見出し画像

2019年7月、「滋賀県サイトリニューアル問題と自治体サイトのあり方について意見を交換する会」で語られていたこと (2/2)

2019年に起きた滋賀県サイトリニューアル事件を受けて、県内有志が開催した「滋賀県サイトリニューアル問題と自治体サイトのあり方について意見を交換する会」の記録を、2年弱の歳月を経て、再編集のうえ公開することにした。この記事はその後編(なお前編同様、内容はすべて2019年7月28日時点の情報となるのでご留意願いたい)。

前編では、ゲストとしてお招きした株式会社ツルカメのUXディレクター 森田雄さんから自治体サイトリニューアルの“勘所”を踏まえた今回の事案の所感について、お話いただいた。

イベントではその後、今回の滋賀県サイトリニューアルで問題だと感じたことや、自治体担当者やディレクター等は、ウェブサイト構築でどういう点に気をつければよいかといったことについて付箋に書きあい、参加者の皆さんと共有した。

画像1

後編ではそこで共有した、参加者らの声の一部を取り上げる。

ゴールを明瞭にすること、目的に対して定量計測を行うこと

僕が今回感じたのは「発注する側も請ける側も、仕事の意志と意図がなさすぎる」ということです。クライアント側に知識がないのは当たり前なので、そういったところに対しては受託側がそこに警鐘を鳴らしてテーブルをひっくり返すぐらいのことをするのが妥当だと思うんですが、それがされずに結果的になぁなぁでやっちゃったところが、全ての問題の根幹かなと思っています。
ゴールも不明瞭ですし、「アクセシビリティやファインダビリティを目的にしている」とはいうもののその定量的な計測も行われていないですし、この状態で進んでいっても本当に改善されるのかすごく疑問です。

庁内体制に関する問題

全国の自治体サイトの多くは広報担当課が担当しているのですが、情報化担当課とのコミュニケーションが取れていないことが多いそうです。喧嘩をしだす自治体もあったそうです。
滋賀県のサイトリニューアルでは広報課が担当していて、情報政策課がどのように関与していたのかがわかっていませんが、そういう関係から変えていかないとダメですよね。ウェブサイトを「ページ」という紙のような概念で捉えられると、どうしても広報と情報とで考えが噛み合わなくなるだろうし。
本来は行政特有の機構や仕事の流れを俯瞰して「こういうところで突っかかりそうだな」と言えるような人がいないとダメなんですけれども、今回の仕事ではそういう動きが全くなかったのだろうなということを強く感じました。

業者にとって、自治体サイト案件は「損」になっている

私は「出先機関の仕事は美味しいけれども自治体案件は損」と思っていて、ここしばらくは県の仕事をしていません。セキュリティ面とかいろんな部分で自治体って特殊じゃないですか。外からデータベースをいじりたいのにいちいち県庁に行かなければいけないとか、色んな制約があるんですよ。某高校の仕事では校長室に入らないと更新作業ができないというのもありました(笑)。トップページのアイコン一つ変えるのにわざわざ行ったりして。そういう環境のなかで自治体の仕事を請けようと思える会社って少ないんじゃないでしょうか。
国のページのリニューアルは自治体とは事情が違って予算はなんだかんだで潤沢ですし、分割で細かく発注できるので、やりたい方にいくよう修正しながら進められます。
滋賀県の場合、今回のプロポーザルに参加したのも2社だけでしたっけ。それは辛いですね…。

自治体のウェブページは公文書でもある

県職員の仕事は逐次プロセスを県民にオープンにしておかないと、どこかで詰んでしまうものだと思っています。「それは違うで」とちゃんと評価・批判してくれる外部の人たちが出てくるためにも、やっぱり情報を出していったほうが、職員にとっても安心するんですよ。職員にとって「県民の知る権利にこたえていく」というのはそういうメリットもあるわけですが、もしそのための情報をウェブサイトにアップしようとする職員のモチベーションが、サイト構造やシステムの問題がもたらしたハードルによって下がっているのであれば、県組織として危険な状態ですし、その点は組織のためにも第三者によってしっかり検証されるべきだろうと思います。
県のウェブページは結局公文書でもあるわけです。来年度施行される滋賀県公文書管理条例も踏まえたアーカイビングの機能も本来は考えられてないとダメなのに、そういう設計も検討もされていない。
滋賀県のサイトで作られるページの公開期間は原則1年(当時)になっていますが、任意で公開期間を伸ばすこともできます。でもそもそも「原則1年」という考え方すらどうなの?と思っていて、きっとそれは他の自治体でも起きている問題なのではないかと思います。アーカイブや知る権利なども踏まえた自治体サイトのあり方ってどうよという話は、きちんとどこかで議論されないといけないでしょうね。

これまで&今後のプロセスを明らかにする

この問題が起きた経緯や議論の中身、どういう内容でどう走っていったのかということが全く滋賀県サイトで見ることができない。今日のこの場で初めて具体的にRFPを読むことができましたが、当初の計画資料や提案書、導入されたCMSの仕様、そして構築に関する協議経緯など、さらに細かい情報が開示されていれば、もっと本質的で突っ込んだ意見を出せたはず。そういう情報を明らかにしないまま「意見ください」「良くしていきましょう」というのは、あまりに勝手すぎると思います。
役所の担当課も貝になっちゃって情報を出さなくなると、報道の人らや議員さんらが入っていって情報公開請求とかして洗いざらい出させるよう、頑張ってくれないといけなくなる。
意見募集や座談会の声を聞いたものを受けて、今後どうするつもりなのか、今と全く同じ布陣で改修してしまうのか、そこを明らかにしてほしいですよね。意見を聞いていくんだったらまずその意見をどうしていくつもりなの?というのを知りたいですよね。

ビジョンや思いを示さずにただ意見を募るのは無責任

そもそも、県が何をしたいのか、また何をしたのか分からない今の状況から、ただボトムアップに改善を考えるのはかなり厳しいと思います。このRFPから紐解くだけでは何を真似したかったのかすらもわからない。
県のICT推進戦略に視野を広げれば、「滋賀県のサイトはこういうビジョンを掲げてこんな高いクオリティのものになっているから、皆もここまでのレベルのものを作っていきましょう」という、県のサイトは本来そういうICT推進戦略のベンチマークになるはずのものであり、そのビジョンあっての設計を行うべきだと思うんです。でもそのビジョンが全く読み取れなくて、ただ「徳島県のサイトが賞を獲ったからそれに寄せよう」みたいな感じになっている。このまま10年間このサイトを使わないといけないのだとしたら、滋賀県民は不幸だなと思います。
県が実施している座談会は、いわゆる一般市民に聞いていらっしゃるのでつまり「ユーザーニーズ」の話だと思うんですけど…、本来ウェブサイトって、ユーザーがどうしたら使いやすいのかという「ユーザーニーズ」だけでなく、サイト運営当事者側の「ビジネスニーズ」と、それを動かす「運用のニーズ」、この3つの視点から考えないと改善策は出てきません。一方、県が意見募集や座談会といった県民の声を聞くというアナウンスをする際に「ビジネスニーズ」が出てこなかったということは、つまり県がウェブサイトを使って何を実現・達成したいのかということに対する議論や理解が、庁内で足りていないのだと思います。ウェブサイトは単に必要情報を届けるという話ではありません。県政とかまちづくりとか観光ブランドとか、それらと密接に関わるという価値に対する理解や意識が、県として足りない。ウェブを守備的に使うのか攻撃的に使うのかは、本来トップの方針一つで変わるもので、それは民間企業でも同じことです。トップの意識が変わらないと、予算も含めてこの状況は全く変わらないと思います。
知事が議会や会見で「ホームページは県政の顔」と言ったそうですが、その程度のものでしか考えていない時点でダメですよ。ウェブサイトって県そのものなんですよ。ウェブというのは今のご時世、将来的に考えれば県そのものだという概念で考えなきゃいけない。

根本的な問題提起の声が、好転するきっかけになれば

滋賀県のサイトだからといって滋賀県内で完結するというクローズドな話ではないはずです。そもそもインターネットはボーダレスなものだから。今回海外から参加してくれた人もいるわけですから。
今回の問題で有志が集まったのは、周囲から聞こえてきた声の殆どが、「この問題を問題として取り上げたかったけど、知り合いが当事者として関わっているからなかなか言えない」とか「県庁との取引関係が悪くなるから意見を上げられない」というものだったからです。公共における県民と行政との関係として、これらの声があがっている現状は非常にまずいと感じています。なので、感じたことは根本的な問題提起であろうが一切気にせず、どしどし発信していただくのがよいと思います。
これらの声が好転するきっかけになれば、すごくよい事例になると思います。ホームページが残念なものになった、県の考えや姿勢も残念なものだった、でもそこから県民や専門家が積極的に声をあげることで県の考えや姿勢が根本から改まった――そういう事例が生まれれば、同じような問題が起きている他の自治体でもアクションしやすくなるかもしれません。
普段インターネットの仕事をしているなかで、自治体とも関わることがあるんですが、インターネットに詳しくないという人からすると「ITの人って、言ってることも横文字ばかりでわからないし、怒ったりするし怖い」というところがあるのだと思います。今回の問題ももしかしたら専門家の人でもっと相談できる相手がいたら良かったのかなと考えると、ウェブ業界的にも反省すべきだなと思います。県の人にも今回いろんな問題があったと思いますが、ITの業界の人たちにもできることも色々あるなぁと思っていて、今後滋賀県庁の人たちともコミュニケーションしあえるようになるなど、今日の集まりや意見募集・座談会への参加が何か良い変化の兆しになればいいなと思っています。

画像2

その他イベント終了後、参加者の皆さんからいただいた感想から、いくつか抜粋して掲載する。

仕様書作成プロセス、単年度発注という考え方を改めてほしい

2019年1月に予算計上、5月にRFP公開、6月に契約、7月までにサイト構成、3月28日までに公開。このスケジュール自体に非常に無理があったと感じています。滋賀県の三日月知事、滋賀県、特に広報課において、ホームページのリニューアルを非常に甘く考えていたのではないでしょうか。
予算が議会を通過しないと発注出来ない、自治体ならではの事情もありますが、実質的に作業に充てられる時間が短かった事を鑑みると、初年度はサイト構成の把握とルールの策定、次年度で移行作業など複数の工程に分けて複数年度で契約するなど回避策もあったように思われます。
今後、同様の発注においては特にRFPの作成について外部の有識者など専門家に対価を支払って再委託や担当者の変更を認めないなどしっかりとした内容の物を作っていただきたいと思います。それに基づいての発注を行い、業者の作業の進行についても予定通り進んでいるかの把握が求められると思います。
そもそも仕様書で発注するという形態が問題。仕様は提案の領域です。それと単年度での発注も問題。
今後県は、現在の受注会社よりも技術的・経験的に優れた会社、できれば複数社から意見を求めてほしい。

主体的な意思をもって、長期的視点で計画策定を行える体制を

大きな問題は、そもそも自治体の側に長期的に運用や改善をできる体制がつくれていないこと(担当は変わるのに情報の積み上げが短期的で、プロセスも不透明)。その結果、今回はWebサイトの設計においても「そもそも何のために」という目的がきちんと言語化・共有されないまま、プロジェクトだけが期限に向けて走ってしまった印象を受けた。
What、Howの部分のエラーがひどすぎて目立つが、“Whyをいかに、仕様書設計までに考えるか”が重要で、その部分が仕組み化されないことには、他でも同じことが繰り返されるのでは。
1000万円は痛い勉強代ですが、一から今後10年の県政が豊かになるものを作り直してほしい。その過程をオープンソース化・発信することで、県としても相応のリターンは得られるはず(ある意味チャンス)。負の遺産を次世代に残してはいけない。
サイトをどう活用するかと言う意思、それを受けて作る側のプロ意識が足りていなかったことが問題。誰もが納得できるよう、県は定量的に効果測定を行なったほうがいい。
調達における発注側の主体性のなさが問題だと感じた。残念ながら本件はそう簡単に解決できるものではないなと改めて感じた。今回はたまたま問題が大きくなったが、そもそも自治体におけるこの種のIT調達は問題があまりに多い。同様の問題は他でも起きうるだろう。

知事自ら情報収集を行い、自ら考えてほしい

CMSのリプレイスが目的ではなかったはずなのにそれを行い、リンク切れやさまざまな問題を引き起こしてしまった。今後知事はトップとしてさまざまなチャネルからの情報収集に努め、問題点を正しく理解し、自ら考えて意見を述べてもらいたい。

当日この集まりに参加された方々の多くは、この集まりでの意見交換を踏まえて、県が主催した座談会に参加したり、県サイト内意見受付フォームから投稿するなどして、県に意見を届けたと伺っている。

これらの声が、数年先に行われるであろう再リニューアルの計画にきちんと反映され、時間をかけてでもオープンに、県の「デザイン」「デジタル」「データ」に対する姿勢の土台が構築され、その土台のもとウェブサイトが構築されていくことを期待したい。

(編集協力:佐々木将史