなアートマンが私の内側に存在し、それが輪廻転生をするのではないとブッダは教えています。

誕生によって、老い、死が起こる。
そして嘆き、悲しみ、心とからだの苦しみ、諸々の苦難が生じる。
こうして、ありとあらゆる苦が生じる。

新しい生に伝えられたサンカーラによって、新しい生で生まれたサンカーラによって、苦しみが生じることは理解できると思います。


サンカーラは、現在の生で生じて蓄積されたものだけではなく、過去の生で生じて蓄積されたサンカーラも含まれているのです。

そのため、サンカーラをすべて浄化させるためには、現在の生で生じたサンカーラだけではなく、過去に累積されたすべてのサンカーラを浄化する必要があります。

全てのサンカーラが浄化されると、生命の流れのプロセスを動かす原因がなくなりますので、生命の流れは止まります。

そうなると、ニッバーナ(涅槃)に至ります。

「ブッダメソッドのエッセンス-2」に記載されているサンカーラの蓄積や浄化の流れがご理解いただけると思います。



以上の説明は、上座部仏教でもパーリ語の翻訳や部派・宗派の解釈の違いによって、大きく解釈が変わってくるようです。
上記説明は、あくまでもゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想をベースに、いろいろな上座部系の書籍等やヴィパッサナー瞑想の実践を通じて、私が感じて解釈したものです。
一つの解釈として、参考にしていただければ幸いです。

なお、ブッダの教えの解釈には、いろいろ違いはあります。
ヴィパッサナー瞑想の方法論にも、いろいろ違いがあります。
ただ、行き着く先は同じです。

自分なりにやりやすい方法でヴィパッサナー瞑想を実践していけばよいと思います。

一番重要なことは、ヴィパッサナー瞑想を継続していくことです。

そして、ヴィパッサナー瞑想の体験を通じて、叡智を育み、自ら悟ることです。


ストレスだらけの方、苦しみから抜け出せない方、苦しみ悩んでいる方、現代社会で生きづらく感じている方・・・・
このような方々に、ヴィパッサナー瞑想に興味を持っていただければ幸いです。

生きとし生けるものが
幸せでありますように
苦しみから解放されますように
やすらかでありますように
まことの幸せを享受できますように
悟りの道が開かれますように



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