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良い顧客体験とは

「顧客体験」という概念は決して新しいものではない。Ritz-Carltonの2,000ドルの決済権の話、百貨店のNordstromのタイヤの話などは古典として語られる事も多い。

近年、「顧客体験」や「カスタマーエクスペリエンス」というキーワードを以前にも増して聞くようになってきたのは、僕らがデジタルの世界に生きており、そのデジタルの世界に「顧客体験」の概念が入り込んできたためとも考えられる。


そもそも「顧客体験」とはなにか?

商品そのものではなく、商品の購入から利用までを含めた「商品に関する様々な体験の積み上げ」が顧客体験だ。

例えば、"おやつ"の定期便「snaq.me」では”お菓子”と”おやつ”という言葉を明確に定義している。モノとして消費されるものは”お菓子”であり、その消費を通して顧客が体験する時間が"おやつ"である。もともと”おやつ”という言葉は御八つ(八つ時=現在の14時頃)という時間を表す言葉が由来になっていることもあり、"おやつ"はモノではなく体験であると考えている。

Ritz-Carltonのようなホテルや、テーマパーク、映画館などは物理的なモノを商品として提供しているわけではないので、そもそも体験を提供しているし、商品というモノを提供する場合も、顧客は商品を何らかの形で消費/利用するため、必ず顧客体験は存在する。

例えば、コモデティのミネラルウォーターにも顧客体験は存在する。2Lのミネラルウォーターを購入する場合、重たいので基本Amazonで購入するが、その場合はできるだけ簡単に購入できることが良い体験となる。とにかく簡単に買うという体験を突き詰めると定期便や今はなきDashButtonという発想になる。逆に、再配達の手続きを何度も行ったり、ダンボール開封時に手を切ったり、捨てる時にラベルがなかなか取れなかったりすると顧客体験は悪いものとなる。(機能的な顧客体験

さらに、ペットボトル回収率の低い米国では、JUST WATERやBoxed Water Is Betterのような、容器がエコであることに焦点を当てた商品も生まれてきている。ペットボトルではなく紙パックに入った水を消費する体験は「環境への負荷を軽減している」というポジティブな顧客体験につながっている。(情緒的な顧客体験

機能的な顧客体験は、いわゆるWebサービスやアプリにおけるUXに近く、ユーザー視点での使い勝手の良さやわかりやすさのようなもので、オペレーション改善に近い。ユーザーの立場でいかに自然で負担なく利用できるかを考えることになる。つまり、その商品やサービスが持っている価値を最大限に体験してもらうということがゴールになる。

一方で、情緒的な顧客体験は、ストーリーや世界観への共感など、商品そのものの価値を向上させる体験となる。生産者の顔や想いを知った上で商品を消費することで、何も知らずに消費するのと比較してより価値を感じてもらえる。その商品のモノの価値にいかに別の価値を付加できるかということがゴールだ。

近年では、機能的な体験も追求しつつ、デジタル上でストーリーや世界観を伝ることで情緒的な顧客体験を高める動きも出てきている。その一つの流れがD2Cとも言える。


良い顧客体験を設計するには?

WebサイトにOUR STORYを掲載し、世界観を表現したデザインがあれば情緒的な顧客体験を生み出すことができるのか?

D2Cがブーム化する中、今後ますます多くのD2Cブランドが登場してくることが考えられる。その事自体は良いことだと思うが、一方で、世界観やストーリー、背景や意味のあるもの溢れた世界がやってくる。

ワイン買う時に、農園の写真と生産者の顔が店頭POPやwebサイトに掲載されていることが増えてきた。もちろん数あるワインの中で、選ばれたいくつかのモノにそういった情報が付加されているのは意味があるが、農園の写真と生産者の顔がずらーと並んでいると、もはや選ぶことができないし、詳しくないと違いもわからない。(自分がそれほどワインに詳しくないということもあるが、、)
もはや、世界観やストーリーのコモディティ化が起き始めているとも考えられる。

取って付けたようなOUR STORYやそれっぽいデザインは、Attentionは生むがIntentionは生まない。ストーリー疲れした顧客から「オーケー、もうわかったからこれを買わせてくれ」と言われる未来がくるかもしれない。(もしくは、レストランなどですでにそういった経験をしたことがあるかもしれない。)

D2Cブランドが数多く存在する米国では、D2Cブランドを再編集するような動きも出てきている。Macy'sが買収したSTORYはテーマを決めそれに沿った商品をキュレーションすることで新しい購入体験を実現している。Pop Up Grocerは食のD2Cブランドを期間限定でオフラインの場に集めて再編集して注目を集めている。


顧客体験は顧客と一緒に作る**

テーマパークの楽しみ方は一通りではない。ひたすらアトラクションを楽しむ人もいれば、ショーを見るのがメインの人も、ただ行くだけで世界観に没入できテンションが上がる人もいる。一緒に行く人が大事でハコは重要じゃない人も。もちろんその組み合わせもある。

テーマパークではもちろんオススメの楽しみ方は提案されているものの、楽しみ方は顧客に委ねられている。この”余白”こそが良い顧客体験を生み出すのに必要なのではないかと考えている。

つまり、大事なのは、世界観やストーリーを押し付けるのではなく、余白を残すことで、顧客自身の体験が自分事として世界観やストーリーを創り出すこと。その手助けをするのがブランドであり、ストーリーであるとも考えられる。

では、具体的にどのように顧客体験を創り出せばよいのか?

個人的にはWebサービスの開発に似ていると考えている。ある程度の余白を残した上で(過度に世界観やストーリーなどを作り込まず、体験価値も決めつけない状態、ただし理想的な顧客体験の仮説は必要)、最初は広告などで実際に顧客を獲得し、その顧客のことを徹底的に観察する。特徴的な体験をしているようであれば、他の顧客にも同様の体験をしてもらうように設計をする。

D2Cの場合、デジタル上での動きを追うことができるため、より詳細の観察が可能になる。例えばNPSの高い顧客の動きを分析し、他の顧客にも同様の行動をとってもらえるような仕掛けやサポートを用意する。もちろんオフラインのタッチポイントも活用すべきだ。オフライン店舗は世界観を伝える場としての側面もあるが、顧客理解の場としての価値も高い。

また、顧客が自分事として創り出した世界観やストーリーを共有できるような場や仕掛けも必要だ。共有するということ自体も良い顧客体験となる。SNSなどを活用して、できるだけ発信しやすい雰囲気を作る。最も良いのは、SNS上で顧客同士のコミュニケーションが生まれることだ。

このようにして顧客と一緒に創られた顧客体験をサービスや商品に落とし込んでいく。デジタル発のブランドだからこそ、デジタル上で情報を取得し、その情報に合わせてフレキシブルに体験設計を変えていくことが可能になる。もちろん、理想的な体験は一通りではなく複数ある。そしてこのサイクルに終わりはない。

結局、顧客体験設計のプロセスは、ほぼ顧客理解のプロセスになり、このことは別に新しいことではない。以前からオフライン店舗やホテル、百貨店では普通に行われていたことだ。オフラインでのタッチポイントは人だ。
結局デジタル上のタッチポイントができても、サービスを設計・運営する人に顧客と一緒に体験を創り出す、という意識がないと良い顧客体験は生まれない。

スナックミーのバリューの一つに「スナックミー体験の一部になる」というものがあるが、社員自身も顧客体験を構成する要素なんだという意識を持つことが大事だ。

先日スナックミーでも、オフラインイベントを開催した。オリジナル商品開発やBOXデザイン体験、ピッキング体験、過去の商品の展示などの企画を考え、実際にイベントでは社員がサービスの一部としてお客様とコミュニケーションをとらせていただいた。

当然お客様にイベントで良い体験をしていただくことが最も大事だが、一番大きな収穫は、自分たちもサービスを構成している要素なんだ、ということを再認識させてもらえたことかもしれない。


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