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第62話「世の中はコインが決めている」

「なんでわかったんですか!?」

「やっぱりそうなのね!いや〜、まさか二子さんの息子と寝るなんて驚いたわ!!」ハナちゃんはそう言って、コーヒーをテーブルに置いた。

 確かに、僕もハナちゃんと寝てしまうなんて驚いてる。しかも、母親のことを知っていた。どうやらハナちゃんと母親は、当時一緒に働いていたみたいだ。だったら、絵馬さんのことも知ってるはず。

「まぁ、寝てしまったのは仕方ないわね。それよりも、どうしてもっと早く言ってくれなかったのよ。二子さん、どうしてるの?」

「母は十年前に家を出て、それから帰ってきてません。失踪というか、僕もわかってないんです」

「そうだったのね。それじゃあ、二子さんが勝手に店を辞めたのも知らなかったのね。そうか、あれから十年も経ってるんだ。早いなぁ……」

「教えて下さい。母が当時働いていたことを。僕、何も知らないんです。スナックで働いていたことも内緒にしてたみたいだったし」と僕は母の顔を思い浮かべながら言った。

「二子さんと出会ったのは、私が高校を中退したとき。その頃、どこで働こうか職を探していたのよ。それでたまたま、この店を知って働くようになったの。十年以上前の話よ。私が働いて二年ぐらい経ったときかな、ママが二子さんを雇ったの。そうだな、はじめくんが中学生のときじゃない」

 そんな昔から働いていたのか。だったら、絵馬さんはそのあと働いていたことになる。さらにそのあと、母に誘われて狛さんも働いている。まさか、ハナちゃんがそんな昔から働いているとは驚いたけど……

「二子さん、人気があったのよ。美人だったし、聞き上手な人であっという間に一番人気になったわ。いつも息子さんのこと話してたわね。ほら、鳥居って名字が珍しいでしょう。それで、はじめくんが二子さんの息子だと思ったの。あなたは二子さん似なのね。ハンサムな顔してる。それに私好みでもあるわ」とハナちゃんはそう言って、悪戯っぽい表情をした。

 ハンサムなんて言われたら照れる。でも、確かに母は綺麗な人だった。女手一つで不自由なく僕を育ててくれた。働きづめだったけど、決してつらそうな姿を見せなかった。でも、ホントは夜の店で働いていた。実際は苦労してたのかと考えたら、今こそ会って感謝を言いたかった。

「あの、ここで働いてるとき、仲良かった人とか知らないですか?」

「つまり、はじめくんは家を出て行った二子さんの行方を探しているのね」とハナちゃんが聞き返す。

 強ち間違いではない。絵馬さんの素性を調べること。銀次郎のことを探ってるなんて言わない方が良い。ここは母の行方を探すためと、何か手がかりがないか探してる。ハナちゃんにはそう思ってくれた方が調べやすい。

「そうね。二子さんが店を出て行ったあと、カナエって子も辞めたの。彼女は二子さんと仲良かったからね。もしかしたら、何か知ってたかもしれないわね。今となっては無理な話だけど」

 カナエは絵馬さんのことだ。驚いたのは、母が絵馬さんと仲良くしていた?だったら、狛さんは知らなかった。いろんな考察ができるが、これでたくさんの繋がりが生まれた。あとは、銀次郎との繋がりだけだ。

「カナエさんという女性が辞めた理由とか知ってるんですか?」

「ああ、これよ。コレ……」とハナちゃんはそう言って、親指を立ててアピールした。

男関係だと判明した。これで銀次郎が関わってくる可能性は高い。それに、絵馬さんから聞かされていた。スナックで働いてるとき、しつこいほど銀次郎から誘われていたと。

 そして、ここまでの話を聞いて思ったことは母親もまた、銀次郎と繋がりがあるかもしれないと思うのだった。

第63話につづく

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