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【マチメグリ】HBPワールドツアー訪問記:岸本編『都市における食の役割②持続可能性と食の選択肢の確保』(2018/11/19公開)

ワールドツアーレポート:岸本編『都市における食の役割①北欧における食の取組とNomaの体験レポート』に続く、ワールドツアーの岸本レポートの第二弾です。

食から考える持続可能性ー美味しさと共にある、新たな食の価値基準ー
近年、食の世界でも「持続可能性」という視点が重要視されています。

例えば、SDGsで(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)では、「目標12:持続可能な消費と生産パターンを確保する」という項目があり、2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる、という目標が掲げられています。

外務省 SDGsとは?

また、東京2020大会開催基本計画(2015年2月大会組織委員会)では、飲食に関わる主要目標に、「廃棄物の排出量をできる限り削減し、持続可能で環境に優しい食料を使用する取組を実行すること。」と記載されています。

東京2020大会開催基本計画

他先進国と比較しても、日本は食の持続可能性の取り組みが遅れているという現状があります。

環境先進国と呼ばれる、ドイツで「食品廃棄物問題」に取り組む2つの事例を見てきました。

○Sir Plusー賞味期限切れの食品廃棄物のみ扱うスーパーー
Sir Plusは、賞味期限が過ぎた食品廃棄物のみを扱うスーパーです。Sir Plusの創業者であるRapha氏とMartin氏は、2013年にベルリンの廃棄される予定の食品を回収して必要な人たちに届けるグループ”bensmittelretten”を立ち上げています。

この活動を続けていく中で、非営利の活動では参加者の規模に限りがあることを課題に感じ、それを解決する手段として、「廃棄食品で利益を生んで従業員を雇用し、事業を拡大できるビジネスモデルを作ること」を決意しました。

★Sir Plus
https://sirplus.de/

★Sir Plus 紹介動画
https://youtu.be/hGopJiRw82M

Sir Plusは、ベルリンの他のオーガニックストやスーパーと提携し、野菜や飲料品、お菓子、パンなどを買取・提供を受け、店舗で定価の30〜70%割引で販売しています。

実際に訪れて驚いたことは、多くの人で賑わっていたことです。
店舗は大企業が立ち並ぶ、街の一等地にお店を構えており、人々の日常の中に「Sir Plusはで買い物をすること」が溶け込んでいることを感じました。
(Sir Plusの隣もスーパーでしたが、Sir Plusの方が圧倒的に人がいました)

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また、生鮮食品の取り扱い数の多さにも驚きました。

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実際にSir Plusでグレープフルーツを購入しました。写真でわかるように、多少の傷はありましたが、味は全く問題なく、美味しくいただくことができました。

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また、Sir Plusは、ベルリン内に3店舗経営し、それに加え、通販でも商品を販売しています。このように社会問題の解決をビジネスとしての成立させていることが、この取組の素晴らしさと感じました。

○ Restlos Glücklich ー廃棄食品レストランー
月に1回しか開店していない廃棄食品レストランの開店日が、運よくベルリン滞在時にあり、夕飯を食べに行きました。

Restlos Glücklichは、廃棄食品で料理が構成されており、廃棄食品ゆえ、当日にならないとどのような料理が出るかわからないレストランです。

★Restlos Glücklich
http://restlos-gluecklich.berlin/

どのような料理が出るのかドキドキしましたが、料理はいたって普通に美味しい料理。
見た目も綺麗で、本当に捨てられる食材だったの?と思うような料理でした。

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レストラン自体は幅広い世代の方がお客さんとしていました。

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こちらの取組は、ビジネスではなく、啓蒙活動の側面が強く、学校給食として子供たちに食品廃棄の問題を伝える取り組みなどを行なっています。

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この2店舗を訪れて、私たちの生活の中で、多くの食べられる食品が廃棄されていることを実感することができました。

日本でも東京中心ですが、フードシェリングサービスとして、下記のような取り組みがあります。

●Reduce Go
フードロスを減らしたい飲食店とお店の料理を安く食べたいユーザーをマッチングし、ユーザーは月1980円で毎日2回までテイクアウトすることができるサービス。
https://reducego.jp/

●TABETE.ME
フードロスを減らしたし飲食店とユーザを繋ぐWEBプラットフォーム。単品決済で、購入し、店舗に受け取りにいく仕組み。
https://tabete.me/

●KURADASHI
消費期限が近づいた商品やキャンペーンの販売期間が過ぎた商品を安く販売するWEBサービス。
https://www.kuradashi.jp/

今まで紹介した取組は個別の企業・団体の取り組みですが、海外では、国をあげて、この問題を解決するために規制を行なっている国もあります。

●食品廃棄禁止法(2016年2月)
フランスの400㎡以上の敷地面積を持つ大型スーパーでは、賞味期限切れの食品や賞味期限が近づいている食品の廃棄することを禁じ、売れ残り食品の受け入れを行なっている慈善団体との契約が義務づけられている。
廃棄食品はフードバンク(品質に問題がない食品を生活困窮者など得に配給するシステム)などの援助機関に回され、必要とする人々に配布を行う。 (これによって、毎年数百万人に無料の食事を提供できるようになるという。)
また、人の食用に適さない売れ残り食品は、家畜の餌や堆肥として転用されている。

更に、持続可能性という視点は、美食の評価基準の1つとなっています。

アジアのベストレストラン50では、2018年より環境と社会的責任に対して取り組んでいるレストランを評価するため「アジアのサステナブル・レストラン賞」を新設しています。(世界のベストレストラン50ランキングでは、2014年より導入。)
「サステナブルレストラン賞」とは、イギリスに本部を置くSRA(サステナブルレストランアソシエーション)という認証団体が評価を行い、その評価基準は、食材の調達基準(Sourcing)、環境に負荷をかけないこと(Environment)そして人が無理なく働き続けられること(Society)の3つがあります。

記念すべき2018年の「アジアのサステナブル・レストラン賞」は、日本のレストラン「レフェルヴェソンス」が受賞しています。

★レフェルヴェソンス
http://www.leffervescence.jp/

今後、私たち一人一人がこのような課題に対して問題意識をもち、個人レベル、都市レベルの両方で取り組んで行かなければなりません。
「美味しい食」が生み出される背景に不幸になるコト・モノがあってはならないと感じました。

参考:
ベルリン初!「廃棄される食品」だけを売るスタートアップ
https://www.blog.akihiroyasui.com/0000048/

~食の明日のために~Vol.3/2018年「サステナブルレストラン」受賞シェフ生江史伸シェフの軌跡
https://magazine.hitosara.com/article/1205/

食の選択肢の確保ー宗教における食の制限・思想による食の主義に対応できる食の選択肢を確保するー
ベルリンの街を歩いていて驚いたことの1つに、レストランに看板に「ビーガン、ベジタリアンフードあり」と書いているお店が多いことです。

ドイツではベジタリアン・ヴィーガンが人口の約10%といると言われており、それに対応する形で飲食店が多くありました。

ベジタリアン、ヴィーガンという言葉は聞いたことはありましたが、その違いが分からず、調べてみると、ベジタリアンは健康志向がベースにあり、ヴィーガンは動物愛護の精神がベースにある主義だそうです。
また、ベジタリアン・ヴィーガンになる理由としては、主に、①健康上の理由、②倫理的な理由(殺生を認めないため、動物由来のものはさける)、③地球環境上の理由(食肉産業に必要な穀物などを削減する)、④宗教上の理由があるそうです。

実際にドイツに住んでいる方にお話を聞くと、ベジタリアン、ヴィーガンの方は珍しくなく、ホームパーティーをする時は、それぞれの食べられる物を確認することが大変だそうです。

ベルリンでは、ヴィーガン向けのスーパーとハンバーガーショップに行ってきました。

○Veganzーヴィーガン商品のみ扱うスーパーー
Veagansは動物性の素材が使われた製品を一つも置いていないスーパーです。
Veagansは2011年に設立され、現在は、ヨーロッパにある10の支店とドイツとオーストリアでオンラインショップを展開しています。

★Veagans
https://veganz.de

驚いたのはその種類の多さ。日本ではなかなか見ないヴィーガン向け商品ですが、1つのスーパーを構成できるほど商品数があります。
これらの商品は30カ国以上の国から輸入しているそうです。
そして、意外にも購買層のおよそ8割はヴィーガンでもベジタリアンでもない人々だそうです。

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また、ヴィーガンは、食品だけでなく、歯磨き粉や化粧品などの日用製品まで、動物性の素材が使われていない、動物実験がされていない物を使うようで、Veagansには歯磨き粉や洗顔ソープまで販売されていました。

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○ヴィーガン対応ハンバーガショップLily Burger
ヴィーガン向けのメニューを扱っている飲食店はたくさんありましたが、特に面白いと思ったのはLily Burgerというハンバーガーショップでありながらも、ヴィーカン対応している飲食店です。

★Lily Burger
https://www.facebook.com/lilyburgerundsteaks/

メニューの作り方も面白く、同じメニューで通常のお肉を使ったバーガーとヴィーガン向けのバーガーを販売していました。

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このようなお店があるのと、食の主義に関わらず、誰にも気を使わず、みんな一緒の食卓を囲んでご飯を食べることができていいなと思いました。

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日本人でみると、まだまだヴィーガンやベジタリアンという人は少ないですが、日本へくる観光客や日本で働いている外国の方には一定数、このような食の主義を持つ方がいます。
食の主義や宗教上の制限に関わらず、共に楽しく食事ができる環境を整えることが都市に置いても重要だと感じました。

参考:
選択肢の一つとして、ヴィーガンが当たり前になるように。ポートランドにも出店予定中のヴィーガン専門スーパーマーケット「Veganz」
https://greenz.jp/2016/03/05/veganz/

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今回の研修旅行を通してとても感じたことは、都市に置いて「食」もインフラの一つであるということです。

インフラの語源であるInfrastructure は、「下支えするもの」「下部構造」を指す観念的な用語で、一般的に都市におけるインフラとは国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設のことをさします。
また、この福祉とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を表しています。

食もまさしく、国民福祉の向上(食を通じて自国の誇りをつくる、食を通じて持続可能な社会をつくる、食の主義・主張に関わらず食を楽しめる環境を提供するなど)と国民経済の発展(食を切り口に海外から人を呼び寄せる、地産地消で地域経済の循環させるなど)を人々に提供するものであると感んじました。

(しおり)

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