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第65話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」

あれから数ヶ月が過ぎた……


春は終わり、季節は夏真っ盛りと変わった。キンキンに冷えたかき氷を食べては、こめかみの冷たい痛みに耐えた。その横で美鈴はケタケタと笑い転げている。水玉模様のビキニを着ていた美鈴。付き合ってから始めて美鈴の水着姿を見た。

普段、裸は見慣れているはずなのに、水着姿は特別な魅力を発揮していた。


平日休みと夏休み前ということもあって、海水浴場はまばらな人しかいなかった。これはラッキーと美鈴は大胆にも、いつもと違って密着を好んだ。波しぶきをかけあい、海の中で跳ねたり踊ったりとじゃれ合う。遠くの海岸では波乗りのサーファー達が遊覧船みたいに漂っていた。


昼過ぎになった頃、僕たちは海水浴場から離れた場所で休憩をしていた。太陽は青空の真上でギラギラと照りついている。シートの上で美鈴は仰向けで寝転ぶ。

僕も隣に寝転んで、ビキニの上から胸を触った。誰もいなかったし、今日の美鈴は大胆だった。僕を引き寄せると、海の家で買ったビールを口移しで飲ませた。


「美味しい?」と唇を離して言う。


「もっと美味しいものが欲しいかな」僕が言葉を返すと、美鈴は上半身を起こして左右に視線を移した。


「誰もいないよ」と小さな声で僕が言う。太陽のギラギラと僕のギラギラした目が重なるようだった。美鈴は少し笑って、思考を読み取るように見つめた。僕の目が願望でギラギラしていたのだ。美鈴は首に巻かれた紐を緩めると、水玉模様のビキニを外して手のひらで隠した。まるで誰かがいるかもしれないと警戒してるみたいだ。


「私の胸がそんなに美味しい?」


「ああ、君の胸は美味しいよ」


手のひらのビキニがハラリと離れると、僕は淡いピンクの乳首へ吸い付いた。シートに倒して、夢中で獣みたいに乳首を吸っては舌で転がした。

ギラギラな太陽の下、ギラギラな目をした獣は欲望と妄想の心で狂乱になった。ギラギラの太陽が二人の影を重ねては焼くように動いていた。


夕方の顔を覗かせた太陽に、さよならを交わす。海岸線を車で走らせて、助手席で眠る美鈴を見つめた。今夜は疲れて眠るだろう。僕の横で眠ることはないけど。


母親に借りた車を返す前に、僕は一旦、美鈴をマンションへ送った。よく眠る美鈴を起こして、母親に車を返してくると告げた。何の疑いもないだろう。そんな自信もあったし、僕としては他ごとばかり頭の中で考えていた。


「お母さんによろしく言っといてね。それとわかってると思うけど」


「ああ、今度会わせる約束だろう。わかってる。ちゃんと戸締まりするんだよ。明日の昼過ぎには帰るから」僕はそう言って、車を走らせるのだった。


今夜は久しぶりに、実家へ泊まると言っていた。だから、美鈴を先にマンションへ送り届けたのだ。けれど、それは美鈴だけに伝えた話。実際は実家に車も返さないし、泊まることもなかった。

今日一日の計画はすべて数日前から決まっていた。それを知っているのは、僕と彼女だけ。


実家とは反対方向に車を走らせる。数分後、ある場所まで来ると、パーキングへ車を停めた。すっかり日は沈み、淡いオレンジ色の夕焼けが街を染めていた。

歩き始めて十分、目的のアパートへ着くとインターホンも鳴らすことなく扉を開けた。すると、目の前に待ち構えていた女の子。


そして、僕は一言……


「手に入った?」


僕の心は確実に獣へと変わっていた。


「うん、手に入ったよ。海ちゃん」と出迎えた桃香が言った。


「そうか、ありがとう」


相変わらず、僕が来る時間をわかっている。紙袋を僕に渡すと、桃香はキッチンへ戻って冷蔵庫から缶ビールとクラッカーをテーブルに用意した。これも僕の望んでいたことだった。桃香は僕の思考を読んでは、すべてにおいて完璧にこなした。

第六感があると言っていた。言っていたのは二十歳の長谷川千夏。千夏先生と言えば、僕らの恩師で桃香の知り合いでもあった。


缶ビールの蓋を開けて、桃香が僕の前に近寄った。そして、巻き煙草を口にくわえて、自らライターで火を点けた。火の点いた巻き煙草をゆっくり吸ったあと僕の方へ手渡した。

僕も同じようにゆっくり吸って、歪んだ笑みを口元へ浮かべた。口移しでビールを桃香の唇へ移して、昼間の海水浴場でした光景と重ねた。


美鈴がした行動を、そのまま桃香で再現してるみたいだ。一瞬、罪の意識があったけど、それはそれで煙のように浮かんでは消えた。巻き煙草を吸って、ビールを飲んで、クラッカーを齧って桃香と濃厚なキスを繰り返す。

僕の心は確実に獣へと変貌していた。朋美が残した巻き煙草。僕は知ってしまった。これが大麻ということを。それでも僕はやめなかった。大麻に溺れて、現実の世界から願望という欲望の扉を開いてしまったのだ。


そして、同じ道を歩むのはすべてを知っている桃香。彼女にはすべてを話していた。大麻の存在。北城美鈴の存在。雛形朋美の存在。二十歳の長谷川千夏の存在。それでも桃香は離れない。僕の言うことを否定しなかった。

あの大人の成人式で出会った瞬間から、桃香は僕のすべてを許してくれた。

桃香の喜びは、僕の喜びであって、頭の中は僕でいっぱいだった。


だから、桃香がどうやって大麻を手に入れたのか知らない。それについては知ろうとも思わなかった。僕のために行動して生きる女。僕の思考を読み取って、僕が言う前に行動してくれる。

僕が望む欲求に答えてくれる。僕が、僕が、僕が、僕が絶対的な存在で成り立っているのだ。


「桃香、幸せかい?」


「うん。私の望むことは海ちゃんの望み。だから私は幸せなの。私は海ちゃんの思うままに生きるわ」桃香はそう言って、ワンピースを目の前で脱いでくれた。


小さな胸を二の腕で寄せて、桃香は僕の口元に近づけた。甘い香りと巻き煙草の煙が漂う中、僕はオーラルに没頭した。そして、二人は夏の蒸し暑い空間でセックスを始めた。甘酸っぱい汗を重ねては、何度も何度も繰り返し溺れた。


真夜中の電話で起こされたとき、僕は酷く喉の渇きを感じていた。隣で桃香が小さな胸を露わにしながら眠っている。

五回か六回ほどコールが鳴ったあと、電話の音が鳴り止んだ。着信履歴を確認すると、知らない電話番号だった。


誰だろう……?


数分後、電話は再び鳴るのだった。


第66話につづく

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