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第22話「蛇夜」

このまま部屋の中で籠城してても意味がない。扉越しに耳を傾けて、そっとドアノブに手を置いた。恐らくだが多分平気だろう。僕の予想が当たっていれば謎の人物は襲ってこない。


何故なら事件当日、羽鳥武彦は襲われてもおかしくなかった。だったら、何故、彼は襲われなかったのか?


それは、日比野鍋子と一緒に会社を出たと言うこと。襲うつもりなら、相手が一人になったとき。それが一つ目の条件だと考えた。現に一ヶ月前、日比野鍋子は一人のときに襲われている可能性が高かった。


だったら、僕たちは襲われない。数分前、僕は謎の人物に助けられた。だから僕も襲われなかった。仮に蛇が襲って来ると仮定して、ヤツは複数の人間が居るところでは襲わない。そう考えても良いだろう。

だが、今回の奇妙な事件が蛇と関係してるのか、それを決めつけるのはまだ早すぎる。あくまでも仮の話だ。


僕は先頭に立って扉を開けた。上半身を出して、左右を見渡すが廊下に誰の姿もなかった。やはり、僕の予想通りである。謎の訪問者は一人になったときを襲う。もう、そう思ってもいいかもしれない。


「誰も居ないわね。お兄ちゃん、このまま帰る?」と雫が僕の背中に向かって訊いてきた。


「とりあえず帰ろう。詳しい話は僕の家でゆっくり話せば良い。ここに居ても危険だ。あとで話すけど、ここに来てから奇妙な出来事は起きてる。今夜は一旦帰って、作戦を立てよう」


「先輩すみませんが、僕は明日も仕事なんで、今日ところは退散しても良いですか?例の鱗の件はパソコンで添付した資料を送ります」


羽鳥を一人で帰らすのは心配だったけど、僕たちも含めて、まだ襲われる条件は揃っていない。もう一つの条件は恐らく、謎の人物が言っていた言葉である。


『見たらダメ』が最後の条件。


タクシー乗り場で別れて、僕と雫は家に向かい、羽鳥武彦も自分の家へ帰るのだった。家に向かう道中、雫が半分眠たそうな顔をして訊いて来た。


「ねえ、お兄ちゃんは今回の件、どう思ってるの?まさか、ホントに蛇が襲ったなんて考えてないでしょう」


「半々かな。日比野鍋子の死に方を考えると、そうかもしれないって思うところもある。それに、羽鳥が見つけた鱗だって謎だ。興味はかなりあるよ。それと雫には先に話すけど、一人で第二部署へ向かってるとき、奇妙な出来事があったんだ」


僕は自分が体験したことを事細かく説明した。女トイレから出てきた謎の人物。(但し、その姿は見ていない)。

背後から忍び込んできた謎の女(声が女性だったので、仮に謎の女とする)。


「嘘!なんで言わなかったのよ。それって、絶対ヤバいじゃん」


「ほらな。お前に話したら、きっとパニックになると思ってたんだよ。話さなくて正解。まあ、何を見たらダメなのかは謎だけど、それがわかれば一番良いんだけどな」と僕はわりかし冷静に考えていた。


とにかくこの件は『蛇』が大きく関わっている。そして、謎の女の存在や得体の知れない人物。奇妙で不可思議な話だけど僕は大変興味を持っていた。


数分後、家に到着すると、お気に入りの珈琲を淹れてあげた。妻と子供の姿がなかったので雫が変に疑って、めんどくさかった。今頃、妻と娘は遠い海外で観光を楽しんでるときさ。


そして、珈琲を飲み終わる頃、羽鳥武彦からメールに添付されたデーターが送られてきた。無事に家へ着いたようなので一様は安心した。

早速、送られてきたデーターを見ることにした。


文面は謎の鱗についての情報。そして鱗に付着していた成分から割り出した場所が記されていた。


「三重県伊賀市の山奥にある山。山の名前は黒土山。独特な黒い土が名前の由来なんだって。いや、正式名は違うようだな。蛇足山(だそくやま)が正式名みたいだ。やっぱり蛇が関係してるみたいだな。雫、どうする。僕はもちろん三重県伊賀市を訪れるけど」


「ま、暇だから付き合うよ」と雫はそう言ってから、呑気に欠伸をするのだった。


参ったなと僕はため息をして、羽鳥武彦が添付して送ってきた鱗の写真を眺めた。三重県伊賀市の山奥にある黒土山。そこに行けば秘密がわかるのか?


果たしてこの奇妙な事件、無事に解決するのか少しだけ不安だった。それでも僕の追求したい気持ちは止まることはないだろう。


第23話につづく

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