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第114話「世の中はコインが決めている」

 ー翌日ー

 アタッシュケースを目の前にして、僕は複雑な表情になった。思い出すのは数日前のこと。正論くんから打ち明けられた内容のことだ。

「ホントに資本金ってやつ?」と僕はアタッシュケースを見ながら訊いた。

「そうだよ。君のマンションに届けてもらうようにお願いしてたんだ。これで金は手に入った。来月から始めようと思ってる」と正論くんは普通に言うのだった。どこまで本気なのか信じられない。

「君がボスで、僕とハナちゃんが助手なんだよね。冗談とは思わなかったけど、僕たちに務まるのかな?」

「問題ないだろう。主に動くのは鳥居くん。もちろんブレーンは僕。ハナちゃんは事務員。スナックでの経験は経理に向いてると思ってたからね。楽しみだな。ずっと夢だったんだよね。誰にも解決できない事件を扱う。それが僕たちの探偵事務所だ!」

 数日前に打ち明けられたこと。それは僕とハナちゃん。そして、ボスとして正論くん。僕たち三人で、探偵事務所を立ち上げることだった。

 その資本金として、演説男。いや、黄金銀次郎から資本金を出してもらったのだ。

 これが一つ目の取引。今回の件、始まりは地下室の存在。そして、奇妙で不思議なピースと呼ばれる商品。

 そんな商品に関わった人々。裏で悪事を重ねていた店長。そんな店長の悪事に協力するをフリして、近づいたのは我らのボスで正論くん。

 正論くんに誘われて、僕たちは名もなき会社の秘密に迫った。そこで出会った問題ありの人々。僕の母も関わっていたけど、僕たちはこうして秘密に辿り着いた。

 ピンチな時もあったけど、最終的に取引という形で幕を下ろしたのだった。

「不安は残るよね。幾ら君が完璧なシステムを提供したからって、銀次郎さんがこのまま黙って終わるとは思えないんだけど。しかも、探偵事務所の資本金まで援助してくれた」

「取引は成立したんだよ。心配することはないさ。『この世は取引で成り立っている』ある経営者の言葉なんだけど、知ってるかい?」と正論くんが訊いてきた。

「知らない。それが何か?」

「銀次郎さんの言葉なんだ。僕が地下室で会社の情報を手に入れただろう。そのとき、商品の秘密や組み立てられた人間の情報を得た。実は、その情報の中で会社のモットーが記載されていたんだ」

「それが、銀次郎さんの言葉だってわけ?」

「ああ、だから僕はモットーに従ったままに過ぎない。この世は取引で成り立っているなら僕なりの提案をしたんだ。銀次郎さんがモットーを大切にする人間ならば、きっと成立すると踏んだ。まぁ、成立しなかったら終わってたと思うけどね。僕らしくはないけど、一つの賭けに出たんだ」と正論くんは、お得意の耳たぶを触りながら教えてくれた。

 アタッシュケースの大金は、銀次郎さんからの信頼という証かもしれない。あくまでもこの世は取引で成り立っていると。

「これで終わりか。この数日間の経験は二度とゴメンかな」

「何言ってるんだ。来月からは、もっとスリルある経験が待ってるんだぜ。僕たちの探偵事務所はこの世で未解決の事件に迫る。まぁ、作者的には新しい物語が書けるから良いだろう」

「作者的?どういう意味なんだよ」

 ホント、たまに僕らのボスは理解し難い発言をする。まぁ、そんな正論くんだけど、彼と一緒なら、退屈な日々は過ごさないかもしれない。

 この日、僕たちは新たな道に向かって歩き出そうとしていた。

第115話につづく

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