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「ウチの会社は危ない」?


#DIAMONDハーバードビジネスレビュー

私は企業に勤務していた際に実質的に事業部門で働いた経験が無い。しかしながら、米国駐在時代はかなり事業部門、特に自動車用硝子製造販売事業の部門に近いところにいた。

その頃は自動車大手のT社(敢えて伏せる意味は無いかもしれないが)の方とも公私でお付き合いすることが多く、仕事以外の場でも彼らの発言を直接聞くことが多かった。

その中で私の勤務する会社とT社の管理職レベルの方との最も大きな違いは、どれだけ業績が良くても、まるで口癖のように「ウチは危ない」と発言すること、だということに気がついた。しかも「ウチは危ない」と口先だけで発言するだけでは無く、どうも本当に危機感を持っているように見える

たまたま一人の管理職の方が「ウチは危ない」と言っているのであれば、会社全体での危機感とは思わないが、どの管理職も口をそろえて「ウチは危ない」と言っているようだった

日本に帰国して、経済産業省の非公式勉強会に出席して、再びT社の上級幹部の方や管理職の方と一緒になることがあった。その際もやはり口を揃えて「ウチは危ない」と言っていた。ちょうどT社が純利益で1兆円以上を達成した頃だ。

本HBRの記事では、企業の過信がいかに伝染するか、をテーマに「従業員が自分は優秀で無敵だと自信過剰になると、過信のマインドセットが周囲にも広がり、規範として定着してしまう。そうなれば、適切な意思決定を妨げる」ことを指摘している。実はこの著者らが実験でエビデンスを検証するよりも前にT社は企業の過信の怖さを知っていたのだ。

エンロンの不正会計の例を待つまでも無く、多くの企業は業績が好調になるとこの過信を経験しているのではないか。「XXXである限り、ウチは大丈夫」だとか、「ウチはYYYだから絶対潰れない」とかそういう管理職の発言を耳にするたび、私はこのT社の管理職たちの危機感を想い出した。そしてその結果案の定、過信する管理職がいる企業は、想定外あるいは想定以上の危機に陥っている。

今私が関わっている企業においても、トップは危機感を醸成しようと躍起だが、それが組織に浸透しているか、というとそうでも無さそうだ。そうでも無い、と思う最大の理由は、ゲームチェンジを行なっているように見えないからだ。そういう意味で「ウチは危ない」が本当に管理職レベルに浸透していないのだろう。

もちろん危機感の醸成では、企業情報の開示が必要だとは思うが、株式市場の制約から昔のように株主と非対称な情報開示はできない。そうなると日常的に企業をリードする管理職がいかに部下と対話し「ウチは危ない」を浸透させていくかが企業優劣の差になってくるのだろう。

本記事にある通り、自信過剰な従業員が数人でも組織に存在する危険性を知り、それをトップだけでなく、すべての中間管理職が同様のレベルで戒める、そういう文化ができるようにしていくのが企業文化改革ではないだろうか。

そして今T社のトップは「100年に一度の大変革」を内外に発言し、危機感を醸成している。しかも今度は自動車業界の既存プレイヤー以外との闘いだ。新しいルールでのゲームでは、これまでの常識や改善だけでは追いつかないかもしれない。果たしてこの新しいルールによるゲームにT社はいかに自らを変革していくのだろうか。

(本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。企業文化・組織文化の診断や企業文化変革についてお手伝いいたします。)

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