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内容よりも目的を合わせよ

「パパ、このメニュー表見て作ってみて」

息子が意気揚々と1枚の紙を私に渡しながら言った。

一体何のことかと思いその紙を見てみると
学校給食の献立表である。

息子は今4年生だが、入学した1年生の頃から
学校給食が美味しいと日々絶賛している。

友達の中には給食がマズいという人もいるようだが
息子の舌にはとても合うらしく
先日インフルエンザで学校を休んだときも
友達に会えないことより給食を食べられないことを
悔やんでいたほどである。

そんな息子は先日2月分の献立表をもらったので
それを私に見せて再現してもらおうと
思い立ったらしい。

早速その内容に目を通してみると
出来上がった料理の名前と
それに使われている原材料が書かれていた。

息子としてはこれだけの情報があれば
再現できると思っていたらしいのだが、
当然ながら私はそれを見ても作ることはできない。

息子にこのことを回答すると
「そうなんや。残念。」
と肩を落とした。

このやり取り自体はここで終わったのだが、
私はふとこのシチュエーションは
職場でしばしば遭遇する状況に
似ている気がするなと思った。

私の仕事は商品開発なので
色んなメーカーから原材料を購入し
それらを組み合わせて新しい商品を作るが、
メーカーに原材料の仕様を提示して
この範囲内に収まるものを供給してほしいと
依頼するプロセスがある。

当然ながら上流工程である原材料の
品質がばらついてしまうと、
最終商品の品質もばらついてしまうからである。

なので、双方で品質の認識に齟齬が出ないように
仕様書案を作成して先方の確認印をもらったものを
正式な仕様書として双方で運用する形をとっている。

この仕組みは一見すると何も問題ないように
見えるのだが、
実際運用してみると仕様書に定義している内容を
逸脱したものが入ってきてしまうことが
しばしば起こるのである。

先方も決して検査をしていないわけではないのだが
先方が自社を出荷する時にする検査では
いくつかの項目は十分に検出しきれないからである。

そんなものは仕様書を取り交わした際に
事前に指摘しておけばいいと思うかもしれないが
実際この運用をしてみるとこのような事象が
どの会社との間でも必ずと言っていいほど
発生するのだ。

それは一体なぜなのであろうか。

色んな理由が考えられるが、
大きな理由の一つが「お互いが書類に求めるもの」が
違うからであると私は考えている。

前述したように私達はこの仕様書を
”最終商品の品質をまもるため”に発行している。

しかし、原材料を出す会社からすれば
この書類は”出荷品質の明確化のため”に
運用されることになる。

別にこの違いがあったとしても
平常時には大きな問題にはならない。

だが、少し数値が規格値の真ん中から外れた時には
双方の目的の違いが原材料の品質の
捉え方の違いとなって現れることがある。

例えば規格値の上限が10だとして
品質検査の結果、8~9の数値が出たとする。

原材料メーカーからすればこれは
規格内の数値なので
何の問題もなく出荷をするのだが、
実際8~9と測定されたデータというのは
あくまで抜き取りで得られた代表値である。

実際にはその測定値はバラツキが生じるので
このような試験結果の場合には
一定数規格値を超えるものが
含まれていることを考慮すべきというのが
品質管理の考え方である。

私達はその原材料を受け入れる際に
最終商品へ影響しないことが一番の目的なので
そのようなぎりぎりの数値が出た際には
規格外が発生している可能性を考慮して
一応全数を検査してから使うという措置を取る。

だが、原材料メーカーの目的は
出荷品質を満たしているからという視点で
それらを通常通り出荷する。

このような認識の齟齬につながってしまうのだ。

今回息子が提示してきた献立表は
漢字を使わずに書かれていたので
子供たちが今日のメニューを参照し、
それにどのような原材料が入っているのかを
親と一緒に確認することを目的に発行された書類である。

だが、息子はそれを家で再現するために
発行された書類と勘違いしたがゆえに
今回のような事象が起きたのである。

思い返してみると私達が直面する
コミュニケーションエラーの多くは
この目的の違いがきっかけの場合が
多いのではないだろうか。

それを避けるためには事前に
相手に自分の目的を伝え、お互いに
ズレが生じないようにすることが大事なのだろう。

そんなことに気付かされたエピソードであった。

ちなみに息子が渡してきた献立表に
書かれているメニューには
私が子供の頃に食べていた給食では
考えられないようなメニューが
沢山書かれていた。

塩こうじから揚げ
鶏肉のマーマレード煮
鶏肉の甘酢あんかけ

偶然目についたのが鶏肉に偏ったが
どれもお店で食べるような
メニューばかりである。

書類だけではなく、
給食を味わえるサービスがあれば
ぜひ味わってみたいものである。


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