第12話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」
彼女が桃香のことを見て、そんな風に考えたとき、物語は数分前を語ることになった。
沈黙から少しずつ会話を始めた二人。まるで、二人は慰めるように密着していた。
「ねぇ、海ちゃんは三つ目のルールを守ってる?」会話の流れから、大人の成人式へ参加するためのルールを話し始めた。
「守ろうと思っていたのかわからないけど、僕はこれと言って、女性と縁があったわけじゃないんだ」と特に恥ずかしいことではなかったので、僕は正直に打ち明けた。
三つ目のルールは経験しないこと。これに関しては僕の中で一番軽いクリア条件だった。学校生活で女友達はいなかったし、そういう雰囲気になることもなかった。だから、三つ目のルールは眼中に無い。
「私も処女だよ。今どき珍しいけどね。周りの友達からは、天然記念物とか言われてたよ」
「そうなんだ」と言ってから、桃香が処女であることは当たり前である。もしも違ったら、ここへ来る意味がなかったから。それこそ分かり切ったことだ。
「ねぇ、海ちゃんは興味なかったの?セックスをしたいと思わなかった」と桃香がストレートに聞いてきた。
「興味はあるよ。僕も男だし、人並みに性欲はある方だよ」チラッと見てから、ソファーへ座る桃香に答えた。
「…………」
「だったら、一歩手前まで経験しない?」と桃香が悪戯っぽい表情で女の色気を魅せた。
初めての経験とは、唐突に起こる出来事なんだろう。しんしんと降る粉雪が僕の瞳に映ったとき、潮彩の僕たちが始まろうとしていた。
第13話につづく
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