自分の中のもやもやを、はっきりとあらわしてくれる言葉【随時更新2023年8月6日更新】

飽きっぽいから、愛っぽい/岸田奈美

P17
行き止まりになった記憶の暗闇に、新たな記憶という映像を投射する。それは作り物かもしれない。だけど父が愛した私が描いたのならばきっと、父は許してくれるだろう。

飽きっぽいから、愛っぽい/岸田奈美

うそつき、うそつき/清水杜氏彦

P8
新たな技術の導入は新たなかたちの不便さを生む。技術と犯罪と法整備のいたちごっこ。

P8
技術が合理性を重視したあまり、倫理や道徳が軽視されはじめ、この国はかつてそうであった姿と相当に変わってしまったみたい。

うそつき、うそつき/清水杜氏彦


光のとこにいてね/一穂ミチ


P11
薄暗い階段の、すり減った滑り止めの溝やコンクリートのひび割れを見ているとだんだん寂しい気持ちになり、明るいところに飛び出して行きたくなった。ふわふわと明るい日なたの空気を吸いたい。

P20
私の頭の中だけにあるものを、パン生地みたいに伸ばしたりこねたりしていると、本当のことだったのかどうかも自信がなくなってくる。

P39
ぱあっと目の前がひらけて、黒く尖ってつめたい感じがしていた二本の針が、急に優しいものに感じられた。

P51
あてのない約束なら、学校の友達ともする。いつかお泊まりしようね、とか、一緒にテーマパークに行こうね、とか。本当にならなくても、言い合うだけで楽しい。

P60
この子が悲しいのなら、それだけでだめなことだ、と私は思った。
ママのルールよりももっと強く確かな「だめ」がそこにある気がした。

P128
ひょっとしてわたしは、悪い人間なんだろうか。無関心やからかいより、善意の方が鬱陶しいと感じてしまう。
私の事情をちゃんと踏まえた上で、近寄り方を知ってほしい。ーそんなの単なるわがままで、私だってこの人のことなんか何も知らないのに。

P148
自業自得、というお母さんの言葉が突き刺さる。せっかく大人になったのに、幸せなほうを選べないなんて、選ばないなんて、そんなことがあるの?
わたしは、そんなのいやだ。

P379
私は送り出すだけだったのに、この子は瞬時に「一緒に行く」と言う。私がお通夜に行く側だったら果遠ちゃんは当たり前みたいについて来たんだろう。私たちは全然違って、だからお互いが必要だった。

P392
周囲がやけに静かだと思ったら、自分の心臓がうるさいせいだった。

P431
直は私の家族だけど、だからって私の人生について何もかも打ち明けようとは思わない。それはママも同じだろうし、あなたにもあなただけが大切に思うものや秘密があって当然だよ。心の中の家に誰をどこまで入れるかは直が決めていいの。

光のとこにいてね/一穂ミチ


名探偵のままでいて/小西マサテル

P16
楓はそうした認識や自分の振る舞いに、割り切れるはずの割り算でなぜか剰余が出てきてしまう奇妙な違和感を覚えていた

P27
「ぼくが幻視の話をしているときはとくに、楓の表情がくるくると変わるからだ。驚いた顔を見せてくれたり、笑顔を見せてくれたりしてくれるからだ。なにより、声を出して相槌を打ってくれるからだ。そうするとぼくは、楓の実在を確信を持って感じ取れるんだ。」

P27
いわゆる"終活"という言葉は耳に馴染むわりに無神経で使わないとするならば

P36
「配偶者が亡くなったとき、哀しみを抑えつつも冷静な行動がとれるのは女性のほうだ。男なんてまるでだめだよ。実際、ぼくなんかも」

P41
ときにに子供達には眠れなくなるほどの怖い物語や、胸踊る 不可思議な物語が必要であり、それが感受性や想像力を育むトリガーとなるのだ、というのが祖父の信念だった。

P323
「そしてもうひとつはー意志の力で恨みに流されないという物語だ。」

名探偵のままでいて/小西マサテル

凪に溺れる/青羽悠

P4
天井を見つめる。水の上をあてもなく浮いているような気分になる。
行く先もなく漂いながら、こんな今を望んだわけではない、ということだけを理解している。
けれど浮かんでいるのは楽で、結局抜け出せない。

P114
心が静かになるのを感じる。それは安堵といった類のものじゃない。
心が沈み、そこに着くような感覚だった。

P123
十太はどれだけ近づいてもこちらを見ようとしない。どれだけ求めても聖来に心を開くことはない。でも、
だからこそ聖来は望み続けることができる。薄い渇望で身を包めば、満たされないという絶望に気付かなくて済む。

P150
「相手の退屈な話に付き合うのは、相手を突き放すのと同じことよ。相手を相手自身の檻に閉じ込めてしまう」

P189
母はそう言って視線を逸らす。そうやって人を遠ざけようとするのはばあちゃんも同じだった。
そういう血筋なのか。

P193
血の通った手の熱。凡人の温もり。
もう遠くを見続けることができない。もっと近く、すぐ隣に焦点を合わせたかった。

P198
誰もが竦んでしまうような影を、この男は飼い慣らしている。出会った時から遠い目をして、
途方もなく大きな何かに焦点を合わせている。分かってはいたが、圧倒的だった。

P203
繋がりの中でどこからともなく生まれ、伝播し、うねり、襲いかかった。
十太はその流れには無縁なのだと思っていた。でもそんなことはない。
こいつも流れに飲まれていた。それでも堪えて、十太はその場に経っていた。周りが流されている間、
ずっと一人で。

P208
大きな流れの中で、誰もが何かを諦める。それを大人になるとか言い換えて、のうのうと生きている。
そんなもんだ。
自分は諦めたことを誇りたくない。一生、生傷として抱えていたいのだ。
この痛みを痛みとして引き受けられないのなら、本当にくだらない人間になってしまう。

凪に溺れる/青羽悠

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