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第21話「アネモネ」

ー初日ー

アパートの前で待っていると、重低音を響かせた白のアルファロメオが停車した。助手席の窓が半分開いて、運転席から神宮寺琴音が笑顔で挨拶をしてきた。軽く頭を下げて会釈したあと、僕は助手席に乗り込んでシートベルトをした。

高級車に乗る事自体が初めてだったので緊張してしまう。まさか初日から同行するとは思わなかった。

予想外だったので、高級車で気を使うことになり初日から疲れてしまう。だが、金の問題もあり文句は言えない。

「神宮寺さん、わざわざアパートまで迎えに来てもらってすいません。仕事の方は良かったんですか?」

「平気よ。それに私たちはチームなんだから協力しましょう。カルマの死の真相を知りたいもの同士なんだから」神宮寺はそう言って、胸元に掛けたサングラスを手にした。

初めて会った時、ドレス調のワンピースだったので、花柄のブラウスは雰囲気が違って見えた。四十八歳に見えない。横顔は大人の色気が溢れている。芦ノ湖までの道中、僕は樹里から聞いた話を神宮寺へ教えてあげた。

「アネモネの花言葉?」と神宮寺が不思議そうに聞き返した。

「ええ、カルマはいつかの時、友人の樹里にそんな言葉を残したんです」

「それで、アネモネの花言葉って?」

「はかない恋とか。他にもあるみたいです。僕の友人、樹里がカルマから聞いたそうなんですが、ホントかなって思います」

「それは何故?」と神宮寺が質問した。

「カルマからアネモネが好きとか聞いてなかったし、僕に言ってないのが不自然すぎる」

「それって、あなたに言いたくなかったかも知れないでしょう。変な誤解を生むような事はしたくなかったかもね」

それはあり得る。僕は不器用だから、あえて言わなかったのかも知れない。だから樹里に言った可能性もある。結局、アネモネの花言葉から何もわからなかった。

『はかない恋』がカルマの死と関係している?

果たして僕たちの行動は意味があるのだろうか?

この三日間で解決するとは思えない。それでも協力する事になった。不安のまま目的地へ向かって行く。車は高速に乗ると芦ノ湖付近で降りた。僕を乗せた車はカルマの事故現場へ向かった。

数年振りに訪れる。カルマの死因は溺死だが、当時警察は自殺の方面で捜査をしていた。

数時間後、芦ノ湖付近まで到着すると胸が高鳴り始めた。もうすぐカルマの事故現場へ到着する。あの日以来、僕は事故現場の光景を想像しないようにしていた。

だが数年振りに訪れる事になった。

もう後には引けない。そんな僕の気持ちとは裏腹に車は事故現場に到着した。

「ここがカルマの死んだ場所・・・・・・」と神宮寺がエンジンを切った後、独り言のように口にした。

「えっ、あれって・・・・・・」と僕は車から飛び出すようにドアを開けた。

数年振りに訪れたカルマの事故現場で、僕は信じられない光景を目にするのだった。一体誰がこんな事を・・・・・・

僕が目にしたのは現場に供えられた花。あのアネモネが供えられていた。花の状態を見る限り、ここ最近だとわかった。数年前の時も誰かが献花していた。誰かが数年に渡って花を置いている?

「ねぇ、もしかしてそれって?」と神宮寺も車から降りて言う。

「ええ、アネモネです」

やっぱりカルマの死は謎がある。僕たちは一気に緊張するのだった。

第22話につづく

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