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第47話「世の中はコインが決めている」
こんがりと焼けたトーストを齧る。マーガリンじゃなくて、バターが塗られていたので旨さは抜群だった。
塩加減が絶妙な目玉焼き。初めて部屋に入って、いきなり朝食を一緒に食べるなんて驚きの光景である。何か会話をしなきゃと思ったが、狛さんは気にすることなく食べていた。
上品な食べ方をする人だと思った。小さな口で咀嚼する音さえ聞こえない。彼女は専業主婦なんだろうか。他人のことだけど、聞いてみても良いかもしれない。
「はじめくん、美味しい?」
「えっ、ああ、とても美味しいです」と慌てて答える。話しかけようと思っていたので、不意打ちの質問は焦ってしまう。
「二子さんのことだけど、彼女と仲良くなったのは、私が人見知りで町内会の人たちと上手く付き合えなかったからなの。そんな私に二子さんが見兼ねて話しかけてくれたのが仲良くなったきっかけね。ホント、あのときは助かったわ。二子さんが居なかったら、私はずっとひとりぼっちだったかもしれない」
「そうなんですね。母は人一倍正義感の強い人だと思います。でも、母が町内会に出席してたのは驚きですね。父と離婚して、女手一つで僕を育ててくれたから。それに夜もスナックで働いてました」
「そうそう、私も二子さんが働いてるスナックでバイトしたことあるのよ。家で一人だったし、そんなんじゃダメになるわよと二子さんに言われて誘われたの。半年だけ働いたんだけど、あれは貴重な体験だったわ」と狛さんは当時を振り返って言う。
「それじゃあ、母が失踪してからスナックで働いてないんですか?」
「ううん。二子さんが働いてるときに辞めたの。店で働いてる女性と気が合わなくて。まぁ、私みたいなバイト感覚で働くことが気に入らなかったんでしょうね」
「へぇ、そうなんだ。でも、狛さんはモテたんじゃないですか?」と僕が言うと、狛さんは照れながら首を横に振って否定した。
「あの頃は若かったけど。今はもうおばさんよ」と狛さんは笑いながら言う。
そんな彼女を見て、僕は弓子さんのことを思い出すのだった。彼女も同じことを言っていた。
自分なんて、おばさんなんだからって……
朝食が終わって、僕がコーヒーを飲んでる間、狛さんはキッチンで洗い物をしていた。横目でその様子を眺めていると、僕は妙な感覚を感じた。
なんだろう。この感覚は……
何か、何かを感じる。それが何かわからないからもどかしい。でも、狛さんを見るたびに妙な感覚が大きくなっていくのだった。
第48話につづく
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