【マチメグリ】HBPワールドツアー訪問記:菊原編『レーンウェイの豊かさについて』(2019年7月17日公開)
2019年5月5日(日)~5月11日(土)までの1週間、社員研修として、オーストラリア・メルボルンへ行ってきましたのでその様子をお届けします。
今回は、菊原による「レーンウェイの豊かさについて」をお届けします。
レーンウェイとは?
メルボルン中心部には、メインストリートから続くレーンウェイと呼ばれる路地や、屋根のあるアーケードがあり、道の両脇にはカフェやレストランがずらりと並び、のんびりと散策するのにうってつけの観光スポットとなっています。
碁盤の目状に計画されたメインストリートから張り巡らされたレーンウェイによって、メルボルンのまちは表通りから離れた迷路のように続くヒューマンスケールのまちが背後に広がっていました。
表通りから離れた裏通り(生活の面では表通り)にあるレーンウェイでは、オープンエアの小さなレストランで食事をしたり、建物の壁面に描かれたストリートアートを楽しんだり、ショッピングをしたり、夜はジャズバーで音楽を楽しんだりとレーンウェイには色んな活動が根付いています。
レーンウェイを歩いて感じたことはヒューマンスケールであり、感覚的なものを知覚しやすく五感を刺激する要素(視覚(アート)、聴覚(賑わいや静寂)、触覚(舗装の変化)、嗅覚(コーヒー)、味覚(レストラン))があり、多くの人を魅了しているのではないかということです。しかもそれが新しい建物や素晴らしいハード整備によってもたらされている訳ではなく、既存にあるものをうまく使ってメルボルンの暮らしを豊かにし生活者自身が楽しんでいるように見えました。
また、メルボルンには広場がなくレーンウェイをその代わりとして活用せざるを得ない背景がある中、メルボルン市としては中心街を通るレーンウェイを大切にし、政策的に活用しています。
レーンウェイの魅力や豊かさは、ヒューマンスケールであり空間としての親密さや親近感、感覚的なことを認識しやすいこと、市民としても市としてもレーンウェイを大切にし、レーンウェイを自らなんとかして使っていくことができる「やっていいよ」という雰囲気が感じられること(市としてもアートや緑化など政策的に取り組んでいること)がレーンウェイを観光客にも生活者にとっても魅力的な場所にしているように感じました。
このような多様な表情を持つレーンウェイの魅力や豊かさについて、①ストリートアート、②カフェ・レストラン、③緑化プロジェクト、の3つの観点から、お気に入りスポットなどを交えてご紹介しようと思います。
レーンウェイの使われ方 ①ストリートアート
レーンウェイでは、建物の壁に描かれた多くのストリートアートを見ることができます。
【AC / DC Lane】
ここは私も大好きなオーストラリアのロックバンドにちなんで名付けられたAC / DC Laneで、音楽とストリートアートの結びつきが強い場所となっており、レイジアゲインストザマシーンやビートルズなどが描かれていました。
先の見通せない路地にはシークエンスの変化があり、また多少の勾配がついている通りは空間自体の変化が富んでいてそれだけでも魅力的ですが、そこに効果的にそして意図的に巨大なアートなどが描かれています。
無造作に描かれているものもあれば、そうではなく明らかな意図を持ってアートが存在しています。巨大な人のアートなどは意図的にその位置に描かれていると思われます。
【Hosier and Rutledge Lane】
Hosier Laneはメルボルンのストリートアートで最初に人気に火がついた場所だそうです。
フェデレーションスクエア側から見るとまっすぐで傾斜のついたレーンウェイの両端にストリートアートが描かれ、多くの観光客が写真撮影しアートを楽しんでいます。
【Union Lane】
このレーンウェイにはお店のエントランスが面しておらず、しかも幅の狭い空間で両脇の建物の高さが結構あります。そのため、もし見通しが効かない場所でアートも無ければ安心安全に通れるか不安になるような場所でした。
しかし、高さのある壁に対しストリートアートを人が歩く高さに描くことで、目線の高さが下がり空間として親密なもの(ヒューマンスケール)にし、雰囲気の良くない裏の空間をストリートアートの力で変化させているように思います。私が歩いたときは観光客が写真を撮っていたりし通り道や観光スポットとなっていました。
【Finlay Alley】
ここは他の場所とは違い建物の間を縫ってトンネル状にアートがありました。レーンウェイといっても様々な空間の構成要素があり、こういった場所にもストリートアートをつくり市として政策的にやっていることが伺われます。
【Presgrave Place ・warburton Lane】
ストリートアートは絵だけではなく、3次元のものもあります。彫刻的なオブジェやフレームによるストリートアートなどもあり、壁面の構成物(竪樋や壁面の凹凸)を利用し既存のものまでもうまく利用していました。
◯市としての政策
レーンウェイの使われ方の一つとしてストリートアートを見ていると、全てのレーンウェイにストリートアートが存在する訳ではなく、市として政策的にストリートアートを導入していることがわかります。
メルボルン市としては許可をとったストリートアートを合法と考えているようで、既存のあまり望ましくないレーンウェイに対して、市からアート作品を依頼しアートの力によって空間を明るくすることを試みています。
(以下、メルボルン市のHPより)
「ストリートアート(street art)」とは、
その作品が描かれている壁を所有する人の許可を得て行われた芸術作品のこと。
適切な許可があれば、ストリートアートはメルボルン市では合法であり、予算に応じて、スペースを明るくするために大規模なストリートアート作品をメルボルン市から依頼することがある。
「落書き(graffiti)」とは、
所有者または占有者の許可なしに他の人の財産にマーキングすること。
落書きは、安全性や街の通りや公共の空間の快適さや表現に悪影響を及ぼすため、許可なく描かれた不要な落書きはメルボルン市を含むオーストラリアの至る所で違法であり、自治体全体の公共および私有財産から落書きを除去する。
また、「Graffiti Management Plan 2014-18」には、違法なグラフィティやストリートアートに対するメルボルンの対応、および自治体における合法的なストリートアートの管理方法が明記されています。
その中では、落書きは定期的に削除しないと、ほとんどの建物のファサードに存在する可能性があると書かれており、落書きは頻繁に行われていることが伺われます。
さらに、2010年には専用の落書き除去車が導入され、落書きは無料サービスで削除されるようになっています(2012年には、落書きを削除する要求が358件)。また公共の場から見える落書きをできるだけ早く取り除くことができるように、報告することを市は勧めています。
落書き教育プログラムというプログラムがあり、自治体内のすべての小中学校(15の中学校と9の小学校)がプログラムに参加しています。このプログラムは、落書きの違法性およびペナルティについてのメッセージを伝え、ストリートアート作品の合法化について子供達に伝えています。
このようにメルボルンは明確に政策としてアートを導入し、既存の壁面を利用しストリートアートで魅力的ではないレーンウェイの改善を試みようとしています。
このマップは現在のメルボルン中心部のストリートアートの位置やレーンウェイを示しているものです。メルボルンには200以上のレーンウェイがあり、ストリートアートが存在するレーンは一定のエリアだけに偏っている訳ではなく分散して存在していることがわかります。観光案内所にはメルボルンのストリートアート散策ルートマップも置いてあり、ストリートアートが中心街に点在することで回遊性を持っています。
◯レーンウェイの政策について
メルボルン市役所のジュンモさんにレーンウェイの歴史経緯について話を聞くと、レーンウェイに関しては意識的に政策的に市としてはやっているとのことでした。大まかな変遷としては、レーンウェイはもともとゴミ収集のための管理動線空間であり、そこへアートを政策的に導入し、その後ストリートカルチャーとの親和性の高いカフェやバリスタが出店してきたということでした。
Places for people 2015によると、
1960年代から1970年代にかけて
メルボルン中心部では複数の土地区画が統合され再開発されるようになり、このような開発によって複雑に張り巡らされたレーンウェイを排除し、日中や週を通じて一般に公開されていないアーケードとして内部化する。Collins Placeはそのような初期のプロジェクトの1つで、1981年にオープンし、10年後にMelbourne Centralがそれに続く。
1980年代半ばから
メルボルン市は中心街のブロックを通るレーンウェイとアーケードが歩行者ネットワークのため(特に南北のリンク)に重要であることを認識し、1980年代半ばから後半にかけて、Degraves StreetとHardware Laneが最も初期の2つのプロジェクトとしてレーンウェイへの都市デザイン改善プログラムを開始。
1990年代から2000年代にかけて
市内中心部のより多くのレーンウェイが歩道を延長するために、車両のアクセスを制限し、屋外での食事を可能にする。
レーンウェイの使われ方 ②カフェ・レストラン
レーンウェイにはアートだけではなく、魅力的なカフェやレストランも多く、通りを歩いているとコーヒーの香りや食事のいい匂い、食器類の音など五感を刺激されます。
【Centre Place】
この場所は、1980年代に市内で活性化された最初のレーンの1つだそうで、幅の狭い道に小さな店が軒を連ね、軒先から美味しそうな食事やコーヒーの匂い、そして活気が道に滲み出ています。狭い通りが空間の親密さを強くすることでメルボルンでの生活者と観光客が同じ空間を楽しみ、賑わいや活気に満ちているように思います。ヒューマンスケールの空間だからこそ匂いや音にも敏感になり、人の顔や賑わいがより強調されて感じられ豊かな空間を感じ取れるように思います。
また、舗装面がタイルであることで足元からもこのエリアが歩行者としての空間であることが認識され、無意識のうちにレーン内の空間の距離感が近くなっているように感じます。
【Degraves Street】
ここは100m程度の長さの通りに小さな店が軒を連ね、ストリートアート、オープンエアでの食事、ブティックなど賑やかで活気があり、観光客や地元の人々共に利用されています。
【Tattersalls Lane(セクション8)】
セクション8はお昼からDJが音楽を流してお酒を飲むことができるバーです。暫定地利用として2006年の前半に出来たお店ですが、それが現在でも残っています。カウンターやソファはドラム缶やパレットといった簡易なものでできていて、こういったコストをかけずに場所を生み出し使いこなすワイルドな感覚がメルボルンの良いところでもある気がします。
【Hardware Lane】
このレーンウェイは歩車共存がされているレーンで、車道部も歩道部も共にレンガ舗装で段差などもないにも関わらず車は自然と徐行し通過しています。
オープンエアのレストランにはヒーターが壁面に取り付けられており、日本のように冬は寒いから屋外は開放しないということはなく、屋外を使うことに対する意識の違いがみられます。
【Whitehart Lane】
ここはレーンウェイ沿いにカフェがあるのではなく、レーンウェイの突き当たりにあるカフェバーです。レーンウェイ沿いにあるカフェももちろん良いのですが、個人的には一番好きな空間でした。周囲を建物に囲まれポッカリとあいた空間を利用したカフェは、周囲の建物外壁をうまく自分のものとして利用し鉄骨フレームと簡易な屋根のみで空間が構成されています。
あるものをそのまま利用し簡易なつくりで空間を生み出すことがうまく、レーンウェイ沿いにあるカフェとは少し趣が異なりますがおおらかな場所で大変居心地の良い場所でした。
【Chuckle Park Bar】
ここは建物と建物の隙間を利用したバーです。レーンウェイの利用の仕方もそれぞれで、魅力的な空間を見つけて使っていくことがうまいですね。
レーンウェイの使われ方 ③緑化プロジェクト
メルボルンは地域内を緑化するための包括的な計画を立て、レーンウェイにもGreen Your Lanewayプロジェクトとして緑化を図っています。レーンウェイの壁には150ヘクタールの緑化スペースがあるそうです。
Green Your Lanewayプログラムとは、
街のレーンウェイを緑豊かでみんなが楽しめるスペースに変えるためのプログラムです。
このプログラムの一環として、太陽光線の量、風への露出度、物理的特性に基づいて、緑化できる可能性のあるレーンウェイを示すマップも開発しています。このプログラムに応募(800以上)し投票プロセスを通して、Green Your Lanewayパイロットの一環として、中心街の4つのレーンウェイに資金を供給して緑化が完成しています。
【Meyers Place】
メルボルン市としては、パイロットプロジェクトである4つのレーンウェイのそれぞれで、住民や企業と緊密に協力し、さまざまな緑化の概念を開発したとのことです。ここは壁面の垂直緑化、木々と新しい歩行者エリアの可能性、グリーンアートをテストする場所として選ばれています。
大通り沿いにある大きな樹木とは異なり、壁面緑化はその枝葉が小さくレーンウェイのサイズ感と近くここにも親密さが感じられました。また壁面のグリーンアートもまた効果的に緑の増幅を感じられました。
これは各レーンウェイの緑化ポテンシャルをマッピングしたものです。Meyers Placeは壁面の垂直緑化のポテンシャルが高い結果になっており、先のUnion Laneは全くポテンシャルがない結果になっています。このようにメルボルン都心部のポテンシャルを示すマップを公開し活用できるようにしています。
【Rankins Ln】
ここはGreen Your Lanewayプログラムとは関係ないですが壁面緑化をしているレーンウェイでした。自主的に鉢を置いて緑がある空間はレーンウェイを使っている感じが見受けられていいですね。
レーンウェイの魅力や豊かさとは?
レーンウェイの魅力や豊かさは、ヒューマンスケールであり空間としての親密さや親近感、感覚的なことを認識しやすいこと、市民としても市としてもレーンウェイを大切にし、レーンウェイを自らなんとかして使っていくことができる「やっていいよ」という雰囲気が感じられること(市としてもアートや緑化など政策的に取り組んでいること)がレーンウェイを観光客にも生活者にとっても魅力的な場所にしているのではないでしょうか。
(けいじ)
\ワールドツアー報告会 開催します!/
メンバー一同で訪れたメルボルンで触れた様々なまちの最新動向や、旅を通して感じたことを直接みなさんにお伝えする報告会を行います。
報告会では、HBPの泉、菊原、上田に加え、共にメルボルンを訪れた(株)地域計画建築研究所の羽田さんもトーク予定です!
(登壇しないHBPメンバーも出席予定です。懇親会などで是非意見交換しましょう◎)
どなたでもご参加いただけますので、ぜひふるってご参加下さい!
■日時:2019年7月31日(水) 19:00-21:00(18:40開場)
■場所:株式会社地域計画建築研究所(アルパック) 大阪事務所会議室
(大阪市中央区今橋3-1-7 日本生命今橋ビル10F)
■定員:40人(事前申込制)
■参加費:1,000円
■トークテーマ(予定)
1.ワールドツアー2019メルボルン概要について(泉英明)
2.レーンウエイの豊かさについて(菊原啓二)
3.交通施策の変遷(上田晴香)
4.ライフスタイルを支えるまちの機能((株)地域計画建築研究所 羽田拓也)
■懇親会:近くのお店にて懇親会を予定(費用別途4,000円程度予定)
■主催:(有)ハートビートプラン
■協力:(株)地域計画建築研究所
★申込みフォーム↓(※申込締切7/29(月))
https://forms.gle/yLZyZ3nf2BPtHDpJ9
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