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#短歌

有翅・劣化・代償(2019)

有翅・劣化・代償(2019)

「偽果熟れり」 販売機の罅割れし声 鉄の踵で花を辿れば

みな夏の殉ずるときを待っているひかりのせかい・罪なき地上

いまはまだ二万字という裸体だがあなたにはおしむらくも名がある

敵機なし 楽園跡地の海辺では姿を捨てた兵たちの唄

澄んだ青は記憶にしか定着しない 野原の青き草の臆見

生命の正体は湿り気どうぶつがなにかの体液てからせている

閃光が星座を絶ちて沈黙の闇に臆せず雨を歌えば

犬の目

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象牙の塔(2020)

象牙の塔(2020)

夜を編み上げればひとはそのなかで猫を飼おうと言い出すのかも

果てしなき熱病に影は君臨す蒼き蝉の亡霊をしたがえ

自刃した記憶の宿り木 小鳥らは白き骸に首をかしげて

いまはもう手をつなぐよりはればれとさわらないでと微笑める街

花瓶があるすべての花が枯れてきたその死に場所として、花瓶が

肉片はいつまでも光り輝きて金魚は死んだなどと思わない

この世から聖者の寝具消えたとて暮れれば愚者の褥にねむ

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顔なき友(2018)

顔なき友(2018)

またシャツに穴あけましたね寝たばこの癖は千年直さないまま

ネクタイが互いの首を締め付けるリボンであれば可愛きものを

我が肉はエヴァンと呼ばれ桃よりも林檎よりも瑞々しく赤

本当のくづれゆく輪は花のよう にしゃりと亡ぶ時を高めて

命の夜 翁の腕は盤石の時をつぶせりひとはかげろう

諦念の夜こそ駆けよと教えたる師の眸( め) 破獄のごとく瞬く

光への不信を超えて探さねばならない時層を掘削せしめ

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月のウィータ(2016-2018)

月のウィータ(2016-2018)

ああ友よ星とスミレを匙に溜め夜によりよく我をしとねよ

ふるさとは要らない黒の背広着て高きヒールで時空を翔べば

黄金に冴えたる月のウィータからいざ分岐せし時を走破す

目を閉じて夜は瞼の紫に虫の卵を産むのだからね

身体を投げ記憶消せど涙さえ有れば重たく沈む魂

にんげんが機械化するのは細部から爪に歯・体毛・それに眼球

悪い宿命などない命は尽きるから真綿の星に旗は立たずに

浴用の白衣に宿る音

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