眠れないほど面白い繊維の話(ポリエステル編その1)

先日このシリーズの第一弾として
綿・ポリエステル混紡のT/Cについて
書かせて頂いた。

繊維とは不思議なもので
毎日着ていたり背負っていたり口に当てていたり
色んな形で触れているにもかかわらず
それが一体何でできているものなか
私達は驚くほど意識しない。

ある意味最も身近で、最もナゾな存在と
言えるのではないだろうか。

そんな繊維を語るうえで
一番に語らなければならないのは
何かと言われれば、
ポリエステルであろう。

なぜ綿やウールではないか。

それは圧倒的に使用量が多いからである。

試しにあなたが今着ている服や
身の回りにある繊維製品のタグを見てみてほしい。

多かれ少なかれほぼ間違いなく
ポリエステルの表示が書かれているであろう。

それほど私たちの生活にとって
ポリエステルはなくてはならないものだが、
「ポリエステルって何ですか?」と聞かれると
案外ちゃんとした答えを出せないものでもある。

そこで、今回はポリエステルとは一体なにか、
そしてポリエステルの面白さについて
ご紹介しようと思う。

なお、この記事では極力難しさを排除して
書くために事実と少し異なる表現や
表記の仕方をしている部分があるが、
その点はご容赦頂きたい。

ポリエステルとは一体何か?


先ほども書いたように
「ポリエステルって何ですか?」と
人から聞かれたとすれば
あなたは何と答えるであろうか。

「ポリエステルはポリエステルや」
などと答えてしまっては
あなたの威厳が丸つぶれである。

そこで、まずはポリエステルとは
一体何者なのかを見てみよう。

まずこの名称に注目してみて欲しい。

ポリエステルという名前は
ポリ
エステルという2つの単語が
組み合わされた言葉である。

ポリというのは高分子を指す言葉である。

高分子とはその名の通り
化学物質の分子が鎖のように長くつながったもの。

そして、一般的にはその化学物質の分子の名前が
ポリという言葉の後に続くのである。

例えば身近なものだと、
スーパーのレジ袋などに使われる
ポリエチレンがある。

ポリエチレンはエチレンという化学物質を
鎖のようにつなげたものである。

エチレンと言われてもピンとこないが、
リンゴなどがエチレンガスを放出して
他の果物を熟れさせるという話は
一度は聞いたことがないだろうか。

実はそのエチレンガスとこのエチレンは
同じものなのだ。

ではポリエステルを構成している
分子はエステルなのか。

そう思いたいところではあるが、
実はポリエステルの場合は少し異なる。

エステルというのは分子の鎖をつなぐときに
使われる化学結合の名前なのである。

このエステル結合を使ってつながれた
物質は全てがポリエステルなので
実はポリエステルと一言に言っても
何種類かあるのだ。


なぜポリエステルだけそんな総称で
呼ぶのだと不思議に思われるかもしれないが、
それはエステル結合でつながれた高分子は
共通の特徴があるからである。

しかし、そうなると何だか話がややこしそう。
この記事を読むのをやめようか。

そんな風に思うのはもう少し待って欲しい。

ここからポリエステルの事例をいくつか
紹介すると思っているかもしれないが、
ここからご紹介するのはたった1種類だけである。

ポリエステルにも色んな種類があると
紹介しておきながら
1種類しかご紹介しないのは
決して私の好き嫌いの問題ではない。

ポリエステルの中で次に紹介するものが
圧倒的に沢山使われているからである。

巷でポリエステルと言う時には
基本的にこの1種類のことを指していると
言っても過言ではないほど
ポピュラーなものを紹介しよう。

ポリエチレンテレフタレートとは何か?

それはポリエチレンテレフタレートである。

長い名前に再びページを閉じそうになったあなた、
少し待って欲しい。

あなたは間違いなくこの物質の名前を
どこかで一度は聞いているはずである。

ポリ エチレン テレフタレート

Poly Ethylene Terephthalate

PET

そう、PETボトルのPETと同じものなのである。

実は私達が一般的にポリエステルと呼ぶものは
PETボトルに使う素材と全く同じものだったのだ。

なんだか今自分が着ている服と
PETボトルが同じ素材でできているというと
不思議な感じがするが、
実はいわゆる化学繊維と呼ばれるものは
基本的にプラスチックを熱で溶かして細い穴から
スパゲティのように出して作るものなのである。

某コンビニチェーンの制服に
PETボトルリサイクル推奨マークが記載されているが、
実はこれは回収したPETボトルを繊維に変えて
使っている事例の一つである。


株式会社ローソン HPより引用

このようにポリエチレンテレフタレート(以下PETと記載)を
細く繊維状に加工して糸を作り、
それを織って生地や服に加工すると
当然ながらPETの特性がそのまま出てくる。

なのでポリエステルの特性を考える時には
PETボトルの特性を考えてみると
わかりやすいのだ。

ポリエステルの特性

①水を吸わない

PETボトルに使うぐらいなので水に強いと
いうことは間違いないであろう。

水に強いとは具体的にどういうことかというと、
水を吸わないということである。

PETボトルに飲料を入れて、長時間置くと
ボトルがふやけてしまうようでは
うかうか保管しておくことができない。

この特性は繊維にしても活かされており、
ポリエステル100%の生地は驚くほど
水を吸わない。

これは一見するととてもネガティブなことに
思えるが、
汗をかくスポーツ用衣料においては
この特徴が乾きやすいという
大きなアドバンテージになる。

以前書いたT/C編でも事例にだしたが、
スポーツで使うビブス(ゼッケン)は
ほとんどがポリエステル100%で構成されており、
それゆえに汗をかいてもいつもサラサラしているのだ。

このビブスを洗濯機などで洗って
脱水が終わったものを触ってみると
干す必要がないほどほぼ乾いている。

それほどまでにポリエステルは
水を吸わないという大きな特徴があるのだ。

もちろん、この特徴は普通の衣料としては
ネガティブな要素となるので、
綿と一緒に混紡して吸水性を付与したり、
極細で沢山の繊維を撚り合わせることで
毛細管現象を強くして吸水させたりしている。

②酸、アルカリ、油につよい

これもPETボトルで考えてみるとわかるが、
今やPETボトルに入れられている物質は
多種多様なものがある。

オリーブオイルなどは以前は瓶に
入っていたものが多かったが、
今では透明なPETボトルに入っているものも
珍しくない。

これはポン酢や洗剤なども然りである。

オリーブオイルは言うまでもなく油であるし、
ポン酢は酢や柑橘の成分である酸が
含まれている。
また、洗剤にはアルカリ性のものもある。

これらをPETの容器に入れても
何ともないのは、まさにPETがこれらの素材に
対しても強いということである。

何だかこの特徴と繊維とはあまり関係が
なさそうに思えるが、
実はそんなことはない。

服は汚れた時に洗濯をしなくてはならない。
普通に着ているだけなら
それほど汚れることもないだろうが、
先ほど事例に出したようなローソンの制服ならば
フライヤー作業をしたときに服に油が
付着することもあるだろうし、
商品の陳列で段ボールを開けた際に
輸送途上で付いた汚れが服に付くこともあるだろう。

このような汚れを除去するためには
どうしてもアルカリで洗ったりするケースがある。

また、衣類以外の使い方ならば
玄関マットやモップ・ウエスのような
清掃道具にもポリエステルは使われることが多いが、
これらの場合はさらに激しい汚れと
洗濯に晒されることとなる。

このような薬剤に耐えられるかどうかは
繊維として使用の幅を広げる意味でとても
重要なポイントと言える。

その点でポリエステルは
基本的に弱いものがないので
とても繊維として優れた素材と言えるのだ。

③熱に強い


服にアイロンをかけるとき、
アイロンの温度設定をするが
この時にポリエステルは中温度域に
記載されていることが多いであろう。

元々がプラスチックなので、
綿などに比べれば熱に弱いものの、
いわゆるポリ〇〇とつく繊維のなかでは
ポリエステルは最も溶融温度が高く、
熱に強い部類である。
(もちろん耐熱に特化した例外もある)

なので、ポリエステル製のものは
タンブラー乾燥をしても平気なものが多いのだ。

コインランドリーなどで毛布を洗って
乾燥させても平気なのは
まさに多くの毛布がポリエステル製だからである。

ただし、耐熱性が高いからといっても
一定の熱をかければ当然溶けてしまう。

中学生ぐらいの頃、ジャージの膝部分に
穴が開いている男子が沢山いたが(私もその一人だった)、
それは体育館でスライディングをした際に
その摩擦熱でポリエステルが融けて穴があいてしまうのだ。

案外繊維製品はタンブラー乾燥やアイロンなどで
熱をかけることが多いので、
熱につよいというポリエステルの特徴は
非常にありがたいものである。

④弾力があり形状を維持しやすい

これもT/C編で書いたことであるが、
ポリエステルは非常に形状を維持しやすい
素材である。

PETボトルは持ち運んでいても簡単に
形状が崩れることがないように、
その弾力性のある特性は繊維にしても
ちゃんと活かされるのだ。

量販店に行けば「ノーアイロン」などと
大々的にうたわれているワイシャツが
安い値段で売られているが、
この類はほぼ間違いなくポリエステル100%か
T/Cで作られている。

日常的に洗濯をしている方なら、
洗いあがった服がシワになりやすいものと
そうでないものに分かれることを
肌で実感しているだろう。

そして、大抵シワになりにくいものは
ポリエステルがメインで作られているものである。

このように服にした場合、ポリエステルのこの特性は
シワのできやすさに顕著に表れるが、
他の用途の場合はまた異なった特性として
活かされる場合もある。

例えばカーペットの場合は踏み込みによって
連続的に繊維に負荷がかかるので
繊維に弾力性がなければ簡単にへたってしまう。

この点、ポリエステルであれば繊維に弾力性があるので
簡単にへたることはないし、
一般的にカーペットに使われるナイロンよりも
安価に製造することができる。

まさにポリエステルは理想的な代替品となるのだ。

⑤簡単に太さや形状をコントロールできる

ここまでご紹介した特徴ゆえに
繊維としては圧倒的にポリエステルが多く
使われる素材となった。

それほどまでに優れた素材である
ポリエステルであっても、
加工が難しくてはここまで用途が広がることは
なかったであろう。

やはり、この活躍の背景にはポリエステルの
加工のしやすさがある。

既に書いたようにポリエステルは
融かして孔から細長くだすことで
繊維状にしているが、
この時の孔を小さくすれば繊維は細くなり
逆に太くすれば繊維は太くすることができる。

そして、穴の形状を変えれば
繊維1本1本の断面形状も簡単に変えられるのだ。

身近な例であれば除電モップなどに
ポリエステル繊維が使われることがある。

モップなのでほこりを効果的に取ることが
求められる用途であるが、
この場合には繊維の断面が三角形のような
形のものが使われている。

このほうが丸型断面の繊維よりも
角が生じるため、
ほこりなどをキャッチしやすくなるからである。

また、ポリエステルの特徴である吸水性の低さを
この断面形状でカバーする方法などもあり、
「井」のような形をした断面やマカロニのように
中空断面で作られたポリエステルなどが
使われることがある。

このように実に多種多様な断面形状が選べるのは
まさにポリエステルの大きな特徴であろう。

まだまだ続くポリエステルの面白さ


ここまで5000文字程度でポリエステルとは何か、
そしてその特徴が何かを書いてきたが、
ポリエステルの面白さはまだまだこんなものではない。

その染色特性であったり、リサイクル性など
面白い要素はまだまだたくさんあるが、
あまり一つの生地に詰め込んでしまうと
お腹いっぱいになってしまうトピックでもある。

次回は今回書ききれなかったポリエステルの
第二弾を書こうと思う。

ぜひ引き続きお付き合いいただけると嬉しい。


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