第55話「世の中はコインが決めている」
一人じゃ心細いだろと、正論くんが駅で待ち合わせてくれた。駅前へ到着すると、相変わらず一人の男性が演説をしている。毎回の光景だったけど、ホントに男性は飽きずに演説を続けるのだった。
「おはよう。待ってたよ」と既に正論くんが改札口の前で待っていた。
「今日はありがとう。ホントは不安だったんだよね。助かったよ」
「良いってことさ。それより珍しいなぁ、もしかして、弁当持参じゃない」と正論くんが手に持っているトートバッグを指差した。
相変わらず鋭いなぁ。トートバッグを見て、弁当持参と的中させるところがすごい。誰が作ったのか聞かれなかったけど、内心は何か勘付いてるかもしれない。
きっと正論くんのことだから……
「そう言えば正論くん、一人で何か調べると言ってなかった?」と僕は急に思い出したので訊ねた。
「大したことじゃないけど、絵馬さんと店長の関係を調べてたんだ。実は店長って僕に対して口が軽い方なんだよね。デタラメな話をして探ろうとした。それでわかったんだけど、店長と絵馬さんは愛人関係じゃない」
「そうなんだ!どんな嘘をついて聞き出したの?」
「シンプルに聞いたのさ。変な噂を聞いてて、賽銭の奴が絵馬さんに色仕掛けをしてますよってね」
「そんな嘘をついたの。それで店長は何て答えたの?」
『これは内緒なんだけど、正論くんだけに教えてあげる。実は絵馬さん、上の人間と愛人関係なんだ。誰かは知らないけど、そんなことを話してるのを盗み聞きしたんだ』
「ベラベラと喋ってきたよ。聞いた感じだと嘘じゃないな。つまり絵馬さんは誰かと愛人関係なんだろう」と正論くんは耳たぶを触りながら言う。
店長と愛人関係じゃないとは思っていたけど、まさか、上の人間と愛人関係だったとは思わなった。少しだけショックだったけど、今となっては現実を受け止めるしかない。
「僕の予想だと絵馬さんと深い関係なのは、先代の黄金銀次郎と思ってる。そうに違いない。でも、実際のところ銀次郎は表に出てくるような人物じゃない。店長に聞こうと思ったけど、僕たちが秘密を暴こうとしてるのがバレると不味いから、とりあえず聞いてはいないけどね」
「だから今晩、スナックを訪ねようと思ったんだね」と僕は訊いた。
「それもあるけど、君の母親が働いていたのは大きいよ。そこで作戦を立てたんだけど」正論くんはそう言って、今晩の計画を話してくれた。
なるほどーーと僕は頷いた。これなら不自然じゃないと思った。これで今晩のミッションも大方決まった。あとは吉と出るか凶と出るか。
僕たちは一つの思いを胸に、電車へ乗り込んだ。
第56話につづく
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