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【マチメグリ】HBPワールドツアー訪問記:アメリカ ポートランド「暮らしをつくる力が生み出す街の空気」(2018/1/29公開)

2017年の6月末、約10日間の行程でアメリカに視察旅行に行ってきました。ニューヨーク、ポートランド、デトロイト、それぞれの街はとても個性的で公私ともに多くの刺激を受けました。今回は有賀がポートランドの街の来訪を振り返り、その内容を記録していきます。

全米住みたいまちNo.1 ポートランド
アメリカ北西部オレゴン州にあるポートランドは日本でも数年前からブームと言えるほどことあるごとに取り上げられており、アメリカ国内においても「全米住みたいまちNo.1」や「全米で最も環境に優しい都市」などにもなっている街です。
クラフトビールやサードウェーブコーヒー、自転車といったカルチャー的なトピックはもちろんのこと、都市政策においても「都市成長境界線」による環境保護とまちのコンパクト化や、TIFを活用した開発資金調達の成功、それを下支えする市民コミュニティである「ネイバーフッド・アソシエーション」など様々な取り組みがされており、これらも注目が集まっています。
今回の視察報告では、特定の分野を深掘りするのではなく、実際にポートランドのまち歩いてみて感じたまち全体の印象をご紹介したいと思います。

毎日どこかで行われているファーマーズマーケット
ポートランドでは毎日のようにどこかでファーマーズマーケットが行われており、野菜や果物、ジャムにハチミツ、キャンドル、コーヒー豆など様々なものが売られています。
特に大きいものは土曜日に開かれているポートランド州立大学でのファーマーズマーケット。ポートランド到着の日がちょうど土曜日で早速マーケットに足を運びました。木々が生い茂るキャンパスの中で開催されているマーケットは音楽ステージなどもあり、休日の午前中をゆったりと過ごすにはぴったりの場所で、多くの地元の人で賑わっていました。
滞在中にはパイオニア・コートハウス・スクエアでのファーマーズマーケットなどその他のいくつかのマーケットにも出会いました。マーケットではファーマーズマーケットの食材を使った料理本が売られており、単発のイベント的なマーケットや加工品だけのマーケットではなく、日々の暮らしの食材調達の場として深く生活に根付いているからこそ、こういう本が売られるまでになるのだなと感じました。

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□ポートランド州立大学でのファーマーズマーケット 野菜から加工品まで様々な産品が売られている。

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□ファーマーズマーケットのリーフレット  

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□ファーマーズマーケットの料理本

街なかから郊外まで マックメナミンズのプロジェクトとクラフトビール
続いて向かったのは「マックメナミンズ・エッジフィールド」。マックメナミンズはオレゴンで初めてブリューパブを開いた企業で、古い建物をリノベーションしてブリュワリーやホテル、レストランなどにして運営しており、現在オレゴン周辺で50店舗以上の店舗を経営しています。
中でも有名なのは「マックメナミンズ・ケネディ・スクール」で1915年に開校した小学校をリノベーションしてホテル・レストラン・ブリュワリーなどの複合施設として甦らせています。
今回向かったのはその郊外版のような場所で1911年に建てられた農家の建物や敷地全体を、ホテルやブリュワリー、ワイナリー、レストランなどにコンバージョンして運営している場所です。MAPを見ただけでその広さがわかると思いますが、常設の施設の他にもイベント空間などもあり訪れた時にも多くの人で賑わっていました。敷地内には葡萄畑もあり、日によってはワイナリーツアーなども行っているようです。

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□マックメナミンズの個性的なパンフレット          

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□エッジフィールドの地図

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□エッジフィールドの様子。醸造所のテイスティングコーナーもレストランも多くの人で賑わっている。

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□ガラス工房やブドウ畑などもあり、ツアープログラムも準備されている。

この他にも、いくつかのブリューパブを回りましたが、どこも個性があって、それが店舗の内装やメニューにも反映されていて、クラフトビールの街と呼ばれる層の厚さを感じました。しかもどのお店も美味しい!
ちなみに到着した日は土曜日だったのですが、町に人がいないと思ったらブリューパブはどこも満員。皆さんお気に入りのブリュワリーがあるようで、地元の人の日常生活に深く根付いていることを実感できました、こういう自分たちの街から生まれたものを応援する文化があるために、小さなブリュワリーやコーヒーロースターが次々と生まれていき、それがまちの魅力になっているのだと感じました。

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□街なかにあるブリューパブ それぞれ内容もメニューも個性的

コミュニティの場としてのストリート
次に訪れたのは「SundayPARKWAYS」。これはポートランド市交通局が主催しているイベントで、8マイル程度の道路を歩行者や自転車専用にする年数回行われているイベントです。ポイントとなる場所では、路上には様々な屋台が並び、子供が楽しめる遊具もつくられ、隣接する公園では音楽が演奏され、多くの人が自転車や解放された道路空間で休日を楽しんでいます。

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□ポイントとなる公園で憩う人々            

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□路上に並ぶ屋台

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□全体のルートマップ         

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 □子供用の遊具、REBUILDING CENTER提供のものも

このイベントには多くの市民がボランティアとして参加しているそうで、実際に車止めの所で知らずに入ってくる車への説明などを行なっていたり、そのエリアのネイバーフットが案内所を運営していたり、市単体のイベントではなく、地域と行政が一体となってこの場を作り上げているという印象を受けました。ちなみに当日はエリア内部に停められている車も外には出すことが出来ないそうで、こういうイベントでは地域住民は~ということがありがちですが徹底されています。

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□車止め

このイベントを象徴するかのように、スタッフのユニフォームの背中には「Opening Our Streets, Connecting Our Communities」というメッセージが書かれており、単に自転車に乗ろうという事だけではなく、道路空間を開いていくこと、みんなで共有していくことの意識を持って、このイベントを開催していることが伺えました。ちなみに使われているテントにも「CONNECTING OUR SPACES:CELEBRATING OUR COMMUNITY」と書かれていたりします。

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□スタッフユニフォーム               

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□メッセージの書かれたテント

ちなみに自転車つながりでは前日の夜に「naked bike」が行われていました。こちらは裸で自転車に乗って街中を走り回るもので(絶対に裸でなければダメという訳ではなく程度は個人個人で異なります)、石油に依存した社会に対する抗議のメッセージを伝えるためのイベントとして、毎年6月に世界中で開催されており、ポートランドでは2005年から開催されているようで、世界でも最大の人数が集まるそうです。
参加者は集合場所のみ事前に知らされていて、集合してから当日のルートが明らかにされるようですが、数千人の人々が、車が止められている路上を一斉に走り抜けていく様子は圧巻で、僕たちはちょうどルート沿いの飲食店で食事をしており、偶然に出会うことができました。

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□naked bikeの様子

このように、それぞれのイベントでは自転車を楽しむだけでなく、様々なメッセージが込められているのですが、それが重苦しくなく、参加者が心底楽しんでいる様子が伝わってきて、それが多くの人を巻き込んでいくという良い循環が生まれ、心地よいイベントになっているんだと感じました。
ただNIKEがスポンサーになっているレンタサイクルに関しては、様々な声があるようで、企業色が強すぎて乗りたくないという現地の方の声もありました。そういう所もポートランドらしいですが。

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□NIKEがスポンサーのレンタサイクル。 とはいえ結構使われている。

ゲリラ的に街を変えていく
ポートランドのストリートといえば忘れてはならないのがシティリペアの活動です。(http://www.cityrepair.org/
シティリペアの活動は1996年にマーク・レイクマンという建築家が始めた、住民同士の交流の場、コミュニティの場を自分たちの手でつくるというプロジェクトです。
有名なものは路上をペイントするストリートペインティングですが、その他にも自然素材を利用したナチュラルビルディングと呼ばれるベンチや建物、コミュニティガーデンをつくる、エコロジカル・ランドスケープという活動も行っています。
当初はゲリラ的に行われていた活動でしたが、その成果が認められて現在では合法的な取り組みとして市も公認のものとなっており、そのブロックの住民の合意が取れれば、デザイン面などで一定の行政協議は必要ですがペインティングが認められています。

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□街に突如として現れるストリートペインティング

今回はそのシティリペアのカークとインターンとして参加しているゆうちゃんに、実際に現地を案内してもらいながら、それぞれの活動の紹介して頂きました。ちなみに先ほどの「SundayPARKWAYS」もお二人に案内してもらいました。その後に向かったのがマーク・レイクマンの自宅近くにある交差点。
ここは、シティリペアの活動の象徴とも言える場所で、大きなストリートペインティングと各コーナーにナチュラルビルディングと呼ばれる、自然素材で作られた休憩スペースや、本棚、掲示板などが備え付けられています。

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□交差点に描かれた巨大なストリートペインティングと子どもたちのおもちゃ交換スペース

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□ポットも置かれた休憩スペースと掲示板、本棚など。

いずれも周辺住民とともに作り上げたもので、訪れたタイミングでは人はいませんでしたが、日常的に使われている様子でした。
この他にも物々交換のためのフリーボックスなどもつくっています。これも色々な場所にあるのですが、まだ十分に使えるなど、一定のクオリティ以上のものを置くというルールがあり、
誰が見てもいらないものが集まるような状況にならないようにしています。
はじめ、本当に活用されているのかなと思っていましたが、実際に見学している間に地元の人が物々交換に訪れており、きちんと使われていることが分かりました。

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シティリペアでは、毎年このストリートペインティングを経験できるプログラムを実施しています。そこでは単に路上にペイントをすることを体験するだけでなく、ペイントをする道沿いの住民との合意形成、行政とのペイントのデザインの調整など、実際に参加者がそれぞれの街でやりたいと思った時に必要なプロセスや方法まで学ぶことが出来るものになっています。
現在、このプログラムには世界中から参加の申し込みがあるようで、住民発意の活動をどのように行政と協議し実現まで持っていくかということに関心が高まっていることが伺えます。
こういった実現手法のオープンソース化は、ポートランドに限らず日本においても、特に市民発意の活動であればあるほど必要になってくることだと思います。

工場地帯の再生
最後に向かったのが、パールディストリクトと呼ばれる鉄道の操車場や倉庫の立ち並んでいた場所を再生させたエリアで、ここをポートランド市開発局にいらっしゃった山崎さんに案内して頂き回りました。
もともと産業構造の変化によって空洞化してしまい、地価が下がった所に若手のアーティストなどが集まっていったことから始まったエリアの変化は、行政やデベロッパーの参画もあり、現在では倉庫だった建物などを、ブリュワリーやカフェ、アパレル、住宅、オフィスなどにコンバージョンしたり、新しい建物が建てられたりしており、とても雰囲気の良いエリアでした。この場所はTIFやLIDといった資金調達の仕組みや、住民とのデザインワークショップなどとセットで紹介されることが多いですが、大事なのは平面的にも立体的にも丁寧に用途をミックスさせることや、1階に商業などのオープンな用途を入れること、既存の建物をなるべく活用することなどで、日本でも十分出来るのに出来ていないことを、しっかりとやっているからこういった雰囲気が生まれているのだなと思いました。

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ただ一方で、新築で建てられた集合住宅や周辺などは面的には大きくありませんが、いわゆるきれいな集合住宅になっていて、これまで回ってきたポートランド的な雰囲気は感じられず、富裕層などに向けたエリアとなっており、もちろんポートランドにも色々な人がいて、このようなものを好む人たちもいるのだと思いますが、少し違和感がありました。
地価の上昇などによって、はじめ住み着いた若手のアーティストなどから、富裕層に住人が変わっていくことは世界各国にありますが、今後このエリアでどこまでそういったことが進んでいくかは気になります。

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そんな中、山崎さんに紹介して頂いた公園がとても示唆に富んでいました。そこはジェイミソン・スクエアという公園でパールディストリクトの真ん中くらいにあるのですが、公園の四方のうち三面は富裕層の住むマンションで、残りの一面は低所得者用に行政が供給する集合住宅になっており、単に高級な集合住宅をつくるだけでなく、こういった環境を所得が高くない人にも提供することを考えてつくられています。こういった観点でもミックスさせることを丁寧に行っていることに非常に感銘を受けました。

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市民がつくる豊かな暮らし
この他にも日本でも昨年オープンして話題になっている「REBUILDING CENTER」や、こちらもポートランドの話では常に出てくる「Powell’s City of Books」など、ポートランドを代表する場所を見て回りました。「REBUILDING CENTER」では、DIYの様々なレシピが提供されていたり、「Powell’s City of Books」ではジンを自分でつくることのできるマシーンが置かれていたり、ポートランドでの滞在では、どこに行っても、とにかく自分たちで暮らしをつくるという精神が貫かれているように感じました。

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こういったことも含めて、今回ポートランドに滞在してみて、実際には白人の割合も多く人種的には多様ではないし、思ったよりも車社会だし、ホームレスも多いし、中心部よりも少し離れた場所の方が面白かったし、よくポートランドの紹介で書かれる理想の都市とかという言い方には違和感を覚えました。
また、クラフトビールやコーヒーロースターなどのコンテンツや、都市政策が評価されたり、その一方で日本の仕組みでは出来ないと言われたりしますが、本当に見るべきところはそこではないとも感じました。
僕が感じたポートランドの魅力は、決してマーケット目線ではなく、住んでいる人たちが自分たち自身で、良いと思う暮らしを生み出し、それを続けようと努力しているところだと思います。それは一方で、旅行で来る人にとっては魅力的でないこともあるかもしれません。ただ、住んだらとても心地よい場所なんだろうなと思いました。
これは市民一人一人の考え方の問題で、日本でもどこでも出来るはずだけれど出来ていないことだと思います。そして、シティリペアしかり、リビルディングセンターしかり、それを個々の生活だけではなく、文化や行政の動きにまでそれを行き渡らせていく、それは並大抵のことではないかもしれませんが、それがポートランドを形作っているのだと感じました。
別にクラフトビールが無くても、コーヒーロースターが無くても、そこに住んでいる人たちがそこならではの暮らしをつくっていることが重要で、自分自身の反省も含めて、市民の意識がまちをつくっていくということを改めて考えさせられた滞在でした。

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