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ヤツを恐れる子供たち

一通り家事も終わり、
そろそろ寝る準備をしようかと思った昨晩、
洗面所で歯を磨いていると
リビングから妻の叫び声が聞こえた。

一体何事かと慌ててリビングに行くと
おびえる妻がある方向を指さしている。

その方向を見てみると、
黒い昆虫が1匹壁に止まっていた。

そう、お察しの通りGである。

今回我が家に出現したのは
一般的なクロゴキブリのオスの終齢個体。

何となく成長が早そうなイメージのあるGだが、
実は終齢に至るまでには1~2.5年かかると
言われているので、
これまで我が家に若いGが出現したのを
見たことがないことを考えると、
外から侵入してきた個体で間違いないだろう。

我が家は周りに自然も多く、
空き家が何件かあるので
そこにいたGが何かしらの経路で侵入し、
運悪くリビングに表れたというわけである。

私は昆虫が好きだが、Gは決してその対象ではない。

彼らが冠する「不快害虫」という名称の通り、
見ていて不快感を持つことには違いない。

だが、別に怖さのような感情は全くないので
登場したGに粛々と対処をすることにした。

ところがである。

妻と2人の子供たちの様子を見ていると、
その様子はスズメバチでも出たのかというほどの
おびえ方をしていたのだ。

ちょうどGが現れた場所は
妻が飼っているハムスターの近くだったので
無暗にスプレーをするわけにもいかない。

かといってGは刺激をすれば
あっという間にスキマに隠れてしまうので
奴を刺激しないようにハムスターのケージを
そこからそっと動かし、
他にもスプレーがかかっては困るものを
そこから排除してからGを撃退することにした。

その様子を遠くから見守る家族の様子は
地球を救うために宇宙で作業をする
映画アルマゲドンのようである。

何とか作業が完了し、私がスプレーすると
瞬く間にGはひっくり返り
足をじたばたさせる程度の動きとなった。

軽く手を合わせながらそれを古新聞にくるみ
ゴミ箱に入れて、
スプレーした場所を洗剤で拭き上げる。

それで作業自体は終了したのだが、
妻たちの様子が何だかおかしい。

特に下の娘は作業が終わったというのに
こちらに来ようとしない。

一体どうしたのかと聞くと、
また出てくるのはないかと不安で
動けないのだという。

今回出てきたのは外部から侵入した個体と
思われるため、
次々に出てくるわけではないことを
妻や子供たちに説明すると
ようやく動き始めたが、
その動きはまだ警戒をしている様子であった。

冒頭にも書いたように私もGは
決して好きではない。

だが、家族の恐れ方は少し異常だと私は思った。

Gは不快害虫であるとともに衛生害虫でもあるので
一般的には駆除される対象である。

そういう意味ではスズメバチと同じであるが、
スズメバチの様に個体自体が毒を持ち、
近づくとそれに刺されるというような
生き物ではない。

仮にGに触れてしまったとしても、
その部分をしっかりと洗えば何ら問題はないし
それ以上の害が及ぶことはない。

にもかかわらず、なぜかGはそれ自身が
危害を加える生き物以上に
恐れられている気がするのだ。

昔に比べて家の気密性が上がり、
Gの駆除技術も確立されたことで
格段にGに遭遇する機会は減った。

我が家の子供たちも生涯でGを見たのは
片手で足りるほどの回数であろうし、
娘に至っては2回目ぐらいである。

そういう意味では未知のものに対する
怖さがプラスされているのかもしれないが、
それにしてもあの怖がり方は異常だと
私は思った。

子供の頃、父にクワガタのメスとGは
よく似ていると言われたが、
ちょうど今回出てきたようなGと
私が趣味で飼育しているオオクワガタのメスは
サイズ的にも色的にも共通している。

だが、そのオオクワガタのメスを
娘は怖がったことなど1度もない。

なぜこんな違いが生まれるのだろうか。

それはこれまで培ってきたGに対するイメージのほかに
私達親がそれに対峙したときの対応を
彼らがコピーしているのではないだろうか。

今回娘は妻が恐れる様子を見て
同じように恐れている印象であった。

別にGに興味を持つ必要はないと私は思っているが、
Gとて昆虫の一種であるし、
適度な距離感を保つ限りはそれほど
恐れる存在ではない。

息子の友人やサッカー仲間を見ていると
子供たちの昆虫離れが進んでいることを
否応なく実感させられるが、
実はGに対する恐れの感情が昆虫離れの
トリガーになっているのかもしれない。

今回彼らの恐れ方を見て私はそう感じた

もし、次回Gが出現するようなことがあれば
あえて子供たちと一緒に対処をしてみるのも
悪くないかもしれない。

Gには申し訳ないが、実際に駆除して
間近でその存在を見てみると
Gのちっっぽけさに気が付くであろう。

子供たちは今回のG騒動で興奮したせいか
眠る時間になったにもかかわらず
なかなか寝室に行こうとしなかった。

彼らの中でGの存在はやはり相当大きいらしい。

ちなみに以前はGの駆除にスプレーは
使わない派であったが、
今の家に住み始めてからスプレーを
使うように変更した。

スプレーを使うことで逃げられる確率が減るし、
後処理が明らかに楽だからである。

昨日もスプレーを塗布すると
瞬く間にGはひっくり返り行動できなくなった。

Gには気の毒ではあるが、
こんな技術を開発する製薬メーカーには
感謝しかない。




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