【初稿版】バイバイバグ
この作品は、第225回コバルト短編小説新人賞で「もう一歩」になった作品の、初稿版です。
普段は初稿から完成稿までそんなに大きく路線変更をしないのですが、今回は
「何をどうしたらこうなったの?」
というレベルでまったくちがうオチになっていたのが面白くなって、限定公開します。
見直しをする前の段階なので、誤字脱字があるはずです。
ご指摘はいりません。初稿をそのままアップしています。
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本文読まないけどどう違うのか気になる、という方向けにざっくり言うと、
・完成版→ちょっといい話ファンタジーホラー系
・初稿版→ガチホラー系
くらいのちがいです。
ホラー苦手なのにホラーを書く人間。
それが私。
※※※
今日も散々だった。
夜になってもちっとも涼しくならない中、ふぅふぅと息を切らして坂道を上る。デブではないが、年齢には不相応にだるんとした身体は、上り坂にすぐにくじけてしまう。
家賃の兼ね合いで選んだ家だが、もっと不動産屋で粘るべきだった。べき、べき、べき。いつだって、後悔だけが頭の中に渦巻いている。
現場を知ろうともしないプロデューサーの、あっちこっちと風に吹かれるがままに意見をコロコロと変える体質。『もっとライトユーザー向けにならないか?』ディレクターによるパワハラ。『言われたとおりの作業しかできねぇんなら、AIと変わるか?』こちらが発見したバグ一覧を見て、舌打ちをするプログラマー。『このくらい自分でなんとかしろよな。使えねぇやつ』・・・・・・。
あいにく、こちとらゲームが好きなだけで応募した、なりたてほやほやのデバッガーだ。バグを見つけるのが仕事で、もちろん、プログラマーと兼務している人間もいるのだが、俺にはその技術がない。
イライラすると、タバコの味が恋しくなる。夜中、誰もいない道を歩きながら吸うタバコの味は、格別だ。
ポケットを探ると、潰れた箱よりも先に、飴がひとつ。同じくデバッガーとして参加している、遠山(とおやま)という女からもらったものだった。
「私たち、プログラミングは勉強中ですもんねー。っていうか、勉強する時間よこせ! って思いません?」
頭を下げて嫌味を聞き流して、ようやくデスクに戻ってきた俺に、そっと彼女は囁いた。入社は先輩でも、遠山は年下だった。
気を利かせて雑談をしてくる彼女に、俺は「はぁ・・・・・・」と曖昧に頷いて、飴はポケットにイン。そのまま忘れていた。
なんとなく、タバコの苦さを求める気持ちは収まって、もらった飴の封を切る。真夏の暑さに、一日中放置されていた飴は溶けてしまっていて、取り出すのに苦労した。
口に放り込んで、すぐに後悔する。特別な子どもにしか与えられないキャンディーは、平凡で平均以下の大人にとっては、ただひたすら甘ったるいだけだった。
それでも俺はいい大人なので、口から吐き捨てることなく、含んだままで家路をえっちらおっちらと歩く。
自宅にたどり着くまでの間に、飴はすっかり小さくなる。普段食べないから、どのタイミングで囓り割るのが正しいのかわからずに、結局最後は、限界まで小さくなったところを飲み込んだ。ガラスの破片を嚥下するような不快感。
鍵を開ける。ひとり暮らしの部屋は、当然真っ暗だ。前の住人が残していった、薄汚れたレースカーテンが、ひらひらと動いているのを見て、舌打ちをした。 朝のわずかな時間、電気代の節約のためにエアコンは入れない。窓を開けてどうにかやりすごすのだが、こうやって閉め忘れることがしょっちゅうだった。
電気をつける前に、ゴミの散らかった部屋を、慣れたステップで渡って、窓を閉める。網戸が緩くなっているから、灯りに群がる習性の羽虫たちが、集まってきてしまうかもしれないからだ。
エアコンを入れて、電気をつけ、そして「彼」はのんきな声を上げた。
「おかえりぃ」
と。
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