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カレーとソーシャルワーク

こちらは、「カレーの学校Advent Calendar 2023」の投稿です。

 
カレーの学校ってなに? って言う方は、下記をご参照ください。

では、あらためて。カレーの学校4期(京都)の小西ともうします。
4期が開校されたのは、今から6年前の2017年。その翌年にカレーの学校アドベントカレンダーを10期のーどみさんがはじめてくださり、そこから毎年参加させていただいています。

この場をかりて、のーどみさんには感謝をお伝えしたいです。毎年、カレーライフを振り返りつつ、みなさんの投稿を読める場があるって、なんてステキなことでしょう。ありがとうございます!
 
さて、今年のタイトルは「カレーとソーシャルワーク」にしました。実は私、社会福祉関係の仕事にずっと携わっています。これまで、子どもや障害のある人など、この社会のなかで自分らしく暮らしていく上で支援を必要としている方に対して、直接または間接的にサポートをするような業務内容です。そういう社会福祉の援助や支援のことを「ソーシャルワーク」と言い、援助者や支援者のことを「ソーシャルワーカー」と呼んでいます。そんな仕事を長年続けてきたということもあってか、最近は研修などでお話しさせていただく機会もあるようになりました。
 
その中でも、福祉の現場経験が少ない方々にお話しする機会をいただいたことがありました。これまで私が障害のある子どもや人たちとかかわってきたお話をすることも考えましたが、実際にかかわったことがない人にどこまで届くか不安もあって、どうすれば伝えたいことが伝わるのか悩んでいました。そんな時、カレーの学校アドベントカレンダーで初めて書いた「カレー事件」が良い題材になるのではないかとひらめいたんです。
 
今年のアドベントカレンダーは、そんな社会福祉の研修で話した私の家族のカレーにまつわる出来事から、社会福祉の大切なポイントを解説するという内容です。
 
では、はじまり、はじまり〜。

「カレーの学校」を卒業してからのある日のこと、わが家で「カレー事件」がおこった。
 
カレーの学校では水野校長による授業の他に、生徒同士による自由なゼミ活動が結成される。
こどもでもおいしく食べられるカレーをつくりたいと「こどもスパイスカレーゼミ」が結成され、なんとそのゼミ長にもなった矢先のことだった。
 
辛いものがにがてなこどもは、チリのかわりにパプリカを使えばOKということも教えてもらった。
そして、次のとおりにつくればおいしいカレーのできあがり! とも言える、水野校長直伝のゴールデンルール(2017年6月)まで教えてもらった。
 
①油をひいて、ホールスパイスを投入
②ニンニク、ショウガを投入
③タマネギを投入、飴色(タヌキ色)に炒める
④トマトを投入、カレーロードができるまで
⑤パウダースパイスを投入
⑥具材と水(スープ)を投入
⑦少し煮込めば完成(仕上げの香りを投入)
 
まさに、勝利への方程式を手に入れたわたしは、家族がおいしいと言ってよろこぶ顔が見られることを信じて疑わなかった。
そして、生まれてはじめてつくったスパイスカレーはチキンカレー。
スパイスの配合も、ゴールデンルールもしっかり守って、バッチリのはずだった。
 
しかし、家族の反応は‥‥
 
長女:「トマトが濃い、カレーじゃない、自分たちでつくったカレーの方がおいしかった。けど、肉はやわらかくておいしい」と、言いながらも完食。
 
次女:「ちょっとスッぱいけど、おいしい」と、肉だけはおかわりして食べる。ご飯は残す。
 
妻:「これはカレーなの? カレーってなに? スパイスってなに?」と、言いながらも完食。
 
客観的にみれば、デビュー戦は惨敗にしか見えないが、そのときのわたしは違っていた。
「こどもスパイスカレーゼミ」のゼミ長として、もっといい結果を残したかったし、少しでもおいしく食べてもらえたという事実にしか目を向けられていなかった。
いま思うと、そんなわたしの勝手なおもいこみが、あの事件をまきおこしたのだろう。
 
そしてその後も、こともあろうに毎週末カレーをつくりつづけた。
ルウのカレーしか食べたことがない家族に対して、南インドやスリランカ系のさらっとしたカレーを、「小学校のカレーの方がおいしい」と訴えてくるこどもたちのことばも耳にとどかずに‥‥。
 
もう、このはなしの結末はおわかりですよね。
 
ある日の食卓。
長女が、「パパのカレーはたべたくない」と涙目で言う。
 
次女は一口もたべない。
 
妻は無言でたべる。
 
そこで終わっていたら事件にならなかったかもしれない‥‥。
 
こともあろうに、わたしは「もうたべなくていい!」と、おこってしまった。
毎週カレーをたべさせられてきた家族のきもちを考えるどころか、さらに自分のきもちをおしつけるというサイアクなことをやってしまったのだ。
この「パパのカレーは食べたくない事件」は、忘れられない「カレー事件」としてわたしのカレー史にふかく刻まれることになった。

(カレーの学校アドベントカレンダー2018より抜粋)

研修の冒頭で、「実は私はカレーの学校卒業生なんです」と話すと、みなさん目が点! でしたが、つかみはOK! やっぱりカレーは偉大でした。ありがたいことに、興味津々で同情の眼差しとともに、みなさん話をきいてくださいました。
 
実はこの「カレー事件」、社会福祉の対人援助(ソーシャルワーク)をおこなう上でこれだけは押さえておきたいと言われている大切なポイントすべてを、見事なまでに失敗している事例だったんです。
 
その大切なポイントとは「バイスティックの7原則」と呼ばれています。福祉関係者以外の方でも日常生活における対人関係でもヒントになることがあるので、よければさいごまでおつきあいください。

1950年代のアメリカでバイスティックさんという方が対人援助において下記7つの項目が大切だと提唱し、今でもさまざまな福祉現場で活かされている理論です。その項目それぞれに、私の失敗や反省を綴らせていただきます。

 1.個別化
家族たるもの父がつくったカレーを食べるべし! とまでは思ってなかったにせよ、私は娘たちや妻のことを一人ひとりの個人としてちゃんとみていただろうか‥‥(反省) 
 
 2.意図的な感情表現
相手の自由な感情表現を出せる関係性や環境づくりが大切なのに、私は娘たちの「いや」という感情を受け止められなかった‥‥(反省)
 
 3.統制された情緒的関与
援助者自身が感情をコントロールしながらかかわることが大切なのに、怒ってしまうなんてあり得ない‥‥(反省)
 
 4.受容
相手の感情をありのまま受け入れることが大切なのに、「おいしくない」という娘のことばを受け入れられなかった‥‥(反省)
 
 5.非審判的態度
相手の考えや行動の善悪をこちらが判断してはいけないのに、娘の行動を「悪(失礼)」と判断してしまっている自分がいた‥‥(反省)
 
 6.自己決定
どのようなことであれ自分のことは自分で決めることが大切なのに、食べたいメニューも聞かずに自分本位にカレーばっかりつくっていた‥‥(反省)
 
 7.秘密保持
個人情報を外部にもらしてはいけないのに、いろんな場面で話している自分がいる‥‥(反省)

と、そんなことを研修で話させていただきました。自分で言うのもなんですが、カレーの話はジャンルを超えて福祉の研修でも響いたんじゃないかと思っています(笑)。そんな「カレーとソーシャルワーク」のお話、いかがでしたでしょうか? 私の「カレー事件」の反対のことをすれば、幸せな時間があること間違いなしです! 研修のさいごに、「いまは家族でカレー食べているんですか?」というご質問をいただきました。
 
答えは明快!「NO」。いまは、家でカレーをつくるときは自分のためだけに、外でつくるときはカレー好きな人たちと一緒に、たのしくつくって食べてます。カレーもソーシャルワークも、お互いハッピーでいるためのお約束があるんですよね。(おしまい)






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