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深夜のファミレス
十年前、その頃は某ファミレスチェーン店の夜勤をしていていました。担当はキッチンで、もう一人フロア担当が居る。
つまり、基本的には従業員は二人だけです。
夜中の3時くらいまで、オーダーが来たら料理をしつつ、閉店作業を進める。
運が良ければラストオーダーの2時30分には仕事が終わって帰る事が出来るし、何より、深夜手当も出るから給料はそれなりに弾むし、客数も少ないからよっぽどの事が無い限りオーダーが立て続けに来る事は無いから楽な仕事でした。
ある時です、仮にAさん(女性)としましょう、Aさんが新しくフロア担当として入ってきました。
Aさんは明るく、飲食経験者だったのですぐに仕事も覚えてくれて、予定の日数より少なく研修期間も終わり、すぐ二人きりでの営業をしていました。
お客さんが来なければ暇で、二人で雑談する事が多かったのですが、Aさんが「そういえば」と口を開きました。
「このお店、幽霊多いですね」
「幽霊ですか?」
Aさんは昔から霊感があるらしく、幽霊が視える、と言い張るのです。
私は霊感が無いのか見た事は無いので、Aさんの話を「またまた〜」と茶化していました。
とはいえ、怖い物が苦手だけど、怪談や都市伝説が好きなので「どんな幽霊いるんですか?」と訊ねると、Aさんが言うには基本的に迷子になってる霊が多い、と言ってました。
フロア(お客さんがご飯食べる所)でポツン、と立って空虚を見つめるおじいさんや、店の中を走り回る子供、悪さはしないから見えても大丈夫、と笑っていたのですが、二ヶ所だけ、とAさんが忠告してきました。
「バックヤードにずっと立ってる女の人が居る、その人は何もしてこないのが救いだけど、よくない幽霊だと思う」
「もう一ヶ所は?」
「女子トイレ、そこにも女の人が居るんだけど、本当によくない、こっちに干渉してくる」
「干渉?」
「女子トイレ掃除してた時、必ず洗い終わったら便器の蓋を閉めるんですけど、何故か蓋が開くんです、だからもう一回締めると、今度は隣の蓋が開く、これを暫く繰り返してたら背後に立ってきて……」
視える人は大変だなぁ、と思いつつ、本当かなぁ、と疑っていました。
その後暫くして、Aさんは妊娠が発覚して退職なさって、Aさんの穴をBさん(女性、元々居た人)が埋めてくれました。
おかげでAさんから聞いた幽霊の話も次第に忘れていたのですが、ある日の夜、Bさんが慌てた様子で「上條さん!」と走ってきました。
もうお客さんは全員帰っていて、あとはBさんのレジ締めを待つだけだったので、こちらはもう着替えて控え室で待機していた状態。
Bさんがそんなに慌ててる姿を見るのが初めてだったのでどうしたんだろう、と思っていると泣きそうな声で「男子トイレで……」と話し始めました。
「ジェットタオルが勝手に付いたり消えたりして……!」
「付いたり消えたり?」
仕方ないのでBさんの後をついてくと、ブォォオオ、とジェットタオルの音が聞こえたかと思うと、ピタリ、と止まる。
暫くするとまたブォォオオ! と起動するのでコンセントを抜きました。
「機械だから時々誤作動起こるんですよ、こういう時はコンセント抜いて、早朝さんに引き継ぎすれば大丈夫です」
「良かった……、ほら、Aさんいた頃、他の人からトイレに幽霊出るって聞いたから……」
Aさんは他の人にも幽霊が出ると忠告していたらしく、Bさんは他のキッチンの人から間接的に聞いていたらしい。
「ああ大丈夫ですよ、確かAさんが言うには女子トイレに──」
私が安心させようと話していた途中、女子トイレの方からブォォオオ! とジェットタオルの音が聞こえたのです。
私とBさんは慌ててその場を離れ、レジ締めを済ませたらすぐに外に出ました。
その以降はそういうことも無く、結局あの日は何だったんだろうな、といったお話でした。
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