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ゴーヤ柄のゼンマイ織の帯のこと

いつも着物のお勉強に行くデパートのきものサロンがあります。ある日、ご招待いただき同デパート内の展示販売会に行きました。この手の催しは危険すぎるので近寄らないように心がけていたのですが、サロンの渡辺さんに、「たくさん着てたくさん見ることが勉強になります」と言われておりまして・・・。

会場はデパート内のきものサロンの近くの美術サロンで、敷居がやや高い感じ。私が入ったときには、コロナ禍ということもあり私以外のお客さまはゼロな状態。会場内は、製造元の方や作家さんなどが各コーナーにいらっしゃり、まさに私は飛んで火にいる・・・状態。特に危険な香りのする作家さんの前をスルーしようとしたのですが、紅型の染帯が目に入り、ついうっかり足を止めてしまいました。
そこは、作家の藤原さんという方のコーナーでした。そして気づいたら、緑地にゴーヤの実と葉と黄色い花が咲いた染帯に目が釘付けに。こんな構図は見たことない、しかもゴーヤ、足を止めるどころか、座り込んで藤原さんのお話に耳を傾けている私がいました。藤原さんは、芹沢派の下平清人先生に師事、沖縄で修行された方だそうです。なるほど、だからゴーヤなのね。正確には、沖縄で制作されたものではないため、紅型ではなく型絵染というようです。ゼンマイを織り込んだ紬地で、お太鼓の裏が染めのグラデーションになっていて、手の先までずっ〜とゴーヤの柄が続く全通になっていて・・・などなど、藤原さんが説明してくださいました。

ところでゼンマイ?
気になってしょうがないため少し調べてみましたところ秋田県に「ぜんまい白鳥織」というものがあり、途絶えた技術を蘇らせた現在は「天鷺ぜんまい織」というものがあるそうです。民俗学者の竹内淳子さんによりますと、ゼンマイの若芽の頭部を保護するように覆っている綿毛をモメン綿や真綿などに混紡して緯糸にして織り込んだものだそう。モメン綿や真綿などに混紡して作る特殊なゼンマイの糸を使ってまでして布を織りたいと願ったのは、モメンが貴重品であった時代の東北地方の人々が、モメンの使用量を減らして、厳しい寒さから身を守るために、すこしでも暖かい衣服を身につけたいという知恵からではないか、とのことです。

参考文献
・竹内淳子、1995、ものと人間の文化史 草木布、法政大学出版局

結局、そのゴーヤ柄の染め帯は私の手元にあります。それ自体にとてもインパクトのある柄の帯なのですが、紬の着物の上に置いてみると、 意外にどんな色でもしっくりくるようです。もしかしたら、ゼンマイの茶褐色が、着物の中にある様々な色を吸収して馴染ませる力があるのではないかと。恐るべし、ゼンマイパワー!

若いころ、紬の着物には緑地に白いうさぎの塩瀬の帯をもっぱら合わせていましたが、これからは、この帯がヘビーローテーションになりそうな予感です。それにしても、何故ゼンマイを織り込んだ紬地にゴーヤ柄を染めたのか・・・について藤原さんにいつか聞いてみたい、着物がたりです。

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