第31話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」

確か、桃香はこの部屋を慎重に選んでいた。あのとき、僕は何故それについて聞かなかったのか。目立たないように生きてきた癖が、疑問という塊をぶつけようと思わなかった結果なんだろう。

このラブホテルを選んだのは桃香で間違いない。それは嘘偽りのない真実だった。だったら、桃香は初めからルールを破ろうと考えていた。


すべては計画のうち!?


だけど、僕が大人の成人式へ参加すると予想をしていたとは思えない。そんなことがわかる人間は存在しない。それに、僕と桃香は保育園を卒園して以来会っていない。でも、桃香は人の思考を読み取ることができる。それも嘘偽りのない事実だった。


『マスタードの抜いたホットドッグなのよ。もっと経験を積まないと上手くできないわ』と彼女は思考停止間際の僕に言った。


ベッドの中で膝をつけて、僕の目の前に豊満な胸を露わにした。思考停止から本能のスイッチが無条件で入った。願望の世界と彼女は教えてくれた。それは時空さえも超えた世界なのか?

それとも、夢を混ぜ合わせた世界なのか。どちらでもないと彼女は言う。どちらでもないーーーーは答えになっていないと言った。


そう言ったのは僕だった。


『本能は考えて行動しないのよ。答えにこだわるようでは終わり。省吾くんがあのとき、何を思いながら桃香ちゃんとセックスをしていたの。きっと、何も考えていなかったのよ。ただ欲望という本能と本音があったの。それは思考にも近い感情だったわ。こんなふうに……』


見知らぬポニーテールの女の子は顔を寄せて、僕の唇へキスをした。慣れない新車を乗り回すより簡単なことなんだ。重ねた唇に僕はキスで答えた。本能という塊がキスを教えて、僕は彼女とのキスに溺れた。

あまりにもスマートなキス。そしてスウィートなキスは続いた。風に吹かれて倒れるように、二人はベッドへ沈んだ。彼女は結んだ髪を解くと、ベッドに沈んで微笑んだ。女神の微笑みは優しさとぬくもりを与えた。

キスから本能は胸へ、どんなものより柔らかい胸の感触に気持ちが高ぶる。美しい乳首を指先で触れると、僕の下半身も大きくなっていた。舐めたいと思考するのではなく、本能で舌を使って舐める。


「美味しい」と鏡の中の僕が呟いた。サンドイッチの中身を大切にする感覚ではなかった。ショートケーキの苺を味わうように、僕は彼女の苺を舐めては吸った。

味のなくならない蜜を舐めてる感覚。麻薬のような感覚は、究極の食材を求める欲求に似ていた。そして、メインディッシュはジューシーな肉厚のあるステーキ。


指先で肉厚なステーキを確かめる。ジューシーな肉汁が溢れるように流れていた。僕は我慢ができなかった。指先では満足できないから、本能のままに彼女の溢れた肉厚に舌を使った。

ジューシーな肉汁を舌で味わっては幸福へと導かれる。美味しいものは何度味わっても堪らない。僕は無我夢中で肉厚への愛をやめなかった。激しい声に桃香とは違うと思った。


僕と桃香のセックスはじゃれあい。ポニーテールの女の子が数分前に言った言葉である。

確かにそうかもしれない。僕らはあまりにも経験が未熟だった。彼女が身体を震わせて、腰から上へ身体を跳ねるように動かした。


『イっちゃった……』


彼女が果てたと鏡の中で僕が呟いた。彼女が果てたことに、妙な優越感と支配した感情が溢れた。もっと彼女を気持ち良くさせたい。もっと彼女を味わいたい。

思考は完全に、本能という塊が支配した。僕が彼女の股の間から顔を上げたとき、彼女は恍惚な表情で僕を見つめていた。


そして……


『潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く』と彼女は呟くのだった。


僕と彼女が再び出会うとき、それは事実でもなく、潮彩の僕たちは宛てのない道を歩くという言葉の始まりでもあった。


第32話につづく

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